自動車で活用が進むX-バイ・ワイヤ
ブレーキやアクセルなどの操作を、電気信号と配線、モーターで行うX-バイ・ワイヤ(X-by-wire)技術がじわじわ浸透してきた。
自動車におけるブレーキやアクセル、ハンドルなどの操作は、これまで物理的な車軸や機械部品を油圧で直接制御してきたが、この操作をエレクトロニクスで行う仕組みである。例えばハンドルでは、従来はハンドルの真ん中にあるステアリングシャフトが2つの前輪に力を伝えていたわけだが、これを機械的な鉄の軸や歯車を使わず、電気的な配線とモーターで前輪の向きを変えようというものとなる。中でも、アクセルを踏む操作を行うスロットル・バイ・ワイヤや、シフトレバー操作を行うシフト・バイ・ワイヤなどはかなり使われるようになってきた。
このX-バイ・ワイヤには、ブレーキやアクセルを踏む位置を精度よく検出するセンサが欠かせない。このセンサには磁気センサが使われることが多かった。踏み込む位置とスロットルの開き加減やブレーキパッドの移動加減をモーターで制御するが、磁気センサは外部磁界の影響を受けやすく、また強い磁界によって磁気飽和が起きると正常な信号を受けられなくなるという弱点もある。特にレアアースなどの元素を磁石に加えると安定した強い磁界が得られるため、ホールセンサはレアアース磁石とはペアともいえるような関係だった。
レアアースを使わずにX-バイ・ワイヤの利用が可能なインダクティブ・センサ
ところが、レアアースの産出は中国に偏在しており、中国の政治的な方針に左右されるという弱点がある。これもホールセンサの弱点につながった。そこで、新たな候補に挙がってきたのがインダクティブ・センサである。このセンサはプリント回路基板上にアンテナのパターンを描き、そのアンテナで磁界を検出するもので、飽和磁化の問題がない。
インダクティブ・センサは特に新しいセンサではないが、磁気センサに代わりうるセンサとしての機会につながっている。米onsemi(オンセミ)は、20年も前からインダクティブ・センサを制御するICチップを出荷してきたが、2023年4月には、自動車のティア1サプライヤであるHELLA社に納めたインダクティブ・センサ制御インタフェースICが10億個に達したというニュースリリースをOnsemiが出している(参考資料1)。このICは、HELLA社の車載用X-バイ・ワイヤ向けの非接触インダクティブ位置センサに使われていた。
インダクティブ・センサの仕組み
インダクティブ・センサは、高校の教科書で学んだフレミングの右手の法則を利用したもので、磁界の向きによって流れる電流の向きが変わるという性質を利用する。このため、モーターのように常にN極とS極が交互に配置されている磁石だとその位置を、電流の向きと回転している角度でわかる。
インダクティブ・センサでは、2枚のプリント基板を用意し、1枚は固定しておき、もう一枚はモータやペダルの回転軸に取り付ける。2枚のプリント基板にはアンテナとなるようにパターンを、軸を中心として点対称になるようにプリント基板上に描いている(図1)。その2枚のプリント回路基板を接触しないようにできるだけ近づけて配置する。近いほど検出感度が高くなるためだ。モーターのように固定されるステーターとしてのプリント基板と、回転するローターとしてのプリント基板の組み合わせで次回から電流を検出するセンサとなる。
ローターとなる丸いプリント回路基板は回転して角度を検出できるようにパターン(アンテナに相当)が描かれている。そのパターンによって発生した交流磁界を電流出力に変換、増幅し信号を処理する。信号処理するICは回転しないステーター側に取り付けておく。
回転するモーターなどの角度を検出する場合は、モーターのように回転しないステーターとなるプリント基板を固定しておき、回転するローターとなる丸いプリント基板を回転軸に取り付けておく。アンテナパターンのわずかな差を角度として検出できる。アクセルやブレーキなどのペダルの軸に、アンテナパターンのついた円形のプリント基板を取り付けておく(図2)。ペダルを踏むと踏み込んだ角度を検知できる。
また、モーターの回転数を検出する場合は、図3のように、四角いプリント回路基板の隅に丸い回転体に沿ったアンテナパターンを形成しておく。この四角い基板がステーターとなり、穴をあけたモーターの軸に回転する丸いプリント基板をローターとして取り付け、回転するモーターの軸に合わせて丸いプリント基板のアンテナパターンも回転することで角度を検出できる。
オンセミが車載対応のインダクティブ・センサを提供
onsemiは、2022年にロボット用の「NCS32100」インダクティブ回転位置センサを発売している。20年以上のインダクティブ・センサの実績があるonsemiにとって、このNCS32100は、高精度・高速の回転位置センサと位置付けられている。回転精度は6000RPM(回転数/分)で±50秒(角度)と高く、精度をもっと落とせば4万5000RPMまで位置を把握することができる。
また、位置検出精度は16bitとNCS32100の20bitよりは落ちるが、車載用途には十分な性能を有する車載グレード対応した「NVS77320」も提供しており、ロータリーエンコーダやリニアエンコーダとして活用することを可能としている。
「もう、磁気センサはレアアースに頼らなくて済むかもしれない」。オンセミのフィールドアプリケーション技術統括部のプリンシパルFAEである後藤智行氏(図4)は、このように語る。インダクティブ・センサはこれまでのホール素子とレアアースモーターの組み合わせに代わる回転制御の切り札になる可能性を秘めている。
参考資料
参考資料1:onsemi Ships One Billionth Inductive Sensor IC to HELLA



