芝浦工業大学(芝浦工大)は6月12日、電気自動車(EV)の走行中に給電を行う「走行中ワイヤレス給電EV方式」の社会実装を見据え、先行研究が少ない道路の舗装表層に給電ユニットを露出させて設置する実証実験を開始したと発表した。
同成果は、芝浦工大 工学部の勝木太教授(コンクリート構造研究室)、同・畑勝裕准教授(先進電源システム研究室)、世紀東急工業 技術部の板東芳博 技術部長、同・加藤裕康 技術企画グループリーダーらの共同研究チームによるもの。
現状におけるEVの課題の1つが、充電時間の長さだ。日中に走った後に夜間、自宅で充電する運用であれば問題ないが、現在は80%まで充電するのに15~30分ほど要するため、ガソリンスタンドでの給油感覚で充電ステーションに立ち寄るには心理的抵抗がある。その理由は、現在の車載用リチウムイオン電池(LIB)が有機系電解液を利用しているためだ。無理な急速充電は、LIBの劣化や安全性の低下を招く恐れがあり、安全性の観点からこれ以上の充電速度向上は容易ではないとされる。
そこで、充電時間を短縮するために電解液を固体電解質に置き換えた全固体電池の採用が期待されている。安全性を飛躍的に高めることで、より高速な急速充電が可能になるからだ。しかし、現状は車載用固体電解質の開発は遅れており、かつて自動車メーカーなどが当初期待していた「2020年代半ばの完成」は困難な情勢となっている。実用化にはまだしばらく時間を要する見込みで、普及価格帯の車両に搭載されるまでにはさらなる時間が必要と見られている。
またLIBは、リチウムのサプライチェーン問題が生じており、価格高騰が車両価格を押し上げる要因に成り得る。加えて、航続距離を確保するために大量のLIBを搭載せねばならず、車重の増加に伴う電費の悪化も招いている。さらに、LIBの劣化に対する懸念から中古車としての価値評価が難しい点も課題として指摘されている。そこで現在、充電時間の短縮やリチウムの調達問題などを解決する手段として、走行しながら路面からワイヤレス給電を行う方式が検討されている。
走行中ワイヤレス給電は、道路に埋設された送電コイルからEVへ非接触で電力を供給する技術だ。一定区間ごとにこの仕組みが整備されれば、搭載バッテリーの小型化/小容量化も可能となる。その結果、車両の軽量化や車両価格の抑制といったメリットが期待される。
これまでの研究では、送電コイルを舗装材料で覆い、深く埋設する方法が一般的だった。しかし、この方式の最大の課題は、「伝送距離の増加」と、道路に送電コイルを埋設する際の「施工・補修コストの増加」だった。
そこで研究チームは、今回の実証実験では送電コイルを舗装下に深く埋設せず、さらに舗装材料で覆わずに表層へ露出設置する構造を採用。この方式なら、掘削量の削減、施工時間の短縮、補修時の再開削不要といった現場負担の軽減が可能になるという。実証実験では、給電性能だけでなく、電源設備との配線取り回し、車両荷重に対する耐久性、施工手順の標準化までを一体で検証していく方針が示された。
今回の取り組みでは、実車スケールでの施工計画を立案し、施工方法を最適化しながら、必要工数(人員・時間)や概算費用の見える化を進めていくとする。研究段階から「施工できるか」と「維持管理できるか」を前提にした設計がなされている点が特徴であり、将来の道路更新工事と同時に施工できるインフラ技術としての成立を目指すとした。送電コイルの道路埋設における課題には、給電ユニットと電源設備の配線ルートや止水処理など、電気工事と舗装工事の境界領域に位置する要素があり、これまでは十分に整理されてこなかった実務的課題だという。
走行中ワイヤレス給電は、EVの航続距離への不安を解消し、将来の充電インフラの在り方を大きく変える可能性を秘めた技術だ。一方で、単なる電気設備ではなく、「道路」という社会インフラと一体で整備される必要がある。これまでの研究開発は主に電気電子分野が中心だったが、社会実装には土木、材料、機械、情報といった多分野の知見が不可欠とされる。そこで今回の実証実験に向けては、芝浦工大内で分野横断の共同研究チームが組織された。さらに、舗装・社会インフラに豊富な知見を持つ世紀東急工業とも連携し、道路舗装や都市インフラの観点を取り入れた技術開発に取り組むとしている。
研究チームは今後、今回の実証実験を通じて得られるデータを基に、施工性・耐久性・コストなどの観点から技術の高度化を推進していくという。走行中ワイヤレス給電の社会実装に貢献すべく、給電ユニットの電気的・機械的性能を改善するための設計最適化に取り組む方針だ。
また、今回の実証実験は舗装施工を主眼に置いてあるため、電源設備や車両側システムの構築が不十分であり、システム全体の性能評価を実施できていないとする。そのため、個々の要素技術を高度化すると同時に、多様な研究開発を実施可能な実証システム全体の構築にも取り組むとした。
さらに、今回の実証実験で得られた知見を基に、施工方法の改良および付帯設備の最適化などに取り組むという。特に、既存舗装の掘削と給電ユニットを含む構造物の設置、配線・配管の接続、舗装の埋め戻し・復旧など、実際の施工を通じて得られた知見を最大限に活かした研究開発を進めるとしている。



