• 都市交通のイメージ

現実において、気候変動も交通渋滞も、すぐに解決することはできません。しかし、それらの影響を緩和することはできます。都市が成長し交通需要が増え続ける今、その必要性はこれまで以上に高まっています。世界の温室効果ガス排出の最大要因のひとつである交通輸送について、ロケーションインテリジェンスは課題を解すべく、排出削減を支援し、自動車メーカー、都市開発・行政機関、そしてドライバーをよりグリーンな未来へと導いています。

都市化と脱炭素化、相反する課題への挑戦

国連によると、2025年の世界人口は82億人に達し、そのうちの45%が都市部で生活しています。今後25年で、この割合は66%にまで増加する予測です。都市人口が劇的に増加する一方、欧州経済委員会(UNECE)は交通輸送によるCO2排出量を少なくとも50%削減することで合意しました。ますます多くの人が高密度な都市環境の中を移動する中で、交通輸送によるCO2排出量を半分にまで減らすために何をすればよいのでしょうか。

この課題は一見すると途方もなく思えます。しかしすでに取り組みは始まっており、適切なツールさえ使用すれば低炭素社会への移行をさらに加速させることができます。たとえば、自動車メーカーはより多くの電気自動車(EV)を製造し、行政は充電ステーションの整備を進め、道路管理局はインフラの最適化に取り組み、政策立案者は交通輸送による大気汚染や騒音を減らし、都市の居住性を高めるための施策を進めています。

これらの取り組みは正しい方向に進んでいますが、まだ十分とは言えません。都市交通の増加はインフラ整備のペースを上回っており、EVの普及も依然としてコスト、充電アクセス、航続距離への不安といった課題に直面しています。これらを解決する上で、交通エコシステムのあらゆるレベルで、よりスマートなツールとより良質なデータを活用することが必要です。

ロケーションインテリジェンスが支える持続可能なモビリティ

交通輸送は、世界の温室効果ガス排出の主要な要因の1つです。そのため、モビリティ分野では長年にわたり、より持続可能な移動を実現するための技術開発が進められてきました。近年はAIや相互運用可能なオープンソース地図の進展により、ロケーションインテリジェンスが交通分野のさまざまなステークホルダーにとって重要な基盤となっています。位置情報データや分析ツールは、よりスマートで持続可能なモビリティソリューションの実現を支援し、交通渋滞や排出量の削減、さらには気候変動対策にも貢献することが期待されています。

ここでは、ロケーションインテリジェンスが持続可能なモビリティシステムの構築に貢献する5つの方法をご紹介します。

1. スマートなルーティングによる排出削減

詳細な地図とリアルタイムの交通情報を組み合わせた高度なルーティングシステムは、ドライバーを渋滞した道路から迂回させ、交通の流れがスムーズなルートへ導きます。これは重要な取り組みです。渋滞によるストップ&ゴーの運転は、一定速度で安定的に走行する場合と比べてCO2排出量を大幅に増加させるためです。米国エネルギー省は、これだけでも燃料消費量を15~20%削減できると推計しています。たとえ迂回ルートが多少長くなったとしても、渋滞を回避することで燃料消費や排出量を削減できる場合があります。

また、インテリジェントなルーティング技術には、燃料やエネルギー消費を最小限に抑えるエコルーティング機能も組み込まれています。こうしたソリューションは、自動車メーカーが車載システムに組み込むケースも増えており、ドライバーが不要な遅延を避けながら、より効率的な移動を実現できるよう支援しています。

2. EV移行へのサポート

EVは以前より身近な存在になりましたが、依然として普及の途上にあります。地図・位置情報技術は、この移行期における電動モビリティの普及を支える重要な役割を担っています。その代表例が、EV向けに最適化されたナビゲーションシステムです。これらのシステムは充電インフラに関する詳細なデータを活用し、充電ステーションの検索や、バッテリー残量と車両特性に応じた最適なルート計画を可能にします。これはEV普及の鍵となる要素です。アイダホ国立研究所は2025年の報告書で「EVユーザーが正常に稼働する充電器を見つけられるという確信は、EV購入の意思決定に直接影響する」と指摘しています。

利用可能な充電ステーションへドライバーを案内し、効率的な走行計画を支援することで、EVの普及を促し、航続距離への不安を軽減し、EV利用の利便性向上につながっています。

  • 充電ステーションにおけるEVの充電イメージ

さらに、集約されたモビリティデータはEVの移動パターンや充電需要を可視化します。こうした知見は、充電事業者やインフラ計画担当者が適切な場所に充電設備を配置するための判断材料となり、EVインフラの整備を加速させます。

3. 環境負荷の少ない道路ネットワークの形成

あらゆる交通システムの基盤となるのが地図です。高品質な地図や地理空間データセットは、道路ネットワークがどのように機能し、時間とともにどのように変化しているかを理解するための基礎情報を提供します。

地図情報と交通データを組み合わせることで、行政機関や都市計画担当者、モビリティ事業者は道路構造や交通流、移動パターンを詳細に分析できます。こうした分析は、より良い都市計画やインフラ整備、交通政策の立案を支える重要な材料となります。たとえば、ヘルシンキ市は主要ルートにおける渋滞や遅延を把握するために、トムトムの交通流データを活用しました。モニタリングによって得られる情報が交通計画や関連する意思決定を支援につながっている点を交通アナリストも評価しています。

また、正確な地理空間データがあれば、新たな道路建設や交差点改良などのインフラ施策を事前にシミュレーションし、交通や排出量への影響を評価することも可能です。これにより、導入前の段階でより効果的な選択肢を検討できるようになります。

4. 交通データから実践的なモビリティインサイトへの変換

交通由来の排出量を削減するには、排出がどこで発生し、その背景にどのような課題があるのかを把握することが不可欠です。

過去およびリアルタイムの交通データを分析するツールは、都市全体のボトルネックやピーク時の渋滞、変化する移動パターンを明らかにする上で重要な役割を果たします。

交通分析プラットフォームや移動需要分析ツールは、人々が道路網をどのように利用しているかを可視化し、渋滞が移動時間や経済活動、排出量にどのような影響を与えているかを理解するための支援を行います。また、都市中心部や低排出ゾーンなど、特定エリアごとの交通パターンを分析することで、より的確な施策立案も可能になります。

近年は、さまざまなモビリティ分析プラットフォームが提供されており、環境影響評価やインフラ計画、モビリティプロジェクトの費用対効果分析を支援しています。さらに、シナリオ分析機能によって、道路工事や交通施策の実施前に、それらが渋滞や排出量へ与える影響を検証できるようになっています。

日本では防災分野での活用が注目されています。例えば、洪水で道路が寸断された場合、日本の地理空間インテリジェンス企業のLocationMindは、リアルタイムの交通データに基づいてその状況を可視化し、救助・支援活動のルート計画を支援します。このようなデータは自治体によるリスクの高いインフラの特定や、将来的な防災対策にも活用されています。

  • モビリティ分析プラットフォームのイメージ

5. リアルタイムでの交通流の最適化・管理

長期的なインフラ整備と並行して、現場レベルでリアルタイムに交通を最適化することも重要です。リアルタイムモニタリングツールや交通分析ソリューションを活用することで、信号のタイミング調整や車線運用の最適化など、交通流を改善するための施策を実施できます。こうした取り組みは、アイドリングや急加減速による不要な排出が発生しやすいボトルネックや交差点での遅延を軽減します。

さらに、交差点分析ツールを用いることで、行政機関や交通技術者は複雑な交差点における車両の動きを詳細に把握できます。その結果、信号制御の改善や交差点レイアウトの見直しによって、より効率的な交通運用を実現できるようになります。

  • 交差点分析ツールのイメージ

おわりに

持続可能なモビリティの実現に向けて、ロケーションインテリジェンスはさまざまな形で貢献しています。渋滞を回避するスマートなルーティング、EV普及を支える充電インフラの活用、より効率的な都市・道路計画、交通データに基づく意思決定、そしてリアルタイムでの交通流の最適化。こうした取り組みは、交通輸送に伴う排出量の削減と、より快適で効率的な移動の両立を支えています。

ロケーションインテリジェンスは、いわば交通ネットワークのMRI画像のようなものです。ネットワーク全体の状態を可視化し、課題や改善の余地を明らかにすることで、より的確な意思決定を可能にします。

今後、増加する移動需要と脱炭素化という2つの課題を両立する上で、位置情報データと分析技術の重要性はますます高まるでしょう。トムトムはこれらの技術を通じて、自動車メーカーや行政機関、モビリティ事業者とともに、より効率的で持続可能なモビリティ社会の実現に貢献していきます。

本記事はTomTomの技術ブログ「How location intelligence is driving a greener future」を翻訳・改編したものとなります