EV化・電動化の進展に伴い、自動車内部の配線は高密度化・複雑化が進んでいる。特に大型化するバッテリーでは監視機能の実装により配線点数が増加し、従来のワイヤーハーネスでは取り回しや設計制約、工数増といった課題が顕在化している。 こうした課題に対し、産業・民生分野で活用されてきたFPC(フレキシブル基板)による配線の集約化が注目されている。FPCは省スペース化と設計自由度の向上に加え、接続点削減による信頼性向上にも寄与する。これに伴い、自動車特有の厳しい環境条件や安全規格に対応したFPCコネクターのニーズも高まっている。
データ通信や自動車をはじめ、産業、家電、医療機器、航空宇宙など幅広い市場に向けて接続ソリューションを提供するMolexは、EV市場のニーズに対応する次世代FPCコネクターの開発に着手。モバイル分野で培った小型化・量産技術を活かした「Flexi-Latch+(フレキシ ラッチ プラス)コネクター」をリリースした。 本稿では、このオートモーティブグレードのコネクタシステムの開発経緯と狙いに加え、EV市場や大型バッテリーを扱う産業分野に与えるインパクトについて確認していく。
EV化・電動化で車内配線の複雑化が進み、次世代FPCコネクターへのニーズが高まる
1938年に創業し、さまざまな業界に向けて相互接続ソリューションを提供してきたMolex。世界38カ国に拠点を展開するグローバル企業であり、日本を技術開発のハブと位置付け、2026年には横浜みなとみらい地区へ拠点を移転するなど事業拡大を進めている。
医療・航空宇宙・AIデータセンターなど成長市場に加え、自動車向けソリューションも手がける同社は、EV市場におけるバッテリー監視システムの需要増に着目。民生分野でコネクターを展開し、モバイル機器で小型化・量産技術を磨いてきたConsumer & Commercial Solutions(CCS)事業部が主導し、車載ニーズを踏まえたFPCコネクターの開発に着手した。日本モレックス合同会社 CCS マイクロソリューションズ 研究開発部 第二製品技術部 2グループ マネージャーの圓谷 哲紀 氏は、次のように説明する。
「従来、自動車向けコネクターは米国の事業部が中心となって開発してきましたが、今回の車載システム用FPCコネクターは、モバイル向け技術を有するCCS事業部が主導しました。当社は多様な事業で得たナレッジを共有し、成長市場のニーズに対応しています。本製品の開発でも、自動車向け事業部から車載特有の安全規格や試験に関する知見を取り入れながら進めました。部門間の連携によって迅速かつ柔軟に対応できる点が当社の強みです」(圓谷氏)
また、CCS MSBU Automotiveのプロダクトマネージャーである丸岡 大記 氏は、EV市場の拡大に伴い、自動車向けFPCコネクターの要件が高度化・多様化し、既存製品では対応できないケースが増えていたと指摘する。
「日本に限らず、欧州や中国を含む世界各国からEV向けバッテリー監視システムに関する要望が寄せられていました。簡素化・軽量化・省スペース化が可能なFPCの需要が高まるなかで、車載用途に特化したコネクターを求める声も増え、新製品の開発に踏み切りました」(丸岡氏)
市場のニーズを汲み取り、EVバッテリー監視ユニット向けの「Flexi‑Latch+ コネクター」を開発
こうして車載向けFPCコネクターの開発に着手した同社だが、スペース制約や組立コスト、振動、温度変動下での接続信頼性など、クリアすべき課題は多岐にわたった。そこで顧客との密なコミュニケーションを重ねながら設計が進められたという。
「欧州やアジアなど、地域によって振動要件や特定ガス環境試験など求められる条件は異なります。また、省スペース化が求められる一方で、小型化すると高電圧時の不具合リスクが高まるため、最適なバランスの見極めに苦労しました。小型化が進む民生系のFPCコネクターでは0.3mmピッチ程度が一般的でありますが 車載用途では安全性確保の観点から難しく、1.5mmピッチや2.0mmピッチが現実的だと判断しました」(丸岡氏)
「ピッチが狭くなるほど沿面距離が短くなります。車載では高電圧に対応するための規格が定められており、それに応じた設計が不可欠です。開発では顧客との対話を重ねながら仕様を更新し、確実な嵌合を実現するCPA機構も要望に応じて採用しました。これらの仕様の取捨選択には苦労しました」(圓谷氏)
こうしたプロセスを経て誕生したのが「Flexi-Latch+ コネクター」だ。民生用途の製品を転用したのではなく、自動車特有の規格に対応する形でゼロから設計された次世代FPCコネクターである。構成はレセプタクルヘッダー(基板側)と、FPCを補強するプラグジャケットの2部品。ラインアップはシングルロー(1.5mmピッチ/12極・20極・24極)と、デュアルロー(2枚挿し、2.0mmピッチ/32極・40極)を用意している。2026年5月時点では、シングルロータイプの12極製品が市場投入されている。
本製品は車載向けコネクターに求められる要件を満たし、SAE USCAR2 やLV214といった規格試験をクリアしている。端子には2点接点構造を採用し、高い信頼性を確保したほか、IEC 60664-1に基づく定格電圧設計にも考慮。加えて、誤組立防止といった観点も重視した設計となっている。
さらに、2枚挿しのデュアルロータイプにはISL(独立二次ロック)機構を搭載し、正しい嵌合を確認できるようにした。
「開発では作業者視点も重視しました。特に誤組立防止については試行錯誤を重ね、組み立て工程でのミスを極力抑えられる構造を目指しました」(丸岡氏)
小型・軽量化に加え、組み立て効率と信頼性も両立、多様な用途での活用に期待
設計者が求める小型化や信頼性に加え、作業者視点での「組み立てやすさ」や安全性まで考慮して開発された「Flexi-Latch+ コネクター」には、独自の強みがある。その1つが、圓谷氏が特許を持つ結露対策機構だ。
「一般的なFPCコネクターでは端子間に仕切りがなく、高湿度環境で結露が発生するとショートのリスクがあります。そこで本製品では、ジャケット内にエラストマー(弾性を持つ高分子材料)を組み込み、ショートによるバッテリー損傷リスクの低減を図りました。デュアルロータイプ限定の機能ですが、結露試験もクリアしており、表面結露への対策として有効だと考えています」(圓谷氏)
こうした設計は、組み立て工数の削減や歩留まりの向上にも寄与する。丸岡氏は、経営層や購買部門が重視するコストの観点でも、製品単価にとどまらない効果が見込めると説明する。
「ハイブリッド車のバッテリーに加え、近年は12V補助バッテリーでも鉛蓄電池からリチウムイオンへの移行が進み、バッテリー監視ユニットの需要は拡大しています。さらに48V化の進展もあり、こうした用途でのニーズは今後も増えると見ています。バッテリー以外でも、インバーター内部の接続など、車内での配線効率化を求めるケースは多くあります。加えて、自動車以外でも、電力貯蔵を伴う設備──たとえばソーラー向け蓄電池やAIデータセンターのバックアップ電源などでも活用が期待できます」(丸岡氏)
市場のニーズ変化への対応や先進技術への活用も見据え、次世代FPCコネクターの開発は続く
Molexでは今後も、EVをはじめ産業機器、ロボット、データセンターなどの市場ニーズに応えるべく、「Flexi‑Latch+ コネクター」の改善とラインナップ拡充を進めていく方針だ。日本での構想・設計を起点に、中国・韓国と連携して量産検証を行うなど、欧州・アジア市場のニーズに適応した製品を迅速に投入できるグローバル開発体制が構築されている。
「現在はシングルロータイプ12極のみが正式リリースされていますが、デュアルロータイプの32極、40極も市場投入を予定しています。マウザー・エレクトロニクスを通じてグローバルにサンプル提供を進めるほか、垂直接続に対応したバーチカルコネクターの開発も進め、ラインアップの強化を図っていきます」(丸岡氏)
また同社は、エンジニアや経営層だけでなく、製造現場の作業者の視点も反映した製品開発を重視している。たとえばグローブを装着した作業を前提にコネクターサイズを調整するなど、現場に即した改良を継続していく考えだ。
「EV向けコネクター市場は依然発展途上にあり、技術の進化も速い分野です。設計段階で新たな要望が加わるケースも多く、仕様の確定には難しさがありますが、多様な事業で蓄積したナレッジを横展開し、迅速に市場投入したうえで次の開発へつなげる点が当社の強みです。ぜひ気軽にご相談いただければと思います」(丸岡氏)
エンジニアや経営層から現場の作業者まで、ものづくりに関わる多様な声を取り入れながら開発された「Flexi‑Latch+ コネクター」。顧客との共創により開発された同製品は、EV関連企業はもちろん、小型・薄型設計と組み立て性の両立を求める幅広い用途で、有力な選択肢となりそうだ。
マウザー・エレクトロニクスのECサイトから次世代FPCコネクターを購入可能
1,200社以上の大手メーカーと提携し、半導体・電子部品で世界最大級の品揃えを誇る正規オンライン代理店、マウザー・エレクトロニクス。世界28カ所に拠点を構え、製造元工場から直接仕入れた製品を提供する同社が運営するECサイトでは、「Flexi-Latch+ コネクター」をはじめ、Molexが提供する接続ソリューションを購入することができる。2026年5月現在ではシングルロータイプ・12極のコネクターが購入可能で、20極・24極のシングルロー製品やデュアルロータイプの製品も近く購入可能となる予定だ。Molex Flexi-Latch+ コネクター製品詳細
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