2026年9月17日、茨城県の航空自衛隊百里基地で、航空自衛隊とフランス航空宇宙軍(Armée de l’air et de l’espace)による共同訓練の模様が報道公開された。異なる国の軍用機が共に任務を遂行するには、機体をそろえるだけでは足りない。燃料や空中給油、通信、運用手順、地上支援など、さまざまな面で「一緒に運用できる」ことが求められる。本稿では日仏共同訓練を題材に、その「相互運用性(interoperability)」について考えてみたい。

  • 着陸するラファール。背景に、茨城空港公園に保存展示されているF-4EJ改が見えるから、ひと目で百里基地だと分かる 撮影:井上孝司

    着陸するラファール。背景に、茨城空港公園に保存展示されているF-4EJ改が見えるから、ひと目で百里基地だと分かる 撮影:井上孝司

  • 航空自衛隊のF-2と仏航空宇宙軍のA330フェニックス給油機。いかにも共同訓練らしい一コマ 撮影:井上孝司

    航空自衛隊のF-2と仏航空宇宙軍のA330フェニックス給油機。いかにも共同訓練らしい一コマ 撮影:井上孝司

世界を巡るフランス航空宇宙軍の「PEGASE26」

仏航空宇宙軍は現在、”PEGASE26” と題したデプロイメントを実施している。派出した航空機は、ラファール戦闘機が4機、A330MRTTフェニックス給油機が3機、A400M輸送機が2機という陣容。指揮官はジュリアン・サベネ少将だ。

  • “PEGASE26” のロゴ。配付資料の冒頭ページより引用

    “PEGASE26” のロゴ。配付資料の冒頭ページより引用

  • 離陸準備中のラファール。この作業は、フランスにいるときでも、海外派遣のときでも、同じように必要だ 撮影:井上孝司

    離陸準備中のラファール。この作業は、フランスにいるときでも、海外派遣のときでも、同じように必要だ 撮影:井上孝司

  • 訓練飛行のために滑走路に向かう、2機のラファール 撮影:井上孝司

    訓練飛行のために滑走路に向かう、2機のラファール 撮影:井上孝司

  • 離陸直後のラファール。これは複座型 撮影:井上孝司

    離陸直後のラファール。これは複座型 撮影:井上孝司

  • これも離陸直後のラファール。こちらは単座型 撮影:井上孝司

    これも離陸直後のラファール。こちらは単座型 撮影:井上孝司

フランスを起点として、9月8日から10月15日の間に、グリーンランド、カナダ、アラスカ、日本、韓国、インドネシア、インド、カタール、レユニオン、エジプトに足跡を印す、世界一周・約40,000kmの行程。そして、戦略的な重要性が高いとみなされている、北極、アジア太平洋、東南アジア、南アジア、中東をカバーしている。

各地で共同訓練や親善行事を行うとともに、「航行の自由を支える強力なメッセージを送る」と説明される。ただ、それは単に飛行機を送り込んで飛ばすというだけの話ではない。飛行機を飛ばすためには、然るべき支援が必要である。共同訓練を実施するにしても、それはただ単に一緒に飛ぶだけの話ではない。

そこで「相互運用性」という言葉が関わってくる。

そもそも「相互運用性」とは何か

相互運用性(interoperability)という言葉は、なにも安全保障の分野に限らず、たとえば情報システムの分野でも頻出する。

情報システムの場合、異なる製品同士をひとつのシステム、ひとつのネットワークに組み込んで、意図した通りに運用できるかどうか、といった話になる。相互運用性を実地に検証することの重要性が理解されているからこそ、INTEROPのようなイベントが続いている。

では、防衛分野における相互運用性とは何か。たとえば、多国籍の共同作戦を実施する場面を考えてみる。同じ戦闘機でも、使用している機体は国によって異なることが多い。欧州のNATO諸国を見てみれば、そのことは容易に理解できる。

実戦の場では、異なる国の、異なる機種の戦闘機が一緒になって、ひとつの任務を達成しようとする。機体を整備して、兵装を搭載して、搭乗員に対して状況説明を実施した上で飛び立たせる。そして指示された目標と交戦して、生き残り、無事に帰ってくる。

そういう場面では、相互運用性、つまり一緒になって任務行動を実施できるかどうかが大問題になる。それを実現するために何が必要か。

規格書だけでは「相互運用性」を保証できない

報道公開の最後に、航空自衛隊の森田航空幕僚長と、仏航空宇宙軍のベランジェ参謀長による会見が行われた。その席でベランジェ参謀長から、航空自衛隊による兵站支援に感謝する発言があった。

  •  撮影:井上孝司

     撮影:井上孝司

  • 共同会見の前に、会場となった格納庫に並べられた、ラファールC(左)とF-2A(右)。 撮影:井上孝司

    共同会見の前に、会場となった格納庫に並べられた、ラファールC(左)とF-2A(右)。 撮影:井上孝司

  • 同じ場面を異なる角度から 撮影:井上孝司

    同じ場面を異なる角度から 撮影:井上孝司

兵站支援という言葉の幅は広いが、そのひとつに燃料補給がある。まさか、フランスから日本までジェット燃料を運んでくるわけにも行かない。日本で用意したジェット燃料をラファールやフェニックスやA400Mに搭載して、問題なく飛行できなければならない。それ以前の問題として、給油口の形やサイズが合わなければ、そもそも給油ができない。

民間機なら給油口と給油ホースの話だけだが、これが軍用機になると、空中給油も問題になる。プローブ&ドローグ方式なら受油プローブとドローグホース、フライング・ブーム方式ならブーム先端の給油装置と受け側のリセプタクルが合っていなければ、給油ができない。

もちろん、そこで「不一致が発生したので給油ができません、飛べません」なんていう間の抜けたことは起こらない。同盟国・同志国の間で規格・仕様を統一しているから、フランスの軍用機に対して日本で燃料を補給する作業が成立する。

燃料に限らず他の分野でも同じような話は出てくる。そこで多国籍組織であるNATOは、さまざまな分野を対象とする標準化の取り決め、STANAG(Standardization Agreement)というものを定めている。

ところが、標準化規格文書通りのモノを作ったからといって、それだけで円滑にいくとは限らず、ときどき問題が起きる。これはIT分野でも同じだろう。だから、平時のうちに合同演習や合同訓練の場を設けて、問題なく運用できることを検証するとともに、他国の部隊と一緒に任務に就く行為に慣れておかなければならない。

仏航空宇宙軍がリリースした“PEGASE26”に関する説明文書の中にも、“Proven interoperability”というくだりがある。実際に海外展開して共同訓練を実施することで、相互運用性を立証できました、ということだ。

共同訓練で試される空中給油と通信

仏航空宇宙軍のラファール戦闘機が日本にやってきたのは、今回が初めてではなく3回目である。

そして森田空幕長は「これまでの共同訓練は編隊航法訓練や空中給油を中心に実施してまいりましたが、今回は、対戦闘機戦闘訓練、要撃戦闘訓練、および戦術攻撃訓練といった、高度な内容となっています」と発言した。

軍用機、とりわけ戦闘機に編隊飛行はつきものだが、勝手知ったる内輪の機体ならともかく、馴染みが薄い他国の機体になると話が違う。機体の何を目印にして、それがどこの位置に来るように占位すると、適切な編隊を組めるのか。これは実際にやってみないと分からない。また、機体のサイズが違えば距離感にも影響するだろう。

  • タイミング良く、韓国から編隊を組んで戻ってきたA330フェニックスと2機のラファールが着陸する場面があった 撮影:井上孝司

    タイミング良く、韓国から編隊を組んで戻ってきたA330フェニックスと2機のラファールが着陸する場面があった 撮影:井上孝司

  • 共同訓練飛行から戻ってきた2機のラファールが、基地の上空でブレイク。取材時、F-2とラファールは別個に着陸した 撮影:井上孝司

    共同訓練飛行から戻ってきた2機のラファールが、基地の上空でブレイク。取材時、F-2とラファールは別個に着陸した 撮影:井上孝司

空中給油にしても、単に受油プローブをドローグに突っ込んだり、フライング・ブームをリセプタクルに突っ込んでもらったりするだけの話ではない。計画立案と飛行経路の設定、受油機と給油機の会同、安全に近接・給油・離脱を実施する手順など、実現に際して考慮しなければならない課題はいろいろある。

もちろん、標準化仕様を定めたり、事前に手順を確認したりするわけだが、それを実際にやってみることで初めて「大丈夫」といえる。

  • A330フェニックスの後部胴体には、フライング・ブームが付いており、これでF-2でもF-15でも(理屈の上では)給油できる 撮影:井上孝司

    A330フェニックスの後部胴体には、フライング・ブームが付いており、これでF-2でもF-15でも(理屈の上では)給油できる 撮影:井上孝司

  • 2機のA400Mのうち、1機は空中給油用のドローグホースを備えた機体。ヘリコプターにも給油できるのはA400Mの強み 撮影:井上孝司

    2機のA400Mのうち、1機は空中給油用のドローグホースを備えた機体。ヘリコプターにも給油できるのはA400Mの強み 撮影:井上孝司

  • A330フェニックスの翼下にもドローグホースのポッドがある。これでラファールやA400Mに給油できる 撮影:井上孝司

    A330フェニックスの翼下にもドローグホースのポッドがある。これでラファールやA400Mに給油できる 撮影:井上孝司

これが戦闘任務になれば、戦闘機同士の意思の疎通という問題が大きくなる。無線機で使用する電波の周波数と変調方式を揃えれば「接続」はできるが、それは単に物理層レベルで相互接続性を持たせましたという話。もっと上のレイヤーでも課題はある。

つまり、無線交信でどういうやりとりをして、間違いのない意思の疎通を実現するか。しかも動きが速い航空戦のことだから、長々と会話をするわけには行かない。短いセンテンスで確実に、伝えたいことを伝えなければならない。すると、通信に関する規定や、通信における言葉の選び方、使い方といった問題が関わってくる。

もしも暗号化通信を行うのであれば、秘話装置に設定する鍵情報の管理という問題も出てくる。

もちろん、自衛隊では通信に関する基準を定めており、それに則って任務を遂行している。自衛隊同士ならそれで良い。

自衛隊の通信実施の基準に関する訓令 http://www.clearing.mod.go.jp/kunreidata/afd/1964/ax1964100900039000.pdf

では、他国の航空機搭乗員を相手にしたときでも、身内と同じように円滑な意思の疎通を実現できるのか。これは実際に戦闘訓練の場でやってみて、問題なくできることを検証しておかなければ有事の役に立たない。

なにも戦闘任務の場に限らず、飛行場での離着陸における管制交信もまた、簡潔かつ確実な意思の疎通が重要である。管制交信で意思の疎通に問題があって事故になった事例は、民航機の分野だが、実際に起きている。

地上支援機材にも求められる連携

軍用機は一般に、民航機と比べると自立性が高い。つまり、外部の支援機材になるべく依存しないで、自力でエンジンをかけて飛び立てるように設計するのが一般的。といっても、国情や機種、時代によって、そのレベルには違いがある。

だから場合によっては、地上支援機材の世話にならなければならない場面も考えられる。給油や電源といったあたりが該当するだろうか。

実は、こういうところで軍民の規格を統一しておくと、何か不具合が起きて最寄りの民間飛行場に緊急着陸するとか、有事の際に民間飛行場を用いて分散運用するとかいう場面で役に立つ。

もちろん、これも平時のうちに経験したり、意図的に試したりしておくことで、「備えは大丈夫」という確信につながる。こういうのもまた、ひとつの相互運用性である。

  • A400Mの機内。左右のトループシートを展開した状態だが、人員輸送はA330フェニックスの方が快適そうではある。A400Mは機材の輸送に充てたいところであろう 撮影:井上孝司

    A400Mの機内。左右のトループシートを展開した状態だが、人員輸送はA330フェニックスの方が快適そうではある。A400Mは機材の輸送に充てたいところであろう 撮影:井上孝司

標準化が進んでいても「実際にやってみる」ことが重要

航空の世界は比較的、世界的な標準化が進んでいる分野ではある。それでも、高度の単位が国によってメートルだったりフィートだったりと異なるようなことは起きている。

民間航空でもこんな調子だから、軍事航空でも国によって、あるいは軍種によって不統一な部分があったとしても、不思議はない。だからやはり、平時のうちに実際に「やってみる」ことは重要だ。単に、富士山をバックにして記念写真を撮るために来日しているわけではないのだ。

  • 訓練を終えて着陸するF-2A。取材時は2機が飛んでいた 撮影:井上孝司

    訓練を終えて着陸するF-2A。取材時は2機が飛んでいた 撮影:井上孝司

  • 茨城空港のターミナルビルをバックにして着陸するラファール 撮影:井上孝司

    茨城空港のターミナルビルをバックにして着陸するラファール 撮影:井上孝司