筑波大学、関西学院大学(関学)、国立天文台、早稲田大学(早大)、東北大学の5者は7月8日、筑波大を中心に計画が進む「南極12mテラヘルツ望遠鏡(ATT12)」を活用して観測をシミュレーションした結果、宇宙初期から銀河形成の最盛期にかけて、塵に覆われて可視光では捉えられない銀河を100万~1000万個の規模で発見できる可能性が示されたと共同で発表した。
同成果は、筑波大 数理物質系/高等研究院 自発研究ユニットの橋本拓也助教(自発研究ユニットフェロー)、筑波大大学院の若杉航希大学院生(研究当時)、関学 理学部物理・宇宙学科の瀬田益道教授、国立天文台 先端技術センターの松尾宏准教授、早大 理工学術院の馬渡健講師、東北大大学院 理学研究科 天文学専攻のDragan Salak准教授らが参加する共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文論文誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
テラヘルツ波は周波数約1THz(波長約300μm)付近の電磁波のことであり、光と電波の両者の特徴を併せ持つ。このテラヘルツ波を含む遠赤外線領域は現在、宇宙を観測する“眼”が少ない「観測の隙間」だ。中間赤外線まではジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などが存在するが、遠赤外線領域には宇宙に出なければ観測できない波長もあり、現在は対応する宇宙望遠鏡が運用を終了しており、空白の波長域となっている。
地上では、アルマ望遠鏡が一部の波長域(サブテラヘルツ波)を観測可能だが、テラヘルツ波は水蒸気に吸収されやすいため、地上屈指の乾燥地帯であるチリ・アタカマ砂漠に立地する同望遠鏡であっても、大気中の水分が少ないタイミングでしか観測は困難だ。また、同望遠鏡は一度に観測できる視野が比較的小さいため、テラヘルツ波を用いて広い天域に存在する塵に覆われた銀河を多数探し出し、統計的な性質を調べるといった広域サーベイ観測には適していなかった。つまり、現在、この波長域における大規模な観測に適した望遠鏡は宇宙にも地上にも存在しないのが現状だ。
アタカマ砂漠は年間降水量が100mm以下という乾燥地帯だが、それでもテラヘルツ波を観測するにはまだ大気中の水分が多い。しかし、地球上で1か所だけ適した場所が存在する。年間降水量がアタカマ砂漠の約10分の1しかないという、極限の乾燥地帯である南極大陸内陸部の高地だ。極寒のために空気中の水分が凍結して降り積もってしまうため、大気中にほぼ水蒸気が存在しない乾燥した気候だ。この場所こそが、テラヘルツ波を地上でほぼ確実に受信できる唯一のエリアとされている。
この極限の乾燥環境を活用し、テラヘルツ波での観測を行うATT12の建設を目指して研究開発を進めているのが、筑波大を中心とする南極天文コンソーシアムだ。その実現に向けた第1段階として、南極地域観測第10期6か年計画のもと、30cmサブミリ波望遠鏡による観測実証が進められている。そこで研究チームは今回、ATT12への搭載を計画している「広視野多色撮像カメラ」および分光器について、南極内陸部の大気環境や装置性能を考慮した詳細なシミュレーションを行い、観測可能な銀河の性質や検出数を評価したという。
その結果、広視野多色撮像カメラによる大規模サーベイ観測によって、宇宙誕生から10億年未満の時代に存在する塵に覆われた遠方銀河を大量に発見できることが確認された。特に、南半球から見える空の約1万平方度に及ぶ広域観測によって、宇宙初期から銀河形成最盛期にかけて存在する塵に覆われた銀河を、合計100万~1000万個規模検出できる可能性が示されたとした。
さらに、分光器を用いた観測では、銀河の星間媒質中に含まれる酸素イオンや炭素イオンから放射される遠赤外線輝線を測定することで、銀河内部のガス密度や元素組成などの物理状態を調べられることも明らかにされた。これにより、宇宙初期の銀河において、どのように星形成や元素合成が進んだのかを詳しく理解できると期待されている。
今回の研究により、ATT12が宇宙の星形成史や銀河進化の解明に向けて重要な役割を果たし、アルマ望遠鏡やJWSTと連携しながら、新たな観測領域を切り拓く可能性が示された。さらに、宇宙初期に存在する塵に覆われた銀河を大規模に発見し、その内部の物理状態を調べる能力を持つことも示された。今後は、望遠鏡や観測装置の具体的な設計・開発を進めると同時に、観測戦略のさらなる高度化を図るとする。
ATT12による広域サーベイ観測によって発見された銀河は、アルマ望遠鏡による高空間分解能観測やJWSTによる恒星・元素組成の解析、さらに米国航空宇宙局(NASA)の次期宇宙望遠鏡計画「PRIMA」による高感度遠赤外線観測と組み合わせることで、多角的な研究が可能となる。その結果、宇宙初期から銀河形成最盛期にかけて、銀河がどのように星を形成し、重元素や塵を蓄積しながら成長したのかを統計的に解明できると期待される。また、ATT12は南極という世界最高水準の観測環境を活用した日本国内独自の大型観測計画として、宇宙初期から銀河形成最盛期にかけての銀河進化を、遠赤外線・テラヘルツ波で解明する新しい天文学の発展にも大きく貢献することが期待されるとしている。
