太陽系は約45億6,700万年前に形成され、地球はそれから少し経った約45億4,000万年前にできたと考えられている。C型小惑星「リュウグウ」の母天体も初期太陽系において形成されたと考えられるが、その正確な年代はこれまで不明だった。
北海道大学、茨城大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京科学大学、東京大学の5者は、リュウグウ試料に含まれる炭酸塩鉱物が形成された年代を詳細に検証。その結果、リュウグウ母天体は現在から45億6,530万年以上前、つまり太陽系の形成から約200万年以内に形成されたことを解明したと、9月11日に共同発表した。
同成果は、北大大学院 理学研究院の川﨑教行准教授、同・圦本尚義名誉教授、北大 総合イノベーション創発機構の坂本直哉准教授、茨城大 学術研究院 基礎自然科学野の藤谷渉准教授、JAMSTEC 情報地球科学研究部門の荒川創太研究員、科学大 理学院の横山哲也教授、東大大学院 理学系研究科 附属宇宙惑星科学機構の橘省吾教授らを中心とした、80人以上の国内外の研究者が参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会(AAAS)が刊行する世界最高峰の総合学術誌「Science」に掲載された。
リュウグウの“母”はいつ、どのように生まれたのか
これまでの研究から、現在のリュウグウは、より大きな母天体が破壊された後、その破片が集積したラブルパイル天体であり、水を含む鉱物や有機物に富む炭素質小惑星であることが突き止められている。小惑星探査機「はやぶさ2」によって地球に持ち帰られたリュウグウ試料には太陽系形成時の物質が含まれていると考えられており、水・有機物に富む天体の形成過程や物質進化過程が詳細に調べられている。しかし、構成物質や母天体そのものの形成時期については不明だった。
天体内部で水溶液と岩石との反応によって形成された炭酸塩鉱物や磁鉄鉱には、反応した時期やその際の温度などの情報が残っている。研究チームは今回、リュウグウ試料に含まれるカルシウムとマグネシウムを主成分とする炭酸塩鉱物「ドロマイト」に着目。内部のマンガン(Mn)とクロム(Cr)の同位体組成を分析し、Mn-Cr放射年代測定法によって同鉱物の形成年代を調べることにした。
今回の研究成果
Mn-Cr放射年代測定法は、放射性同位体のマンガン53が半減期約370万年でクロム53へと壊変することを利用する手法であり、太陽系形成初期の数百万年間における年代測定に適している。これまでにもリュウグウのドロマイトの年代測定は実施されていたが、報告によって年代にばらつきが存在した。その原因として、補正に用いる標準試料の違いが指摘されていたため、今回は茨城大で合成されたマンガンとクロムの比が均一な人工ドロマイトに基づく補正法を採用し、より高精度な年代測定が実施された。
また、試料中のドロマイトと磁鉄鉱の酸素同位体組成から形成温度を算出する「酸素同位体平衡温度計」を用いて、これらの鉱物ができた温度が求められた。さらに、得られた年代と温度を天体内部の温度変化を再現する数値シミュレーションと照らし合わせる検証が行われた。
Mn-Cr放射年代測定の結果、今回分析されたリュウグウ試料のドロマイトは、約45億6,530万年前に形成されたことが示された。これは、先行研究で分析された別のリュウグウ試料のドロマイトよりも古い年代である。また、酸素同位体平衡温度計によって、このドロマイトが約90度の水溶液中で形成されたことも判明した。
リュウグウ母天体は、誕生直後には約-200度以下という極低温状態だった。その後、放射性同位体の崩壊熱などにより内部が温められ、ドロマイトが形成された約90度に達するまでには、数値シミュレーション上少なくとも数十万年を要することが示された。したがって、ドロマイト形成の数十万年以上前には母天体が誕生していたことになる。この結果から、母天体は約45億6,530万年よりも前、つまり太陽系形成(約45億6,700万年前)から約200万年以内という極めて初期に誕生していたと結論づけられた。
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リュウグウ試料中のドロマイトのMn-Cr放射年代測定結果。青色はC0002粒子(第2回タッチダウン(TD)試料)、橙色はA0058粒子(第1回TD試料)を表す。直線の傾きの違いは形成時期の際を示しており、C0002粒子のドロマイトが約45億6,530万年以上前、約90度で形成されたことが判明した (出所:北大ニュースリリースPDF)
始原的な隕石の一群である「炭素質コンドライト隕石」の多くには、初期太陽系で高温に加熱されて形成された直径1mm程度の球状岩石粒子「コンドリュール」が豊富に含まれている。その多くは太陽系形成から約220万年後以降にできたとされている。そのため、リュウグウ母天体は、これらのコンドリュール形成以前に誕生していたことになり、コンドリュールを豊富に含む他の炭素質コンドライト隕石の母天体に先立ち誕生した、初期世代の炭素質微惑星だったことが考えられるとした。
ただし、現在のリュウグウは初期世代の炭素質微惑星の破片が集積した残骸にあたる。今回の研究成果により、太陽系形成初期の数百万年間に、炭素質微惑星が複数の世代にわたり誕生した可能性が示唆された。
今回の研究により、リュウグウ母天体の特異な形成時期が導き出された。今後は、リュウグウと化学的に類似したB型炭素質小惑星「ベヌー」の採取試料についても年代測定を行い、それぞれの母天体の形成や進化過程を比較検証することが重要だという。こうした比較を通じて、水や有機物に富む炭素質微惑星の起源と進化の理解がさらに進むことが期待される。
