東京都市大学(都市大)、関西学院大学(関学大)、九州工業大学(九工大)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の4者は8月22日、小惑星探査機「はやぶさ2」の拡張ミッション「はやぶさ2#」における航行中に、およそ半世紀ぶりに黄道光の観測を実施し、内惑星領域における惑星間塵の分布を計測することに成功したと共同で発表した。
同成果は、都市大の津村耕司准教授、関学大の松浦周二教授、九工大の佐野圭助教、同・瀧本幸司支援研究員、JAXA「はやぶさ2」ONCチームらの共同研究チームによるもの。詳細は、地球惑星科学と関連分野全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Earth, Planets and Space」に掲載された。
研究チームはこれまで、遠方銀河や初期宇宙から届く微弱な光である「宇宙背景光」の観測を通して、初期宇宙での星形成史を探る研究を実施してきた。しかし、宇宙背景光の観測において最大の不定性要因となっていたのが、前景の明るい黄道光だった。そこで、その不定性を低減させるため、黄道光観測を行うことを目指したという。
黄道光は、太陽系内に漂う惑星間塵が太陽光を散乱することで、天球上における太陽の平均的な通り道である黄道に沿った領域に生じる淡い光のことである(黄道光は人間の目には淡い光だが、宇宙背景光はさらに微弱である)。黄道光を観測することで、太陽系内の最小天体である惑星間塵がどこで形成され、太陽系内をどのように移動しているのかを探ることができるという。惑星や小惑星などの探査とはまた別のアプローチで、太陽系のダイナミックな変化を知ることができるとする。
黄道光は、惑星間塵による太陽光の散乱光を視線方向に重ね合わせたものであり、これまでの観測は、主に地球の公転軌道から行われてきたことから、手前と奥で散乱された光が重なってしまい、惑星間塵の空間分布を得ることができなかったとする。そのため、塵が太陽系内でどのように分布しているのかを理解するには、地球から離れたさまざまな場所から黄道光を調べる必要があった。
そこで研究チームは、惑星間を航行するはやぶさ2を用いた観測が効果的だと提案しており、同探査機が小惑星「1998 KY26」へ向かう拡張ミッション(到着は2031年を予定)において、目的地に到着する前に観測装置を温存するのではなく、積極的に活用するクルージングサイエンスとして、遂に実行されたという。
同観測は、2021年~2022年にかけて光学航法望遠カメラ(ONC-T)を用い、太陽からの距離(日心距離)0.7天文単位~1.06天文単位の範囲で行われた。そして、太陽系の内惑星領域における惑星間塵の分布情報を得ることに成功したとする。
その結果、得られた観測データから、地球近傍での惑星間塵の濃度が「べき乗則」に従うことが明確に示されたとのことだ。べき乗則とは、ある観測量が別の観測量のべき乗に比例する関係のことを指す。今回の場合は、惑星間塵の個数密度(n)が、太陽からの距離(r)のべき乗則に従う、つまり「n(r)∝r-α」の関係が成り立つことが示され、べき指数を正確に決めることができたとする(同式のべき指数はα)。
観測されたべき指数が示す惑星間塵の濃度は、惑星間塵の太陽への落下のみを考慮した標準的な理論と比べて、太陽に近づくほど予測より濃くなることを示しているという。このことは、惑星間塵の太陽への落下についての新たな物理があるか、地球近傍で惑星間塵が生成されるなどの知られていない天体現象があることを示唆するとしている。
また今回の成果を受け、はやぶさ2による黄道光観測(およびより発展的な観測)を今後も引き続き継続し、特に2028年に予定されている地球スイングバイ以降は、地球公転軌道の外側(1天文単位~1.5天文単位の範囲)での黄道光観測の実現を目指すとする。
今回の成果は、惑星間塵の研究だけでなく、研究チームがもともと研究対象としていた、黄道光に埋もれた微弱な宇宙背景光を観測するためにも役立つといい、今回のメンバーを含む国際研究チームでは、2023年冬に打ち上げ予定の米国航空宇宙局(NASA)ロケット実験「CIBER-2」や、将来の惑星探査機により、黄道光や宇宙背景光をさらに詳しく観測する予定としている。