軍用輸送機の降着装置には、さまざまな難しい要求があり、それを実現するために技術者が工夫を凝らしている。その結果、機種によって構造にもさまざまな違いが生じる。今回は、レオナルドC-27Jスパルタンの主脚に注目する。前後に並ぶ車輪は、一見すると同じように見えるが、実はその構造は大きく異なっている。なぜ、このような仕組みになっているのだろうか。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
C-27Jの主脚はどうやって荷重を受けるのか
後日に別の観点から取り上げる予定の、レオナルドC-27Jスパルタンという双発ターボプロップ輸送機がある。ベースになったアレニアG.222から引き継いだ、なかなか面白い構造の主脚を備えている。
同機を真下から撮影した写真を見ると、左右にシングルタイヤの主脚が2セットずつあり、車輪の前方に脚柱を引き込んでいる様子が分かる。
同機の主脚を手掛けているのは、カナダのエールー・デブテック(Héroux-Devtek Inc.)という会社。同社のWebサイトに、C-27Jの主脚を単体で撮影した、全体の構造・配置が明瞭に分かる写真がある。
これを見ると、降ろしたときの主脚の脚柱は斜めになっていて、前端のヒンジを用いて動く構造になっているのだと分かる。そういうところはA400Mと同じ、いわゆるトレーリングアームになっているように見える。
ただしA400Mと違って、降ろしたときに荷重を受けるための部材が見当たらない。斜めに降ろした状態で着陸して荷重がかかったときに、どうやって受け止めるつもりなのかと首をひねってしまった。
そこで上の写真をためつすがめつして、1時間以上も「ああでもない、こうでもない」と考えたり、対話型AIとやりとりしたりしているうちに、謎が解けた。
前後の車輪で異なる「荷重の受け止め方」
まず後ろの脚柱を見ると、脚柱の後方上部に張り出し(ロッカーアーム)があり、それが脚柱の前上方にあるショック・アブソーバーとつながっている。着陸して荷重がかかると、この構造は後方からショック・アブソーバーを押し込む方向に動くので、これで荷重を受けるとともに衝撃を吸収できる。
脚柱とショック・アブソーバーを結ぶロッカーアームの位置が上方にあるため、脚柱の動きと比べると、ショック・アブソーバーの動きは小さい。ショック・アブソーバーのストロークが短くても、脚柱の上下方向のストロークは長くとれる構造となる。
では、前の脚柱は?
側面から見ると、単純に降着装置のフレームから脚柱をトレーリングアームとして後下方に伸ばしているわけではない様子が分かる。脚柱と別のアームを「く」の字型に組み合わせており、車輪が上下にストロークすると、この「く」の字が縮んだり広がったりする。
実は、「く」の字の上側を構成するアームの後端には一種のロッカーアーム機構が加わっている。荷重や衝撃がかかって「く」の字が縮む動きをすると、このロッカーアームが、上方にあるショック・アブソーバーを縮める動きをするようだ。
こうすると、「く」の字型を構成する2つのアームの長さの比率、それとショック・アブソーバーを動かすロッカーアームの長さの比率や位置関係によって、動きの量が変化する。だから、もっとも理想的な動きになるように寸法を定める自由度が得られるのではないか。構造は複雑になるが、設計の柔軟性は増す。
なぜ前後の車輪で構造を変えたのか
つまり、C-27Jの主脚は前後に並んだ車輪が付いているが、A400Mのそれみたいに、前後とも同じ構造になっているわけではない。脚柱の構造も、ショック・アブソーバーへの荷重伝達も、前後で大きく異なる。
ここまでの話を整理すると、こうなる。
- 前方側は、「く」の字型のリンク機構を構成しており、荷重がかかると「く」の字が縮む動きをする。そして上側アームの後端に組み込まれたロッカーアームが、ショック・アブソーバーを縮めて荷重を受け止める。
- 後方側はもっとシンプルで、脚柱の付け根に設けたロッカーアームがストレートに、ショック・アブソーバーを縮めて荷重を受け止める。
前後の脚柱が、それぞれ独立して動くだけでなく、独立したショック・アブソーバーを持っている。このため、前後の脚柱がそれぞれ個別に、荷重や衝撃を受け止めることができる。
飛行機は機首上げ姿勢をとって着陸するから、前後に並んだ主脚の車輪のうち、後ろの車輪が先に接地する。そこで後ろの車輪はシンプルかつ強固なメカニズムで、接地の際に発生する荷重を受け止める。
その後で前の車輪が接地するが、いったん前後の車輪とも接地すると、たとえば不整地離着陸の際には前の車輪が先に凸凹に当たる。そこで「く」の字型のリンク機構を活用して、凹凸を柔軟にいなす。そういう考え方で設計されているようだ。
複雑な主脚をどうやって収納するのか
では、脚上げのときはどういう動きをするのか。この降着装置一式の上方にリンク機構があり、それを畳み込むようにして、一式を機体の内側に向かうようにして引き上げているようだ。
また、貨物を搭載・卸下する際に、ニーリング、つまり降着装置を縮めて床面と地面の間の高さの差を少なくする操作もできる。このときには油圧ポンプを用いて、ショック・アブソーバーに作動油を押し込んだり抜いたりする。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。




