今回は前回の続きとして、軍用輸送機の巨大な降着装置をどう収納するのかを取り上げる。前回にも書いたように、胴体側面に張り出したバルジに収容して機内スペースを確保するには、とにかく収容時に場所をとらないようにしたい。しかし、接地圧を下げるために車輪の数は多い。
今回は前回紹介した90度回転機構をさらに発展させた、大型輸送機ならではの収納方法を見ていく。そこで設計者が脳漿を絞った結果を御覧あれ。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
これもひねって収容するイリューシンIl-76やC-5
前回に取り上げたC-17と同様に、不整地離着陸も考慮して車輪の数を増やしました。ということで取り上げるのが、イリューシンIl-76。
C-17Aの主脚は、3輪が付いた脚柱が×4セットで12輪、それとダブルタイヤの首脚で合計14輪だった。ところがIl-76ときたら、まず首脚が4輪横並びである。(C-5ギャラクシーもそうだが)
主脚は左右に2セットずつあって、これはC-17Aと同じ。主脚柱ごとに複数の車輪を横並びにしているのもC-17Aと同じだが、その数は4輪ずつでC-17Aより1輪多い。それが4本だから、主脚の車輪は4×4=16個。
この、降ろした状態で車輪がズラリと横並びになった様子を眺めると、名称をめぐって紛糾する「あのお菓子」を思わせるものがある。
閑話休題。首脚はシンプルに引き上げれば済むが、どう見ても幅広な主脚はどうするか。そのまま内側に向けて畳んだら主脚収容室の高さが増えすぎる。
実はIl-76の主脚も90度回転方式で、4個横並びの車輪が付いたボギー部分だけ90度ひねって、車輪が前後方向に並んだ状態にする。それから、内側に引き上げる構造になっている。
онка шасси Ил-76 на земле
C-5ギャラクシーも基本的な考え方は同じだが、こちらは2軸ボギーで、前に2輪、後ろに4輪が付いており、脚柱ひとつに6輪となる。その4輪が並んだ状態で内側に引き上げて引き込むのでは場所をとりすぎるということだろう。
そこでC-5でも、その6輪が付いたボギー部分を90度回転させてから、内側に畳んで引き込む構造になっている。
ちなみにC-5は6輪の主脚が4本と4輪の首脚(これは単純な後方引き上げ)があるので、全部で28輪。交換するとタイヤ代がかさみそうだ。
C-5 Galaxy Landing Gear Retraction/Extend
素直に内側に引き上げるが数で勝負のAn-124
アントノフAn-124の主脚は、素直に内側に引き上げる構成になっている。ただし巨人輸送機で重量も重いから、車輪の数が多い。そこでAn-124がやったのは、脚柱あたりの車輪の数を増やす代わりに、脚柱そのものを増やすアプローチ。
具体的にいうと、片側に5本の脚柱があり、それぞれがダブルタイヤになっている。そして、その片側5本の脚柱を、そのまま内側に畳む仕組み。脚柱ひとつに付いている車輪の数が少ないから、それぞれの収納スペースはそれほど大きなモノにならない。よって、回転させるようなギミックは要らない。
では首脚はどうか。首脚が全部で4輪なのはC-5やIl-76と同じだが、これらの機体は1本の脚柱の先に4輪を横並びにしている。対してAn-124はというと、ダブルタイヤの首脚を左右に2本並べている。これで地上でスムーズに旋回できるのだろうかと心配になる。
Landing Gear Test Antonov An-124-100
脚柱が"ジェンカ"のように並ぶA400Mの独特な収納機構
もうひとつ、風変わりな構造をしているのがエアバスA400M。主脚は片側にダブルタイヤ付きの脚柱が3組あり、それだけ見ると、いわば「五分の三An-124」という按配。ただし脚柱の構造がまるで違う。
A400Mの主脚で面白いのは、降ろした状態で脚柱が斜めになっていること。具体的にいうと、斜め後方下向きになる。その先端に短いトレーリングアームが付いていて、その先に車輪が取り付く。そしてトレーリングアームと脚柱をつなぐ形でストラットを設けており、これが衝撃吸収を受け持つ。
ただし、斜めの脚柱で機体の荷重を受けるわけにはいかない。そこで別途、脚柱の先端、トレーリングアームが付いている部分と胴体をつなぐ形で門型の部材があり、これが荷重伝達を受け持っているようだ。
この一式が前後に3セット並んでおり、まるでジェンカである。そして、その前後に3セットずつ並んだ車輪が、脚上げ操作によって一斉に揃って、後上方に畳み込まれる。その際、左右に並んだ車輪の間に、後ろに隣接する主脚の脚柱が割り込んでくる構造なので、ぶつかることはない。
旅客機でよくある3軸ボギーにしなかったのは、個別にショック・ストラットを設けて柔軟に荷重を受けるためだろう。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。


