第538回で「軍用輸送機は床が低く、地面とのクリアランスが少ないのが特徴」「降着装置は側面に張り出したバルジに収容して、機内スペースを確保している」という話を書いた。

限られたスペースに大きな降着装置を収める必要がある。このことが面倒な形で影響しそうなのが、降着装置の設計ではないか。

そこでさまざまな機体について調べていたら、「これは面白い」といってドンドン数が増えてしまった。そこで複数回に分けてお送りする。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • C-17Aの主脚。横方向に3個の車輪を並べて、それをひとつの脚柱で支える。それが前後にふたつ並んでいるので、タイヤは左右の合計で12個ということになる 撮影:井上孝司

    C-17Aの主脚。横方向に3個の車輪を並べて、それをひとつの脚柱で支える。それが前後にふたつ並んでいるので、タイヤは左右の合計で12個ということになる 撮影:井上孝司

軍用輸送機の降着装置は注文が多い

C-5ギャラクシーみたいに巨大な機体は話が違うが、軍用輸送機は基本的に、不整地離着陸も考慮に入れて設計する。すると、凸凹が多い場所で滑走するので、その際に発生する衝撃に耐えられて、かつ、十分なストロークを確保することが求められる。

また、タイヤの接地圧を小さくしないと、舗装していない不整地ではタイヤが地面にめり込んでしまって身動きがとれなくなる。だからタイヤの数を増やして、接地圧を減らす工夫も求められる。大きく、重くなるとタイヤの数が増えるのは民航機も同じだが、軍用輸送機の方が条件が厳しい。

これらは、降着装置がかさばる原因を増やすことになるが、それを収容するスペースはできるだけ小さくしたい。

といっても、首脚はコックピットの直下にあることが多いから、首脚収納室が貨物室に影響する機体は限られる。該当するのは、C-5やAn-124みたいに、貨物室が機首まで延びている機体ぐらいだろう。ところが、胴体の中央部左右に設置する主脚は話が違う。

こうした事情があるので、軍用輸送機の降着装置、とりわけ主脚は設計者が知恵を絞るところであるし、それが外部の人間からすると面白いポイントでもある。能書きはこれぐらいにして、実機の具体例をいくつか見てみよう。

V-22オスプレイは、わりとシンプル

まず、どちらかというと小型軽量な機体の一例として、V-22オスプレイ。横田基地のオープンハウスでデモフライトを実施したときに、ありがたいことに空中で脚の出し入れをやってくれたので、手元に写真がある。

オスプレイは一般的な固定翼軍用輸送機と同様に、胴体の左右にバルジを張り出しており、そこに主脚を収容している。そこで、横田で撮影してきた写真を見ると、シンプルに前上方に向けて引き込んでいるのが分かる。

ただし、真正面から見た写真でお分かりの通り、主脚の車輪はバルジよりも外側まで出ている。これを単純に前上方に引き込んだのでは納まらないから、回転軸を斜めにして、内向きに傾けて引き込んでいるのだと分かる。

  • 脚を出した状態のCV-22を真正面から。主脚のダブルタイヤがバルジよりも外側に出ている様子が分かる 撮影:井上孝司

    脚を出した状態のCV-22を真正面から。主脚のダブルタイヤがバルジよりも外側に出ている様子が分かる 撮影:井上孝司

  • 主脚を出した状態では脚柱が支障する部分だけ扉を開いているが、出し入れする際にはその前方の扉も開く。この時点ですでに、脚柱は少し斜めになっており、引き込み始めているのだと分かる 撮影:井上孝司

    主脚を出した状態では脚柱が支障する部分だけ扉を開いているが、出し入れする際にはその前方の扉も開く。この時点ですでに、脚柱は少し斜めになっており、引き込み始めているのだと分かる 撮影:井上孝司

  • もう少し引き込みのプロセスが進んだ状態。内向き斜め上方に引き上げられた主脚が、もうすぐ機内に納まろうとしているタイミング 撮影:井上孝司

    もう少し引き込みのプロセスが進んだ状態。内向き斜め上方に引き上げられた主脚が、もうすぐ機内に納まろうとしているタイミング 撮影:井上孝司

  • 収容が終わり、扉を閉めかけている状態。なお、首脚の方はシンプルに後上方に向けて引き込んでいる 撮影:井上孝司

    収容が終わり、扉を閉めかけている状態。なお、首脚の方はシンプルに後上方に向けて引き込んでいる 撮影:井上孝司

90度ひねって収納!? C-17A驚きの主脚機構

脚フェチ、すなわち降着装置大好き人間にとってたまらない魅力がありそうなのが、C-17Aの主脚。

冒頭の写真でお分かりの通り、車輪は脚柱に直接取り付けられていない。脚柱の前側(写真では左側)にある部材からトレーリングアーム(?)を取り付けて、その先に車輪を取り付けている。こうすることで、車輪が上下に動くストロークを確保している。もちろん、その際の衝撃を吸収するための油圧装置も付いている。

そして、この主脚を機体の外側に出るように降ろして左右方向の轍間距離を稼いでいるため、主脚柱の上端部がバルジからはみ出しているのも、C-17Aの面白いポイント。

  • C-17Aは主脚を降ろすと、脚柱の上端が外部にはみ出してしまう。そのままでは外板を突き破ってしまうから、ちゃんと扉が開く 撮影:井上孝司

    C-17Aは主脚を降ろすと、脚柱の上端が外部にはみ出してしまう。そのままでは外板を突き破ってしまうから、ちゃんと扉が開く 撮影:井上孝司

面白いのはここから先。実は、C-17Aの主脚の脚柱は単純な一体の円柱ではなくて、車輪を取り付けている下端部は独立したパーツになっている。そして左右に首を振れる構造。なぜそんなことをする必要があるのか。それを知るには、飛行中に降着装置を降ろした状態を見る必要がある。

  • 飛行中に脚を降ろしたC-17A。主脚収納室が妙に前後方向に長く、主脚の前後に空きスペースがあるのが分かる 撮影:井上孝司

    飛行中に脚を降ろしたC-17A。主脚収納室が妙に前後方向に長く、主脚の前後に空きスペースがあるのが分かる 撮影:井上孝司

「脚柱を畳んで引き込めば、そのためのスペースが要るんだから前後方向の余裕があるのは当たり前では?」

ちっちっち、違うんですよそれが。実はC-17Aの主脚、横に3個の車輪を並べたボギー部(?)を90度ひねって、前後向きにしてから主脚を引き込んでいる。

また、収納の際に主脚柱上端部が機体外板に支障するのを防ぐため、地上で開いている扉そのものが、もっと大きい扉の一部分になっており、その大きい方の扉が開いている様子も、以下の写真で明瞭に分かる。

  • 上の写真の続き。この写真を見ると、ひとつ前の写真とは車輪の向きが違い、車輪が横向きになっているのが分かる 撮影:井上孝司

    上の写真の続き。この写真を見ると、ひとつ前の写真とは車輪の向きが違い、車輪が横向きになっているのが分かる 撮影:井上孝司

  • だから、主脚収納室は3個の車輪が並んだ状態のものを収容できるだけの前後方向の長さを確保している 撮影:井上孝司

    だから、主脚収納室は3個の車輪が並んだ状態のものを収容できるだけの前後方向の長さを確保している 撮影:井上孝司

しかも、その状態の主脚は単純に内側に向けて畳み込んでいるわけではなくて、上方に引き上げるようにして収容している。だから、単純に脚柱の上端に回転軸を取り付けても実現できない。脚柱を含めて2個の部材をL型に組み合わせて、接続部分にヒンジを設置すれば実現できそうだが、荷重をどう受けるかが悩みどころになりそう。

機内貨物室へのはみ出しを防ぐための工夫とはいうものの、複雑な動きをして、かつ、離着陸・駐機時の荷重を受け止めなければならない。しかも、出し入れの際に支障する主脚柱を避けるため、扉付きの扉を開閉するというめんどくさい構造まで加わる。こういうところが降着装置好きのハートを撃ち抜くわけである。

参考 : C-17 gear retraction

タイトル

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。