軍用輸送機の本来の仕事は、人員や物資を運ぶことだ。前回に「積荷を降ろす方法」として物量投下の話を書いた。

現代の軍用輸送機は後部ランプを備えているのが一般的だから、それを開けて後方から投下する。ところが、最近では投下するモノが多様化して、普通の貨物だけとは限らなくなった。今回は、軍用輸送機が見せる意外な“変身ぶり”を取り上げる。

水を投下する(消防機)

第471回でも触れた話だが、機内に水タンクと散水装置を搭載すれば、山火事の際に火消しに出動する消防機に化ける。後部にカーゴランプを持ち、それを飛行中に開放できる軍用輸送機ならではの使い方である。

第471回ではMAFFS II(Modular Airborne Fire Fighting System、モジュラー型機上消火システム)を紹介した。これの放水能力は3,000ガロン(USガロンなら、リットルに直すと11,400リットル)もある。C-130みたいに、相応の機体規模がある機体でなければ搭載できないが、消防ヘリコプターよりも搭載量が大きい強みがある。

  • MAFFSを用いて山火事消火を行う米空軍のC-130 Photo : USAF

    MAFFSを用いて山火事消火を行う米空軍のC-130 Photo : USAF

その第471回でも最後に少し触れたが、エアバスはA400M輸送機に搭載する消防キットを開発している。すでに2024年の秋から冬にかけて、そして2025年の春に、試験を実施したことがある。

2026年2月に取材で、スペインのセビーリャにあるエアバスの工場を訪れたときに、このA400M用消防装置の現物を間近で見せていただいた。

その際の説明資料によると、A400Mは手動操縦なら、日中で高度150ft、夜間で高度300ftの低空飛行ができる。これはVMC(Visual Meteorological Conditions)の場合の数字。自動操縦だと、VMCとIMC(Instrument Meteorological Conditions)のいずれでも、昼夜ともに高度500ftが下限となる。

あまり高いところから放水すると水が広い範囲に散らばってしまい、消火の効果が薄れるかも知れない。すると、できるだけ低空まで降りる方が好ましいので、搭載能力だけでなく低空飛行能力も関わってくるのだと理解できる。

A400M消防キットの仕組み

A400M消防機の搭載能力は20tで、C-130用のMAFFS IIよりもだいぶ多い。現物を見るとタンクの側面に目盛が書かれており、上限が「20,000」となっていることから、20tの水を積み込めることが確認できた。

水タンクは円筒形で、それを平らなパレットの上に取り付ける構造になっている。つまり、パレットに載せた貨物を機内に積み込んで固定するのと同じ要領で、放水用の水タンクを機内に積み込んで固定できる。だから、エアバスはこれを “Roll-on/Roll-off (Ro-Ro) firefighting kit ” と呼んでいる。

タンクの後方にパネルがあり、そこに放水用のノズルを接続する構造。以下に示したエアバス公式チャンネルの動画を御覧いただくとお分かりのように、四角い断面のノズルを左右に2個、並べた構造になっている。そして、横で待機している乗員がレバーを操作すると水路が通じて、放水を始める仕組み。

Airbus upgrades A400M firefighter prototype kit

A400M Successful Firefighter tests

  • M消防キットを用いて消火剤を散布するA400M Photo : Airbus

    消防キットを用いて消火剤を散布するA400M Photo : Airbus

過去に実施した試験では、対地高度150ft(約46m)を飛行しながら、20tの水を10秒間で放出したとのこと。毎秒2tの水が頭上から降ってくるのは、かなりの分量である。

消防用の機材がひとまとまりになってパレットに載っているから、それを降ろせば普通の輸送機として使えるところがキモだ。毎日のように出番があるとは限らない消防機だから、普段から有効活用できることは経済性の観点からいって重要である。

空中給油機に変身

水タンクを積むと消防機に化けるのなら、燃料タンクと給油装置を積むと空中給油機に化ける理屈である。実際、軍用輸送機をベースとする空中給油機の実例は古くからあり、C-130をベースとするKC-130やMC-130コンバットタロンなどが該当する。

近年の機体だと、エンブラエルのC-390輸送機は空中給油機能の追加も可能で、それゆえにKC/C-390と呼ぶこともある。

また、エアバスもA400Mに空中給油機能を持たせる開発を実施した。機体が大きいだけに51tの給油能力があり、すでにユーロファイター・タイフーン、JAS39グリペン、F/A-18、ラファール、ハリアー、トーネード、Su-30、A400M、F-35B/C、C-295、H225M、V-22といった機体が、受油機としての認定を済ませているとの説明。

  • M2機のF/A-18に対して同時に空中給油を実施するA400M Photo : Airbus

    2機のF/A-18に対して同時に空中給油を実施するA400M Photo : Airbus

2機のF/A-18に対して同時に空中給油を実施するA400M。(Photo : Airbus) この顔ぶれでお気付きかと思うが、みんなプローブ&ドローグ方式である。輸送機ベースの空中給油機はたいてい、貨物室に燃料タンクを備えて、そこから翼下に設置したドローグホースに配管をつなぐ構成だ。

さすがに、後部のカーゴランプをつぶしてフライング・ブームを付けるのは改設計・改造の範囲が大きすぎるし、よしんばそれを実現したとしても輸送機としての能力が損なわれてしまう。一方でメリットもあり、C-130やA400Mみたいなターボプロップ推進の機体は、速度が遅いヘリコプターにも給油ができる。

空中発進や空中発射

この話は後日の回で詳しく取り上げる予定なので、今回は「サワリ」だけにしておくが、後部のカーゴランプから無人機を発進させる試験を実施した事例もある。

これこそ空飛ぶ空母である……といいたいところだが、現時点では空中回収の事例はほとんどなく、基本的には片道切符だ。といっても、第257回で取り上げた米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)のグレムリン計画みたいに、空中回収の事例もあるにはあるのだが。

類似の使い方として、カーゴランプからミサイルを収容したコンテナを空中投下して、そこからミサイルを撃ち出す試験を実施したこともある。米空軍研究所(AFRL : Air Force Research Laboratory) が実施した “Rapid Dragon” 計画がそれだ。

戦闘機や爆撃機ではなく、わざわざ輸送機を使う理由はなんだろうと思われそうだが、おそらくは搭載量の多さを買ったものであろう。

ただ、軍用輸送機を使用するが故の制約もあって、後部のカーゴランプから投下することしかできない。それが「コンテナごと投下して空中発射」という形につながったものと思われる。位置関係からすると、機内からいきなり撃ち出すことはできないのだ。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。