第538回でもちょっと名前を出したが、今回はボーイングH-47チヌークにフォーカスして書いてみたい。軍用の輸送ヘリコプターは多種多様な機体があるが、固定翼輸送機に近い使い勝手を実現しているのがH-47のユニークなところ。なぜ半世紀以上にわたって世界各国で使われ続けているのか、その理由を見ていこう。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
なぜタンデムローター機は少ないのか
ヘリコプターでは反トルクをどうやって打ち消すかが問題になるが、そこで考案された方式のひとつがタンデムローター。前後にふたつのローターがあり、互いに逆方向に回転することで反トルクの影響を打ち消す仕組みである。
と書くだけなら簡単だが、実はタンデムローターのヘリコプターはビックリするぐらい数が少ない。実は、ちゃんとヘリコプターとして飛んで、操縦できるタンデムローター機を開発するのは、かなり難しい仕事だったらしい。
前後のローターの間で回転数や位相を合わせるか、ピッチ制御やヨー制御をどうやって実現するか、ローター同士の空力的な干渉やローターからの振動伝達といった問題をどう解決するか、etc, etc。
このタンデムローター機、ピアセッキ(パイアセッキとも)のPV-3が元祖。この機体はプラット&ホイットニーのR-1340という空冷星形レシプロ・エンジンを動力源としており、これを後部胴体に内蔵した。
その後、ピアセッキはバートル~ボーイング・バートル~ボーイング・ヘリコプターズ~ボーイング・ロータークラフト・イン・フィラデルフィア~ボーイング・ロータークラフト・システムズと社名を改めながら、何機種かのタンデムローター式ヘリコプターを開発・製造した。
その殿にして未だに製造が続いているのが、H-47チヌーク。単に大型で搭載量が大きいというだけでなく、配置やメカニズム面でもいろいろ特徴がある。
機内空間を最大化する配置
H-47の動力源はターボシャフト・エンジンが2基。機種はいろいろあるが、そのエンジンを胴体内部ではなく、後部胴体の外側上部・左右に追い出している。そこからつながるトランスミッションも、後部胴体の上部に高くそびえる張り出しの中に収めている。
タンデムローター機だから機首にもローターがあるが、こちらも上部に張り出しを設けて、その中に駆動機構を収めている。動力は、後部のトランスミッションから、胴体上部に組み込まれた回転軸を通じて伝達する。
燃料タンクも、胴体内ではなく、両側面の張り出しに収めている。こうすると重心付近に燃料タンクを置ける利点もある。
そして降着装置は固定式だから収納室は要らない。四本脚で、機首側の降着装置は2輪、尾部側の降着装置は1輪、それが左右にあって全部で6輪。ちなみに意外と脚が速くて、最大速力は300km/hぐらい出る。
H-47の配置なら機内スペースを食い潰すものがないから、胴体内部はコックピットと貨物室でフルに使える。そしてタンデムローター機の利点で、胴体の後端部に貨物の揚搭に使用する開口と扉を設けている。テイルブームがあったらこうはいかない。
固定翼の軍用輸送機と同様にカーゴランプの備えもあるので、(機内に収まるサイズのものであれば)車両の揚搭もできる。床に固定用リングだけでなくローラーの備えまであるから、パレットに載せた貨物の搭載もできる。この辺の使い勝手は固定翼の軍用輸送機に近い。これがH-47の最大の特徴といえる。
後部ランプと吊下空輸が生む圧倒的な運用力
先日、陸上自衛隊の富士総合火力演習を観覧する機会をいただいたが、このときにはCH-47が出てきて、後部からファストロープ降下を実施していた。
冒頭の写真にあるように、後部の貨物室扉を開けて、そこに門型のフレームを立てる。そのフレームから地上に向けて太いロープを垂らして、それに掴まって地上に向けて滑り降りる図式。
このほか、木更津駐屯地の一般公開イベントで、後部から空挺降下を行う展示を観たことがある。これも固定翼の軍用輸送機と同じである。
もっとも、H-60みたいに側面の扉を使用する方法なら、左右で同時に降下させることができる。どちらに戦術的メリットがあるかというと意見は分かれるかも知しれない。
一方で、(V-22以外の)固定翼輸送機では逆立ちしてもできない能力として、吊下空輸がある。胴体下面に3ヶ所のフックを備えており、長尺貨物でも複数のフックを用いることで安定して吊せる(振れ回りを防げる)。
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富士総合火力演習で車両を吊下空輸するCH-47。前後2カ所のフックで吊るしている様子が分かる 撮影:井上孝司
半世紀たっても代わりが現れない理由
タンデムローターという特長を活かして、固定翼輸送機に近い使い勝手と回転翼輸送機ならではの能力を併せ持っているからこそ、大型で高価な機体であるにもかかわらず、H-47が売れ続けているということなのではないか。
この辺は基本配置で決まってしまう話だから、異なる基本レイアウトを持つ他の機体がキャッチアップしようとしても、どうにもならない。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。





