今回も前回に引き続き、レシプロ・エンジンを使用するヘリコプターを取り上げる。今回の主役は、機首に観音開きのカーゴドアを備えたシコルスキーCH-37モハーベ(海軍名称はHR2S、民間型はS-56)。
通常、輸送ヘリコプターは後部にランプを備えるが、この機体は“前から積み込む”。しかも、大型の空冷星形エンジンを2基搭載している。
何をどうするとそんな機体ができるのか。設計の背景をひもとく。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
なぜCH-37は機首から貨物を積み込む構造になったのか
無人機ならパイロットは乗らないから、コックピットを省略できる。それなら機内を前端まで貨物室にしてしまい、機首に扉を設けて貨物の揚搭を行う設計が実現可能になる。
ところが、CH-37は有人機である。当然ながらコックピットは必要だ。開発は1950年代の話だから、無人化なんて考えられない。
しかし、アメリカの陸軍と海兵隊は「完全武装した兵員を乗せる強襲輸送ヘリコプターが欲しい」といい出した。しかも兵員だけでなく、105mm榴弾砲や小型トラックまで運びたいという。
兵員だけなら、大抵のヘリコプターがそうしているように、側面にスライドドアを設ければいいが、それでは車両や火砲の揚搭は難しい。
なぜコックピットは機首上部に配置されたのか
そこでCH-37は、機首の下半分に観音開きのカーゴドアを設置して、そこから貨物室にアクセスできる設計とした。ではコックピットはどうしたかというと、機首の上半分。後部のキャビンと比較すると、機首はいくらか上方に突出しており、それを上下に分けた格好。
コックピットとカーゴドアの両方を機首に設置しようとすれば、こうするしかない。高さ方向は窮屈になるが、冒頭の写真を見ると分かるように、カーゴドアの高さは人が少しかがめば通れるぐらいを確保できたようだ。ダッジWCというクルマを出し入れしている写真もあったが、さすがに窓や幌は外している。本来の高さは約2mぐらいだが、窓や幌を外せば1.5mぐらいには抑えられるだろうか。
コックピットはもう少し窮屈そうだが、出入りするとき以外は座っているわけだから、そこは割り切ったのだろう。
その機首は一応、丸みを帯びた形に整形されているので、カーゴドアは前面だけとはいかず、側面に回り込む形とした。そして後端部にヒンジを設けて、左右にガバッと開く。
なお、Youtubeに動画が上がっていたので紹介しておく。
シコルスキー CH-37 モハベ(1960年)
なぜ大型エンジンを胴体の左右に配置したのか
大型エンジンで機内スペースを圧迫しないため、外部に配置された。
その大きな機体を飛ばすためには、大馬力のエンジンが要る。しかし開発時期が時期なので、まだ大出力のターボシャフト・エンジンは手に入らない。どうするか。
前回に取り上げたシコルスキーH-19(民間名称S-55)と同様に、CH-37も空冷星形のレシプロ・エンジンを使っている。モノはプラット&ホイットニー製のR-2800ダブルワスプ。第二次世界大戦中にグラマンF6Fヘルキャット、ヴォートF4Uコルセア、リパブリックP-47サンダーボルトなど、あまたの軍用機を支えた傑作エンジン。これを2基、載せることにした。
しかしR-2800はけっこう大きい。外径は52.8インチ(1,342mm)もある。いまどきのターボシャフト・エンジンなら小さいから、トランスミッションともども胴体上部に組み込むことができる。UH-60ブラックホークやAH-64アパッチで使用しているT700エンジンの現物を間近で見たことがあるが、ビックリするぐらい小さい。しかしR-2800みたいな空冷星形エンジンでは、そうはいかない。
それをH-19みたいに胴体内に組み込んだら、キャビンのスペースを圧迫してしまい、大搭載量の輸送ヘリコプターという要求を達成できない。そこでCH-37では2基のエンジンを胴体の左右に追い出して、それをナセルで覆った。
これで、長さ30フィート4インチ(9.2m)、幅7フィート8インチ(2.3m)、高さ6フィート8インチ(2.0m)、容積が約1,500立方フィート(24.5立方メートル)という、当時のヘリコプターとしては大きな貨物室を確保できた。ここにジープなら3台、完全武装の兵士なら26名を乗せられた。
エンジンと機体構造はどうつながっているのか
外部に配置したエンジンは、駆動軸や支持構造によって機体と結ばれている。
トランスミッションだけはどうしようもないので、胴体上部に配置している。それと左右のR-2800エンジンを、駆動軸で結ぶ。そこにクラッチを組み込んであるので、必要とあらば動力伝達を切ることもできる。例えば、地上でエンジンの試運転をするときは、クラッチを切ったのだろう。
しかも、冒頭の写真でお分かりのように、そのエンジンの下に降着装置を設けている。すると、胴体から側方に構造材を延ばして、そこにエンジン支持架を設けて、その下側に降着装置が取り付く形となる。この一式に、飛行中はエンジンなど一式の重量が、着陸中は機体の重量がかかってくるから、相応に強固に作らなければならない。
胴体とエンジン支持架を結ぶ部分は、フェアリングで覆われている。その中に、エンジンとトランスミッションを結ぶ駆動軸も通っているわけだ。
エンジンの設置位置が高いから、足場がなければアクセスできなかったと思われる。それでも、エンジンが完全に胴体の外部に位置しているから、点検整備の際のアクセス性はそれなりに良かったのではないだろうか。
ちなみに、エンジンの下に付いている降着装置は引込脚になっていて、飛行中は後方に跳ね上げて収容する仕組み。だからナセルの後ろ半分・下半分は降着装置の収納室になっている。一方、後部胴体の下面に付いている尾輪はむき出しの固定式。
大型レシプロ・エンジンはどう冷却していたのか
ただ、この左右に設けた大きなエンジン・ナセルの写真を見ると、目立つ開口部が見当たらない。もちろんどこかに空気取入口はあったのだろうが、離昇出力2,100馬力(巡航出力1,900馬力)を発揮するエンジンをどうやって冷やしていたのだろうか。
そこでよく見ると、前方はナセルで覆われているが、その先端部に丸い穴が開いている。また、側面はメッシュ状の開口になっている。一応は、前方から空気を取り入れて、熱気を側面から排出できる設計になっているように見える。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。


