最初に結論:「楽天モバイル 最強パーク宮城」の最新キャッシュレス決済を現地で取材した。
記事の重要ポイント:
  • 1:モバイルPOSなどの導入で来場者がより快適に観戦できる環境づくりへ
  • 2:裏側ではパナソニック デジタルのシステムが運営管理を支え、スタジアム全体のDX基盤に
  • 3:ID連携は楽天グループならではの特徴。マーケティング施策に活用

日本プロ野球の球団、東北楽天ゴールデンイーグルスが本拠地とするスタジアム「楽天モバイル 最強パーク宮城」(2026年1月からの愛称)は、2019年から完全キャッシュレス決済を導入している。スタジアム内の飲食店、グッズショップ、観戦スタンドでドリンクと笑顔を届ける売り子さんなど、すべてキャッシュレス決済で現金は使えない。

  • 「楽天モバイル 最強パーク宮城」(宮城球場)は、2005年に東北楽天ゴールデンイーグルスが日本プロ野球に参入するときから改修を重ねてきている。当時、米国メジャーリーグ風の「ボールパーク」を掲げたことも斬新だった

    「楽天モバイル 最強パーク宮城」(宮城球場)は、2005年に東北楽天ゴールデンイーグルスが日本プロ野球に参入するときから改修を重ねてきている。当時、米国メジャーリーグ風の「ボールパーク」を掲げたことも斬新だった

導入から10年以上が経過し、さまざまな課題が蓄積してきたことから、2024年のシーズンオフにシステムを全面的にリニューアル。POS(Point of Sale:販売時点情報管理)およびレジ端末などを一新し、販売側にとっても来場者にとっても、便利で使いやすい環境を構築している。

今回、楽天モバイル 最強パーク宮城を訪れ、東北楽天ゴールデンイーグルスを運営する楽天野球団、システム面を一手に担当したパナソニック デジタル、そして現地における新システムの運用状況を取材した。対応してくれたのは、楽天野球団の大柴大志氏、パナソニック デジタルの大熊義和氏だ。

  • 楽天野球団 マーケティング本部の大柴大志氏(右)、パナソニック デジタル アナリティクスプラットフォーム統括部の大熊義和氏(左)

    楽天野球団 マーケティング本部の大柴大志氏(右)、パナソニック デジタル アナリティクスプラットフォーム統括部の大熊義和氏(左)

楽天モバイル 最強パーク宮城は、日本国内のスポーツ施設としては早い段階からキャッシュレス運用を進めてきたスタジアムだ。

今回のリニューアルは単純な機器の更新ではなく、飲食、物販、売り子、VIPルーム、外周ワゴンといった多様な販売形態を整理し、スタジアム全体の販売データを統合。加えて、楽天IDとの連携を強化し、マーケティング基盤としても再設計した点が大きな特徴となる。お客側にとっては、現在使えるほとんどのキャッシュレス決済に対応したことが大きなメリットだ。

二重入力と“20人必要なレジ”という現場課題

従来のシステムにおいて、販売店舗で大きな問題になっていたのは「二重打ち」だ。

特に、固定POSを置けないワゴンやキッチンカーでは、POS端末と決済端末が分離しており、販売情報と決済金額をそれぞれ入力する必要があった。オペレーション時間が増えるだけでなく、ヒューマンエラーによる入力ミスがどうしても発生する。実際、店舗によっては1日に数件の修正対応が発生していたという。

楽天野球団の大柴氏は、「一番の課題はデータの二重打ちでした。多い店舗では1日に5回、6回と入力ミスが発生していました」と振り返る。

人手不足も大きい。販売スタッフの主力は学生アルバイトだが、学校の卒業とともに辞めていくケースが大半だ。合わせて昨今の社会情勢でもあるように、アルバイトスタッフ自体が集まりにくくなっている。

  • 「アルバイトスタッフ自体が集まりにくくなっていますし、熟練スタッフを継続して確保するのも簡単ではありません。短期間で現場のオペレーションを覚えられるシンプルなシステムと運用が必要でした」(楽天野球団・大柴氏)

    「アルバイトスタッフ自体が集まりにくくなっていますし、熟練スタッフを継続して確保するのも簡単ではありません。短期間で現場のオペレーションを覚えられるシンプルなシステムと運用が必要でした」(楽天野球団・大柴氏)

また、スタジアム内の公式グッズショップでは、20台前後のレジを稼働させるために同じ規模のスタッフが必要だった。レジ打ちから袋詰めまで有人で運用してきたが、人員確保の負荷が大きかったという。

「20台くらいのレジを動かそうと思うと、基本的には20人のレジスタッフが必要です。袋詰めまで含めると、どうしても有人前提の運営になっていました」(楽天野球団・大柴氏)

そこで今回のシステムリニューアルでは、飲食部門にモバイルPOSを導入し、決済端末とPOS機能を一体化。公式グッズショップではセミセルフレジを導入した。公式グッズショップのレジ打ちは有人だが、決済はお客側が行う。1台の有人レジに対して複数のセルフ決済端末が用意されており、購入の流れがとてもスムーズだ。

「セルフレジ自体は、スーパーなどで見れば珍しいものではありません。ただ、それをスタジアムに持ち込んだときに、本当に成立するのかというのは別の話なんです。試合開始前は短時間に一気にお客さまが集中しますし、グッズショップは導線も特殊です。ですので、“スタジアムで成立するセルフレジ”をどう作るか、パナソニック デジタルさんとかなり細かく議論しながら進めました」(楽天野球団・大柴氏)

  • 公式グッズショップのレジ。1台のレジにつき、2~3台の決済端末が設置されている

    公式グッズショップのレジ。1台のレジにつき、2~3台の決済端末が設置されている

  • 公式グッズショップの決済端末。スタッフによってレジ打ち(購入商品の登録)は完了しているので、その際に渡される伝票のQRコードを読み込ませる

    公式グッズショップの決済端末。スタッフによってレジ打ち(購入商品の登録)は完了しているので、その際に渡される伝票のQRコードを読み込ませる

  • 対応するキャッシュレス決済

    対応するキャッシュレス決済

「端末ひとつ」で完結するモバイルPOS

新しいシステムで現場から特に評価が高かったのは、モバイルPOSだ。従来は、登録用端末、決済端末、スキャナー、アダプター、プリンターなど複数機器をセットで持ち運ぶ必要があり、開店前には毎回それらを準備していた。

新システムでは、モバイル型POS端末1台で商品の登録から決済まで完結する構成へ変更。売店側の準備や締め作業が大幅に簡素化された。

「以前は登録用端末にスキャナーが付いていて、さらに決済端末、プリンターなど複数機器を毎回準備していました。今は端末1台を持っていくだけで済みます。締め作業もかなり簡単になり、店舗さんからもとても評判がいいですね」(楽天野球団・大柴氏)

  • モバイル型POS端末の導入によって、店舗のオペレーション負担が格段に軽くなった(写真:楽天野球団提供)

    モバイル型POS端末の導入によって、店舗のオペレーション負担が格段に軽くなった(写真:楽天野球団提供)

パナソニック デジタルによれば、スタジアム用途では「操作を1アクションでも減らしたい」という要望が特に強かったとのこと。プロ野球の試合ともなれば数万人規模の来場者が訪れるため、一つひとつの操作が待機列の長さと待ち時間、引いては来場者の満足度へ直結する。

「野球場って、とにかくお客さまを早くご案内しないといけないんです。ですので、“ボタンを1回押す操作を減らせないか”という話は、かなりしました。一般的な店舗向けPOSというより、“スタジアムでどうさばくか”を優先した設計になっています。お客さま側に決済選択パネルを出したのも、その1つですね。店舗側は、その間に袋詰めなど別作業を進められます」(パナソニック デジタル・大熊氏)

操作画面のUI設計も極力シンプル化。キャッシュレス決済の選択を客側ディスプレイへ移し、店舗スタッフが袋詰めなど別作業を同時進行できるようにした。また、20歳未満へのアルコール販売対策として、年齢確認表示も実装。店舗側が確認を行った証跡を残せるようになった。

  • 「野球場の店舗は短時間で一気にお客さんが集中します。物理的な操作を1つでも減らせるように、UIを含めて詰めました」(パナソニック デジタル・大熊氏)

    「野球場の店舗は短時間で一気にお客さんが集中します。物理的な操作を1つでも減らせるように、UIを含めて詰めました」(パナソニック デジタル・大熊氏)

スタジアム全体を“1つのシステム”で管理

飲食と物販を同一基盤へ統合したことも新システムの特徴だ。商品マスター、売上、在庫のデータを一元化し、クラウド上のPOSサーバーと球団側の基幹システムを連携させ、全体管理を実現。これにより、バックオフィス側で発生していたExcel統合作業や、二重入力作業も削減された。

「飲食と物販でシステムが別になっているケースは多いのですが、今回はスタジアム全体を1つの基盤として整理しています」(パナソニック デジタル・大熊氏)

システム全体はクラウド基盤上に構築され、楽天ポイント、楽天ペイ、DWHサーバーとも接続。通信障害時にはオフラインで売上登録を継続できる設計としている。サーバーの冗長化も進め、障害となるポイントを減らした。

楽天ID連携で“どんな人が何を買ったか”まで可視化

楽天IDとの連携も、楽天グループらしい特徴といえる。

楽天モバイル 最強パーク宮城では、チケット購入やファンクラブ利用時にも楽天IDを使用する。そこへスタジアム内の購買データが紐づくことで、「どの年代が、どの席から、何を購入したか」といった分析が可能になった。楽天野球団は、こうしたデータを店舗へフィードバックしている。

「楽天ポイントを利用していただくことは、私たちにとって非常に重要です。楽天会員情報と、球場内での購買データを紐づけることで、『どの年代のお客さまが』『どの席から』『何を購入したか』まで分析できます。単に楽天ポイントが使えるという話ではなく、マーケティング基盤としてかなり大きい。店舗さんにもフィードバックしていて、商品ラインナップの見直しにも活用されています」(楽天野球団・大柴氏)

例えば、ある飲食店は高価格帯のメニューを提供していたが、若年層が取り込めていないことが明らかに。そこで低価格帯から中価格帯のメニューを追加したところ、売上が大きく伸びた。これまで感覚的に把握していた顧客傾向を、データとして可視化できるようになったことで、店舗側も戦略を立てやすくなったとしている。

売り子の販売データもリアルタイム化へ

もうひとつ大きなトピックは、売り子向け新システムだ。楽天グループ独自の携帯販売端末「楽天ペイターミナル」を利用している関係で、従来はPOS連携が難しかった。今回、楽天ペイターミナル向けに専用アプリを開発し、売り子の販売データもリアルタイムで取得できるようになった。

  • 観戦スタンドでビールなどを提供する売り子が携帯している販売端末の「楽天ペイターミナル」。今回、この端末用に新しいアプリを開発した。なお販売データの分析は、楽天野球団の個人情報保護方針に基づき、適切に匿名化・統計処理を施したデータで行っているという

    観戦スタンドでビールなどを提供する売り子が携帯している販売端末の「楽天ペイターミナル」。今回、この端末用に新しいアプリを開発した。なお販売データの分析は、楽天野球団の個人情報保護方針に基づき、適切に匿名化・統計処理を施したデータで行っているという

「どの座席で、いつ、何が購入されたか」を把握することが可能。売り子ごとの販売数をリアルタイムで表示し、モチベーションを高める施策にも活用していく予定だ。

「例えば『Aさんは100杯、Bさんは80杯』という形で表示すれば、“もう少しがんばろう”というモチベーションにもつながります」(楽天野球団・大柴氏)

スポーツビジネスでは、観戦スタンドの売り子という文化そのものが観戦体験の一部になっている。単なる決済の効率化だけでなく、現場オペレーションやエンターテインメント性まで含めて設計している点が興味深い。

キャッシュレス運営を“次の段階”へ

楽天モバイル 最強パーク宮城では、完全キャッシュレス導入から8シーズン目に突入した。現在ではQRコード決済や電子マネー対応も拡大し、決済手段は大幅に増えている。今回のリニューアルは、スタジアム全体をデータ基盤として再設計し、現場オペレーション、マーケティング、顧客体験を横断的につなぎ直す取り組みだ。

一方で、高齢層などキャッシュレスに不慣れな来場者への対応も継続している。球場内には約30台の楽天Edyチャージ機を設置し、Edyカードによる利用をサポート。初めて来場する中学生以下の子どもへ無料カードを配布する施策も続けている。

  • スタジアム内に設置された楽天Edyチャージ機

    スタジアム内に設置された楽天Edyチャージ機

  • スタジアム内にある公式グッズショップ(当然ここもキャッシュレス決済)。端を見ると……

    スタジアム内にある公式グッズショップ(当然ここもキャッシュレス決済)。端を見ると……

  • 裏で運営管理を支える……だけでなく、表に堂々とパナソニック デジタルの看板が出ていた

    裏で運営管理を支える……だけでなく、表に堂々とパナソニック デジタルの看板が出ていた

パナソニック デジタルと楽天野球団では今後、米国メジャーリーグや他スポーツ業界の入場・販売システムの事例も参考にしながら、さらなる待ち時間の短縮や購買ストレスの低減などの価値提供を目指していく。

「一番のテーマは“お客さまのストレスをどこまで減らせるか”です」(楽天野球団・大柴氏)

  • 取材日のゲームは「楽天 vs オリックス」。筆者はイーグルス設立から応援していて、いろいろなスタジアムに何度も足を運んだ。2013年の日本一には感動したなぁ

    取材日のゲームは「楽天 vs オリックス」。筆者はイーグルス設立から応援していて、いろいろなスタジアムに何度も足を運んだ。2013年の日本一には感動したなぁ