名古屋大学(名大)は10月22日、6インチのSiC単結晶基板を、高品質な結晶成長が可能である「溶液成長法」を用いて作製することに成功したと発表した。

同成果は、名大 未来材料・システム研究所の朱燦特任助教、同・宇治原徹教授らの研究チームによるもの(結晶の加工については日立金属の協力を得ている)。詳細は、仏・トゥール市にて現地時間10月24日から28日にかけて開催される欧州SiC関連材料国際会議「European Conference on Silicon Carbide and Related Materials 2020-2021(24日の講演番号We-P-43)」にて発表される。 次世代パワー半導体としてSiCやGaNに注目が集まっている。中でもSiCは高電圧分野での活用が期待されているが、従来の昇華法による結晶成長では結晶欠陥密度が高いという課題があり、長年にわたってそれを低減する手法の開発が各所で進められてきた。研究チームが取り組んできたのは「溶液成長法」という別の成長手法で、2017年には昇華法と比べて1桁以上、欠陥密度を低減することができることが報告されている。

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    X線による結晶欠陥の評価結果 (出所:名大プレスリリースPDF)

しかし、溶液成長法は、その成長できるサイズが10mm角程度と実用化には向かない大きさに留まっており、その大口径化手法の実現がのぞまれていた。そこで研究チームは今回、実際に結晶サイズの大口径化に挑むことにしたという。

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    結晶成長法の模式図。(左)昇華法。(右)溶液成長法 (出所:名大プレスリリースPDF)

溶液成長法の結晶成長の駆動力は炭素濃度差である。そのため、結晶内の温度を均一にした状態で成長させることができ、高品質を維持したまま大口径化できることが期待されるが、実際問題としては、制御パラメータが多く、実験的に最適値を求めながら大口径化を模索すると膨大な時間が必要となるとされていた。そこで研究チームは今回、AI技術を応用したプロセスインフォマティクスを活用。デジタルツインにより、コンピュータ内に実際の結晶成長を疑似的に実現する装置を構築して、数百万回レベルの試行をコンピュータ上で実施。遺伝的アルゴリズムなどの最適化手法を用いることで、探索を進めた結果、約1年の速さで6インチのSiC結晶の実現に至ったという。

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    溶液成長炉のデジタルツイン (出所:名大プレスリリースPDF)

すでに研究チームでは8インチ単結晶基板の開発にも着手しているとのことで、現時点で7インチ弱まで大口径化することに成功したという。今後は、名古屋大学発ベンチャーのUJ-Crystalと社会実装に向けた開発を共同で行うとしており、それにより低欠陥密度SiC基板の実用化を進め、脱炭素社会の実現につなげたいとしている。

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    (左)開発された溶液成長法6インチ基板。(右)開発中の6インチを超えるサイズの結晶 (出所:名大プレスリリースPDF)