この半導体ニュースのまとめ

・米商務省がBoschの米カリフォルニア州ローズビルSiC半導体拠点に最大2億2500万ドルを支援
・Boschは20億ドルを投じて同拠点をSiC半導体製造施設へ転換、2026年中の商用生産開始を予定
・EV、産業機器、エネルギー、防衛向けに重要なSiCの米国内サプライチェーン強化を狙う

BoschのローズビルSiC拠点にCHIPS補助金

米商務省のCHIPS Program Officeは7月13日、Robert Bosch Semiconductorとの間で、CHIPS and Science Act(CHIPS法)に基づく最大2億2500万ドルの直接資金提供契約を締結したことを発表した。

今回の支援対象は、Bosch(ボッシュ)が米カリフォルニア州ローズビルで進めているSiC半導体製造拠点への投資である。Boschは同拠点に20億ドルを投じ、既存の製造施設を最先端のSiC半導体製造施設へ転換する計画で、米商務省の支援は新たなクリーンルーム整備やSiC半導体向け先端製造ラインの構築を後押しする。

同施設ではすでにサンプル生産が開始されており、商用生産は2026年中に始まる予定。ローズビル拠点はBoschにとって米国初の半導体生産拠点となるほか、今回の支援に合わせ、Boschは今後5年間で米国事業に75億ドルを投じる計画も示している。

  • 8インチSiCウェハ

    ボッシュのDevelopment Sample版8インチSiCウェハ (編集部撮影)

TSI買収から米国SiC量産拠点化へ

Boschのローズビル拠点は、同社が2023年に買収を発表した米TSI Semiconductorsの施設を母体とする。TSIは元々、米カリフォルニア州ローズビルに設けられたNECの半導体製造拠点を源流とし、その後ルネサスを経てTSI Semiconductorsとなっていた。

Boschは同施設を取得した当初から、15億ドル以上を投じてレガシー製造施設を200mm SiCファブへ転換し、2026年から車載向けSiCパワー半導体を量産する計画を示していた。その後、2024年のCESでも米国でのSiC量産に向けた投資を改めて説明しており、独ロイトリンゲンのSiC拠点と合わせた欧米2極の供給体制構築を進めてきた。

今回の直接資金提供契約は、2024年末に示されていたCHIPS法に基づく暫定的な支援枠が、実際の資金提供契約として具体化したものとなる。

第3世代SiCの量産体制構築を後押し

Boschは2026年4月、第3世代SiCパワー半導体を開発し、世界の自動車メーカー向けにサンプル出荷を開始したことを明らかにしている。同社によると、第3世代SiCでは、同社がMEMSなどで培ってきたエッチングプロセスを活用することで、従来比20%の高性能化を実現しつつ、チップサイズを削減したという。

SiCパワー半導体は、従来のシリコン系パワー半導体と比べて高電圧、高温、高速スイッチングに適しており、電力損失の低減やシステムの小型化に寄与する。電気自動車(EV)では、航続距離の延伸や充電時間の短縮を目的として、400V系から800V系へ高電圧化が進んでおり、SiCの採用拡大が見込まれている。

Boschは、SiCチップの第1世代を2021年に量産開始して以降、世界で累計6000万個超のSiCチップを生産・出荷してきたとしている。ローズビル拠点の整備により、米国内でのSiC生産能力を加えることで、車載、産業、エネルギー、防衛などの重要用途向けに供給体制を強化する狙いだ。

米国内SiCサプライチェーン強化が狙い

米商務省は、SiC半導体について、エネルギー、自動車、防衛など複数の重要産業における電動化を支える基盤技術と位置付けている。SiCは高電圧・高温・高速スイッチングに対応でき、より小型の部品で高効率な電力変換を可能にするワイドバンドギャップ半導体である。

今回の支援は、そうしたSiC技術の米国内生産能力を強化し、サプライチェーンの強靭化を図ることを目的とする。EVや再生可能エネルギー、産業用電源、データセンター向け電源などでパワー半導体需要が拡大する中、米国としては、海外依存度の高い重要半導体の国内生産を増やすことで、経済安全保障上のリスクを低減したい考えとみられる。

CHIPS法による補助金は、先端ロジックやメモリだけでなく、SiC、InP、ガラス基板、フォトニクス、後工程など、半導体サプライチェーン全体に対象を広げてきた。Boschへの今回の支援も、ロジック/メモリファブだけでなく、重要部材・重要デバイスを米国内に確保する取り組みの一環といえる。

欧米2極体制でSiC供給拡大へ

Boschはすでにドイツ・ロイトリンゲンでSiCパワー半導体の開発・製造を進めており、ローズビル拠点の立ち上げにより、欧州と米国の2地域でSiCを生産する体制を整えることになる。

同社は、米国拠点の量産化により、中期的にはSiCパワー半導体の製造能力を数億個規模へ拡大する計画を示している。EV市場の成長速度には地域差や一時的な調整もあるが、車載電動化、産業機器の高効率化、再生可能エネルギー設備の拡大を背景に、SiCの中長期需要は底堅いとみられる。

米国では、Wolfspeedやonsemiなどの米国企業もSiC関連投資を進めており、SiCを巡る製造能力競争は一段と激しくなっている。Boschにとってローズビル拠点は、単なる米国市場向けの現地生産拠点ではなく、欧州拠点と組み合わせたグローバル供給網の中核の1つとなる。

CHIPS法支援の対象は重要部材・パワー半導体へも拡大

米国のCHIPS法は、Intel、TSMC、Samsung、Micron、Texas Instrumentsなどの大型前工程投資を支援してきた一方で、2024年末にかけては、GlobalWafers、Entegris、Amkor、SK hynixの後工程、Coherent、X-Fab、Micronの既存DRAM拠点、そしてBoschのローズビルSiC拠点など、サプライチェーン上の幅広い案件にも支援を広げてきた。

Bosch向けの最大2億2500万ドル支援は、SiCが米国の半導体政策においても戦略的に重要なデバイス領域として扱われていることを示すものとなる。AI向け先端ロジックやHBMとは異なる領域ではあるが、SiCはEV、産業機器、エネルギーインフラ、防衛といった実体経済を支える基盤部品であり、電動化社会を支える重要技術である。

BoschのローズビルSiC拠点が2026年中に商用生産へ移行すれば、米国内でのSiCパワー半導体供給力はさらに高まることになる。米国の半導体政策は、先端プロセスの回帰だけでなく、パワー半導体や材料・部材、後工程まで含めた総合的なサプライチェーン再構築へと進んでいるといえそうだ。