大阪大学(阪大)は7月13日、高度約300km以下の「超低地球軌道」(超低軌道)を周回する人工衛星の表面を、「原子状酸素」(酸素原子)による酸化や侵食などの劣化から保護する宇宙用コーティング材料を開発したと発表した。

  • 新規コーティング材料の分子構造と耐原子状酸素性発現のメカニズム

    新規コーティング材料の分子構造と耐原子状酸素性発現のメカニズム(出典:Yukumatsu, K. et al. Prog. Org. Coat. 2026, 219, 110310の図を翻訳し、一部加筆して作成)。(出所:阪大 産研Webサイト)

同成果は、阪大 産業科学研究所(産研)の横山創一助教、同・家裕隆教授に加え、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や神戸大学の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、有機コーティングおよび関連材料を扱う論文誌「Progress in Organic Coatings」に掲載された。

人工衛星を劣化から守り長期運用を可能に

人工衛星の軌道のうち、高度2000km以下は「低軌道」と呼ばれる。ここには、高度約400kmの国際宇宙ステーション(ISS)なども含まれる。近年、地球観測の高解像度化や通信の低遅延化を背景に、低軌道の中でも極めて地球に近い高度300km以下の超低軌道の利用に注目が集まっている。

しかし、超低軌道における原子状酸素の密度は通常の低軌道より著しく高く、人工衛星を構成する材料にとっては桁違いに厳しい環境となる。地表付近では、上空のオゾン層(高度10~50km)によって高エネルギーの紫外線は吸収されるため、酸素は通常、2個の原子が結合した酸素分子(O2)として存在している。一方、オゾン層よりも上空になると太陽からの高エネルギー紫外線が直接当たるため、酸素分子は解離して単原子(原子状酸素)として存在する割合が増加する。原子状酸素は、分子の時よりも反応性が極めて高く、材料を激しく劣化させる要因となる。

しかも、人工衛星やISSは、第一宇宙速度に近い秒速7.7km(約90分で地球を1周する速度)という高速度で地球を周回している。そのため、宇宙空間に漂う大気中の原子状酸素と激しく衝突することになる。その結果、衛星表面の多層断熱材に用いられる高分子フィルムの表面酸化や浸食が進行し、機械的特性や熱光学特性の低下を招く。したがって、超低軌道衛星の長期安定運用を実現するには、高分子材料を原子状酸素から保護する表面コーティング技術の確立が不可欠であった。

有機無機ハイブリッド材料である「かご型シルセスキオキサン」(POSS)含有材料は、耐原子状酸素性を有する表面コーティング材料として注目されている。POSSは、ケイ素と酸素の結合からなる無機かご状骨格と、分子構造を改変可能な有機側鎖で構成される。原子状酸素にさらされた際、POSS中のケイ素成分が酸化されてシリカ(SiO2)状の保護層を形成し、バリアとして機能することで、高分子フィルム基材のさらなる浸食を抑制する仕組みだ。

しかし、従来の「アルキル基」を導入したPOSS材料は、成膜性には優れるものの融点が低く、宇宙環境で求められる耐熱性に課題を抱えていた。そこで研究チームは今回、アルキル鎖による塗布性を維持しつつ、分子間相互作用により耐熱性を向上させた新たなPOSS材料の開発を試みたという。

具体的には、水素結合部位である「アミド基」をアルキル鎖中に導入した新規アミドPOSS「C8-amide-S9-POSS」が設計・合成された。このC8-amide-S9-POSSは、塗布成膜法の一種である「スピンコート法」により、人工衛星の外装材であるポリイミド基板上へ均一に成膜可能であり、ナノメートルオーダーで平滑なコーティング膜を形成できることが確認された。

さらに、原子状酸素照射後の照射試験において、コーティングを施した基材の質量減少は、未加工のポリイミド基材と比較して約1~2%にまで抑制され、優れた原子状酸素侵食抑制効果を示すことが確認された。また、100℃の高温条件下にも耐えうることから、耐熱性と耐原子状酸素性を両立する表面コーティング材料として有効であることが実証されたとする。

今回の研究成果により、POSS側鎖へのアミド部位の導入が、成膜性、耐熱性、耐原子状酸素性を同時に向上させる有効な分子設計戦略であることが明らかにされた。この成果は、超低軌道や低軌道を周回する人工衛星の長期安定運用を支える耐原子状酸素性コーティング材料の開発に新たな指針を与えるものであり、宇宙分野における有機・高分子材料の信頼性向上に貢献することが期待されるとしている。