川崎重工業が現在、製品化に向けて開発を進めている4脚型オフロードパーソナルモビリティ「CORLEO」(コルレオ)。大阪・関西万博で初公開され、大きな話題となったことを覚えている人も多いだろう。同社は7月28日、報道関係者向けに説明会を開催し、開発のロードマップや検討しているビジネスモデルなど、CORLEOの最新情報を紹介した。

  • 今回初公開されたモックアップ。万博の展示品は脚が動く仕様だったが、強度不足で人間が乗ることはできなかった。このモックアップは完全に固定で動かないが、乗ることはできる。乗っているのは、開発を率いる同社の天辰祐介氏

    今回初公開されたモックアップ。万博の展示品は脚が動く仕様だったが、強度不足で人間が乗ることはできなかった。このモックアップは完全に固定で動かないが、乗ることはできる。乗っているのは、開発を率いる同社の天辰祐介氏

CORLEOがめざすのは“人馬一体”の楽しさ

パーソナルモビリティは車輪で移動するものが一般的だが、CORLEOがユニークなのは馬のような4脚型であることで、これにより、車輪型では難しいオフロードにも対応する。同社は、「Ninja」に代表されるモーターサイクルのメーカーであり、かつ長い歴史を持つ産業用ロボットのメーカーでもある。CORLEOは、その両方の技術を融合するものだ。

【動画】従来のデモ機。少しだけ動くようになっていた(「2025国際ロボット展」で撮影)

CORLEOの開発でも、モーターサイクルで一般的な手法が活用されているという。初期段階ではまず、粘土によるクレイモックを作って、ライダーのフィーリングも確認しながらデザインを修正。ただ、CORLEOではモーターサイクル用のテストライダーではなく、大学の馬術部の学生に協力してもらったそうだ。

  • このクレイモックも今回初公開。粘土なので、削ってデザインを修正することができる

    このクレイモックも今回初公開。粘土なので、削ってデザインを修正することができる

CORLEOは、2035年の製品化をめざしている。近年の中国製ヒューマノイドロボットの急速な進化のペースを見ると、「時間をかけすぎでは?」と感じるかもしれない。おそらく、人間がただ乗れるだけの4脚型ロボットであれば、そんなに時間はかからない。実際、同社も2022年の国際ロボット展では、「RHP Bex」で人間を乗せたデモを披露している。

  • 「RHP Bex」のデモ。2足歩行ロボット「Kaleido」の技術を活用しており、可搬重量は100kgと非常にパワフルだった

    「RHP Bex」のデモ。2足歩行ロボット「Kaleido」の技術を活用しており、可搬重量は100kgと非常にパワフルだった

しかし単なる“荷物”として乗せられても、楽しくはない。最初の数回は驚きもあって新鮮に感じるかもしれないが、おそらくすぐに飽きてしまうだろう。

同社がめざしているのはそこではない。大事にしているのは、モーターサイクル事業でも培ってきた「Fun to Ride」の徹底した追求だ。

CORLEOのキモは、ライダーの意図を理解し、それに応えるように動くこと。これを実現するため、ハンドル、シート、ステップ(あぶみ)のセンサーでライダーの荷重を検出するほか、前後のカメラではライダーの動きを捉える。たとえば、ライダーがジャンプしようと動けば、CORLEOがそれを検知し、ジャンプするというわけだ。

  • ステップ(あぶみ)にはセンサーを内蔵。「く」の字に折り曲げられるようにして、これで操作する予定だ

    ステップ(あぶみ)にはセンサーを内蔵。「く」の字に折り曲げられるようにして、これで操作する予定だ

開発を率いる同社の天辰祐介氏(SAFE ADVENTURE事業総括部長)は、「“歩く”ことはめざしていない。飛んで走れるものを作っていきたい」と述べる。しかし、実機でいきなりそんなテストを行うのは危険すぎるため、現在まず行っているのは、ライディングシミュレータの開発である。

バーチャルとリアルの両面で事業を展開

ライディングシミュレータでは、脚以外の機能を実装。ライダーがこれに乗って、仮想空間内のオフロードコースを走らせ、検証していく。仮想空間には、グラグラする岩場や滑りやすい斜面など、さまざまな自然環境を用意し、その物理的な挙動を再現。これならコストを抑えつつ安全に、検証と修正のサイクルを高速に回せる。

  • CORLEOの上側をシミュレータとして開発。下側はバーチャルで再現する

    CORLEOの上側をシミュレータとして開発。下側はバーチャルで再現する

  • こんな危険な岩場でのテストも、シミュレータなら安全に行うことができる

    こんな危険な岩場でのテストも、シミュレータなら安全に行うことができる

ただ、こうした開発手法で常に問題となるのは、実機とシミュレータで生じる差だ。その差異をシミュレータにフィードバックし、なるべく実機に近づける努力はするものの、どうしてもゼロにはできないものであるため、差があることを前提に設計。最終的に残るギャップについては、AIをうまく活用して対応する方針だ。

このライディングシミュレータは、開発ツールであると同時に、最終プロダクトにもなる。同社は、ライディングシミュレータをeスポーツに活用することを検討中。さらに、バーチャルなCORLEOをゲームに展開することも考えており、今回公開されたモックアップをドイツで開催されるゲームショーに持ち込み、協業相手を探すという。

  • CORLEOは実社会だけでなく、バーチャルでもビジネスを展開していく

    CORLEOは実社会だけでなく、バーチャルでもビジネスを展開していく

CORLEOの「2035年の製品化」というのは前述のとおりだが、その前の大きなマイルストーンとなるのが、2030年に開催される予定のサウジアラビア・リヤド万博だ。同社はここで、会場内モビリティとして採用されることをめざしている。天辰氏によれば、まだ走ることは難しいものの、歩けるようにはなる予定だ。

そして2035年には、走ることもできるCORLEOを製品化。ただ、モーターサイクルのような一般向け販売はまだハードルが高いため、まずはライディングパークのようなものを作り、アトラクションとして楽しめる環境を整備する計画だ。場所としてはリヤド近郊のキディヤ(Qiddiya)を想定しており、いま提案しているとのこと。

  • 開発ロードマップ。搭載する発電用水素エンジンの排気量は150cc→330ccへアップするため、次のデザイン(2027年)では、CORLEOのサイズもやや大きくなる予定だ

    開発ロードマップ。搭載する発電用水素エンジンの排気量は150cc→330ccへアップするため、次のデザイン(2027年)では、CORLEOのサイズもやや大きくなる予定だ

CORLEOは、乗れば乗るほど、ライダーの挙動を学習する。レンタルの機体でもそれを活用できるよう、自分のIDを入力すれば、過去のデータをダウンロードするような仕組みを考えているそうだ。ライディングパークのどの機体に乗っても、それが自分のクセを知り尽くした“愛機”になり、搭乗がより楽しくなるというわけだ。

こういった限定的な環境からスタートし、実績や知見を重ねた上で、将来的には一般向けの販売も視野に入れる。CORLEOは4脚型のため、オフロードに対応するのが最大の特徴であり、強みだ。

用途はいろいろ考えられるだろうが、たとえば体力に自信がなくなった中高年者がCORLEOを使って登山を楽しむ、ということも可能になるかもしれない。

  • もちろん岩場をよじ登るようなルートは難しいだろうが、将来は「CORLEO対応コース」のようなものができるかも?

    もちろん岩場をよじ登るようなルートは難しいだろうが、将来は「CORLEO対応コース」のようなものができるかも?