宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月23日、次世代太陽電池として研究開発が進む「ペロブスカイト太陽電池」について、厚さ5μm以下の超薄型構造における放射線耐性が未確認だったが、わずか4μmの厚さでも高いガンマ線耐性を備えていることを実証したと発表した。
同成果は、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)宇宙機応用工学研究系の甚野裕明助教、同・小林大輔准教授(東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻兼任)らの研究チームによるもの。詳細は、太陽エネルギー変換のための材料やデバイスを扱う学術誌「Solar RRL」に掲載された。
ペロブスカイト太陽電池は、鉛やハロゲン、有機分子イオンで構成されるペロブスカイト結晶を活性層とする薄膜太陽電池で、軽量かつフレキシブル、透明といった特徴を持つ。さらに、低照度環境下でも高い発電効率を維持でき、印刷プロセスによる低コスト製造が可能なことから、シリコンに代替する次世代太陽電池の本命として研究開発が進んでいる。ペロブスカイト太陽電池は有害物質の鉛を含んでいることが課題であるほか、水分や強い光、熱などに弱いという短所を持つ。ただし、例えば外惑星に向かう探査機の太陽光発電に用いるのであれば、そうした点も問題とはなりにくい。
しかし、宇宙は地上より放射線環境が過酷なため、宇宙用デバイスには高い耐性が不可欠だ。ペロブスカイト太陽電池は、従来のガラス基板上では放射線耐性が確認されていたものの、その強みを最大限に活かせる厚さ5μm以下の超薄型における性能は確かめられていなかった。そこで研究チームは今回、厚さ4μmのペロブスカイト太陽電池に対してガンマ線照射試験を行い、その耐性を評価したという。
従来のペロブスカイト太陽電池は、放射線保護のためにガラスで封止が一般的だったが、今回の超薄型ペロブスカイト太陽電池の基板には、高い放射線耐性を持つ日本パリレン製ポリマーの「パリレン」とSU-8基板を組み合わせたものが選ばれた。この基板上にペロブスカイト太陽電池を形成し、さらにパリレンで挟み込んで封止する構造を採用することで、超軽量かつフレキシブルでありながら高い放射線耐性が実現された。パリレンはドライプロセスにより室温で成膜できるパラキシレン系ポリマーの一種で、それ自体が高い放射線耐性を備えている。
照射試験では、890kradという高線量ガンマ線を照射したが、基板の着色などの劣化は見られず、高い耐性が実証された。ガラス基板を用いたデバイスでは基板の着色による効率低下が起き、照射後の効率が初期値の約86%まで低下したのに対し、今回の超薄型ペロブスカイト太陽電池は照射後も初期値の約99%という高い値が維持されることが確認された。
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(a)890kradのガンマ線照射後のガラス基板ペロブスカイト太陽電池(上)と超薄型ペロブスカイト太陽電池(下)のデバイス画像の比較(スケールバーは1cm)。(b)それぞれのペロブスカイト太陽電池における効率保持率のガンマ線照射線量依存性。(画像は、H.Jinno& e tal., Solar RRL,2026の図を元に改変されたものCCBY4.0))。(出所:ISAS Webサイト)
さらに、ガラス基板と超薄型基板の両方で太陽電池特性の照射依存性が比較された。放射線による劣化を「基板由来」と「デバイス由来」に切り分けて評価した結果、ペロブスカイト太陽電池の劣化には基板固有の影響とデバイスそのものの影響が存在することが判明した。この知見は、超薄型ペロブスカイト太陽電池の放射線耐性に関する理解を深める新たな視点を与えるものとした。
今回開発された超薄型ペロブスカイト太陽電池は、従来の宇宙用薄膜太陽電池と比較して10分の1~100分の1の厚さが実現された。さらに、高い放射線耐性により、重いガラスによる保護膜が不要なため、超薄型ならではの軽量・フレキシブル性を最大限に活用することが可能だ。これにより、打ち上げ時はコンパクトに折り畳み、宇宙空間で大面積に展開する新しい電源システムへの応用が見込まれる。大電力を要とする超小型衛星の太陽電池パドルや、日商の弱い外惑星探査ミッションの電力を支える基板技術として、将来の宇宙ビジネスや探査への貢献が期待されるとしている。
