大阪公立大学(大阪公大)は6月25日、次世代の光情報通信や光デバイスの高集積化に寄与する技術として注目される、光のエネルギーをナノメートルスケールに閉じ込めながら伝搬する「表面プラズモンポラリトン」を可視化する新しい手法を開発したと発表した。

同成果は、大阪公大大学院 工学研究科の鎌田一輝大学院生、同・金大貴教授、同・渋田昌弘准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する、ナノサイエンス/テクノロジーを扱う論文誌「Nano Letters」に掲載された。

  • 量子ドット薄膜を用いた表面プラズモンポラリトンの直接可視化

    量子ドット薄膜を用いた表面プラズモンポラリトンの直接可視化。(出所:大阪公大Webサイト)

現在、生成AIの発展に伴い、世界的に急速に電力消費量が増大しており、より高速かつ低消費電力な情報処理技術が求められている。その有力候補として注目されるのが、光と物質の相互作用を利用した情報通信技術だ。中でも期待されているのが、表面プラズモンポラリトンの利用である。

表面プラズモンポラリトンは、金属表面に存在する自由電子の集団振動と光が強く結合して生じる波動(電磁場)モードである。光のエネルギー(情報)をナノメートルスケールという微小領域に閉じ込めながら伝搬できるため、従来の光デバイスよりも高密度な光回路や超小型光デバイスの実現につながるとして期待されている。

しかし、表面プラズモンポラリトンは金属表面や金属と誘電体の界面近傍に局在し、光を発することなく伝搬するため、その様子を直接観察することは容易ではない。特に、実際のデバイスで用いられる誘電体保護膜や機能性材料に埋もれた内部界面を観察することは困難だった。そこで研究チームは今回、「量子ドット薄膜」を利用した、通常の光学顕微鏡による簡便かつ高精度な表面プラズモンポラリトン可視化手法の開発に取り組んだという。

半導体量子ドットとは、直径数ナノメートル程度の微小な粒子だ。粒子サイズによって光学特性が変化し、高い発光効率を示すことから、ディスプレイや光デバイスへの応用が進められている。今回の研究では、金薄膜に微細な溝を加工した試料の表面に誘電体薄膜を形成し、その上に量子ドットを1層ずつ積み重ねる「Layer-by-layer法」を用いて、均一な量子ドット薄膜が作製された。

なお、Layer-by-layer法とは、マイナスに帯電した量子ドットとプラスに帯電したポリマーを交互に積層することで、量子ドットを1粒子層ずつ均一に積層させる方法である。同手法によって均一で構造がよく制御された量子ドット薄膜を形成できるため、表面プラズモンポラリトンを高感度に可視化すると同時に、その波動特性を定量的に評価することが可能になるとされている。

近赤外フェムト秒パルスレーザーを照射すると、溝構造から励起された表面プラズモンポラリトンによって量子ドットから「2光子蛍光」が発生する。通常の蛍光は、物質が1個の光子を吸収して発光する現象であり、この2光子蛍光とは、2個の光子をほぼ同時に吸収することで発光する現象を指す。通常よりも長波長・低エネルギーの光を用いて発光を誘起できる点が特徴である。今回の研究では、この2光子蛍光を顕微鏡で観測することで、表面プラズモンポラリトンの伝搬に対応した縞模様を画像として取得することに成功した。

さらに、誘電体膜の厚さを変えながら観測が行われた。その結果、100nmを超える誘電体膜に埋もれた内部界面を伝搬する表面プラズモンポラリトンの可視化が実証された。得られた縞模様を解析することで、表面プラズモンポラリトンの波長、分散関係、位相速度および群速度を高精度に評価できることが明らかにされた。

また、物質に強い光(ポンプ光)で変化を起こし、弱い光(プローブ光)でその時間変化を観測する「ポンプ・プローブ法」を組み合わせた時間分解イメージングにより、誘電体膜に埋もれた界面において、フェムト秒スケールで伝搬する表面プラズモンポラリトン波束の動きをリアルタイムで観測することにも成功したという。

今回開発された手法は、光学顕微鏡を利用して金属と誘電体薄膜に埋もれた界面を伝搬する表面プラズモンポラリトンの直接観測が可能であり、従来よりも簡便にプラズモニクスデバイスの評価を行うことができる。今後は、光通信デバイス、光センサ、太陽電池、ナノ光回路などの研究開発への応用が期待される。加えて、量子ドットなどの機能性ナノ材料と表面プラズモンポラリトンの相互作用を直接観察できるため、新しい光機能材料の開発への貢献も期待できるとした。

さらに、超高速時間分解観測を活用することで、光と物質が相互作用する瞬間の現象を詳細に解明できるようになり、次世代の超高速光デバイス設計指針の確立につながることが期待されるとしている。