大阪公立大学(大阪公大)は6月30日、超音波マイクロバブルを用いた、メスによる切開や針の穿刺、放射線被ばくを伴わない無侵襲的な肝がん破砕治療「ヒストトリプシー」の安全性や治療成績の確認を目的とする、日本初となる特定臨床研究を開始したと発表した。同成果は、大阪公大大学院 医学研究科 肝胆膵外科学の石沢武彰教授らの研究チームによるもの。
がん治療に新たな選択肢 - 1泊で退院できる可能性も
肝細胞がんの根治には手術や経皮的焼灼(しょうしゃく)療法が行われるが、国内では患者の高齢化が顕著であり、十分な治療を実施できないケースの増加が課題となってきている。また、大腸がんなどの肝転移に対しては手術による切除が最も効果的であるものの、再発率が高いために繰り返しの治療が必要になるケースも多い。したがって肝がんに対しては、近年普及している腹腔鏡やロボットによる低侵襲手術よりも、さらに身体的負荷の少ない治療法が求められていた。
そこで注目される治療法が「ヒストトリプシー」である。これは、皮膚に密着させた装置から15~25MPaの高圧超音波パルス(1パルスは10ミリ秒以下)を照射し、体内の1点(直径約4~8mm)に収束させることでマイクロバブルを発生させる技術を利用したものだ。このマイクロバブルで腫瘍を包み込み、気泡が急速に膨張・縮小する際の衝撃波エネルギーでがんを破砕・液状化させる仕組みだ。
これにより、メスによる切開や針の穿刺、放射線治療による被ばくを伴わず、入院期間が短い(1泊の計画)ため、高齢者や重篤な併存疾患を抱える患者、早期の社会復帰を希望する患者に新たな治療選択肢を提供できる可能性があるとして期待されている。
同装置の有効性に関して、米国での承認の根拠となった多施設研究(肝細胞がん19例、転移性肝がん28例)では、治療後1年の局所制御率(治療部位で再発の所見がない率)が90%に達したことが示された。また、肝細胞がん、転移性肝がんに対する1年全生存率(治療1年後に生存している率)は、それぞれ73.3%、48.6%と報告されている。
安全性については、治療後30日以内の有害事象(機器の使用に伴う合併症)は6例(肝不全、門脈血栓、術後塞栓症、治療後疼痛、敗血症、胸膜痛が各1例)報告されたものの、同期間内における患者の死亡はなかったとされる。その後に報告された国際多施設研究では、ヒストトリプシーを実施した230症例中、重篤な合併症は3例(1.3%)にとどまった。なお、この3例は進行した肝細胞がんや胆管がん、あるいは大腸がん転移に対して姑息(こそく)治療(がんの増大の制御を目的とする治療)としてヒストトリプシーを実施した患者であり、いずれも原疾患(元々あったがん)の進行により死亡したことが確認されている。
ヒストトリプシーの合併症としては、上述した合併症のほか、皮膚の発赤や急性腎不全、腹水の増加なども報告されている。これまでに、米国を中心とする100以上の医療施設で2000例を超える治療実績があるものの(未公表データ)、日本での実施例はまだない。
そのため、日本でも実施できる環境を整えるべく、今回、特定臨床研究として、肝細胞がんおよび転移性肝がんに対するヒストトリプシーの短期の有効性と安全性、実行可能性の評価が行われる。腹部ダイナミックCTまたはMRIで肝細胞がんまたは転移性肝がんと診断され、かつ最大径3cm以内の治療可能病変があり、研究参加への同意取得時点で20歳以上90歳未満の患者を対象とし、予定症例数は2例、研究期間は2028年6月30日までとされている。
具体的な治療手順としては、まず無気泡水を満たしたメンブレンキットを患者の体表に密着させ、ヒストトリプシー装置による超音波検査で対象病変の位置を確認することで治療範囲が決定される。同装置から超音波パルスを発信し、径4mm×8mm×8mm大のマイクロバブルを球状に集積させることで、治療範囲内の組織の破砕・液状化が行われる。治療時間は組織の固さや治療範囲の広さにより変動するが、1セッションあたり15~30分となっており、病変の破砕・液状化の進行はモニター上で確認される。セッション終了後は、超音波検査で腫瘍の遺残や出血の有無を確認して終了となり、治療後の検査で異常が確認されなければ、翌日には退院となる。なお、治療はすべて全身麻酔下で実施される。
今回の研究による初期導入の結果が良好であれば、日本国内での製造・販売承認、保険適用を検討するための基礎データになる予定だ。これにより、肝細胞がん・肝転移の患者に、より低侵襲で早期の社会復帰を実現する新規治療を広く提供する道が開くことが期待されるとしている。

