東京大学は、日本の一般市民約3万人を対象とした大規模アンケート調査を行い、ワクチンに関する誤情報と、新型コロナワクチン接種意向との関連を調査した結果を、7月31日に発表した。
この調査は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に流行していた状況下において、ワクチンに関する誤情報がまん延する中で、どれほどの人々がそれを信じ、ワクチン接種の意向にそれがどの程度影響しているのか、さらに誤情報を信じているかどうかで関連因子が異なるのかを、日本の一般市民約3万人に対して行ったアンケート調査データを用いて統計解析を行ったもの。
同成果は、東大 国際高等研究所 新世代感染症センターの古瀬祐気教授(研究開始当時:長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 教授)、東北大学大学院 医学系研究科の田淵貴大准教授(研究開始当時:大阪国際がんセンター がん対策センター 部長補佐)の共同研究チームによるもの。詳細は、公衆衛生学分野を扱うオープンアクセスジャーナル「Frontiers in Public Health」に掲載された。
SNSなどのインターネット上の情報共有サービスが発達した現在、「メディアを通さない個人の情報発信にこそ政府によって隠された真実がある」と信じる傾向のある人たちが一定数存在する。その結果、情報がもっともらしく見え、それが真実かどうか確かめようがなく、なおかつ人々の健康や生命に関わるような緊急時には、「拡散することこそ、正しい行い」として、情報が急速に拡散することがある。
もちろんそうした情報が正しい場合もあるが、誤解や勘違いによる誤情報であることも少なくない。中には、社会を混乱させることを目的とした愉快犯によるニセ情報も存在する。それらの真偽が確かめられないまま拡散し、多くの人に「重要な判断を下すための情報のひとつ」として扱われてしまうこともある。
近年では、新型コロナウイルス感染症の流行に際して、日本を含め世界中でそのようなさまざまな誤情報が拡散した。ワクチンの有効性や安全性に関する内容も多く、誤情報がワクチン忌避につながったことが多くの先行研究で報告されている。このような「インフォデミック」と呼ばれる誤情報の拡散が世界的に問題視される中で、日本では対象者の8割以上という非常に高いワクチン接種率を短期間で達成した。
しかし、「どれだけの人が誤情報を信じていたのか」「誤情報を信じることは、ワクチン忌避とどの程度関連しているのか」「誤情報を信じている人においてワクチン接種意向と関連する要因は、誤情報を信じていない人と異なっているのか」については解明されていなかった。
そこで研究チームは今回、「日本における新型コロナウイルス感染症問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS、2021年9〜10月に15歳から80歳の約3万人を対象にオンラインで実施されたアンケート調査)」のデータを用いて、ワクチンに関する誤情報と接種意向との関連を解析することにしたという。
インターネット調査による参加者の偏りを補正した集計結果から、「ワクチンの有効性や安全性に関するデータは捏造されている」といった何らかの誤情報を信じている人の割合は、ワクチン既接種者で8.1%、ワクチン拒否者で36.6%だった。つまり、拒否者において誤情報を信じている割合は高いものの、裏を返せば、拒否者の半数以上となる63.4%は誤情報を信じておらず、ワクチンを拒否する人が必ずしも誤情報を信じているわけではないことが明らかにされた。
同様に、少なくともひとつの誤情報を信じている人々の間でも、接種意向のある人は63.6%を占めていた。ただし、信じている誤情報の数が増えるにつれて、接種意向のある人の割合が低下していく傾向が見られたとする。
次に、「ワクチン忌避」と「信じている誤情報の多さ」に共通する因子の探索が行われた。すると、「若年」、「低収入」、「SNSを含むインターネットからの情報収集」が因子として同定された。
最後に、ワクチン接種意向に関連する因子について、「誤情報を信じていない人」と「誤情報を信じている人」の両群間で、どのような共通点や相違点があるのかが解析された。その結果、医師からの情報は両群ともに接種意向と関連し、低収入であることは両者においてワクチン忌避と関連していた。
一方で、「誤情報を信じていない人」では高齢者ほどワクチン接種意向が高かったのに対し、「誤情報を信じている人」ではその傾向が見られず、むしろ若年(20歳代)で接種意向が高くなった。また、政府からの情報は「誤情報を信じていない人」でのみ接種意向との関連が認められ、「誤情報を信じている人」では有意な関連が検出されなかった。
また、SNSを含めたインターネットからの情報は、「誤情報を信じている人」と「信じていない人」の両群でワクチン忌避と関連していたが、その影響度は「誤情報を信じている人」でより強いことが確認された。同様に、テレビや新聞からの情報は、どちらの群においてもワクチン接種意向と関連しており、「誤情報を信じている人」においてより強い関連が見られた。
今回の研究によって、ワクチンに関する誤情報を信じていることが、必ずしもワクチン接種拒否に直結するわけではないことが明確にされた。また、誤情報を信じている人と信じていない人では、接種意向に関連する要因が異なる可能性が示された。
こうした成果は、将来の感染症危機において、誤情報への対策だけでなく、対象者が何を信頼しているのかやどのような情報環境に置かれているのかに応じた公衆衛生コミュニケーションを設計する上で重要な知見になる、としている。


