岩手大学は4月27日、ヒゲクジラに豊富に含まれる機能性成分「バレニン」が、パーキンソン病モデルマウスにおいて神経細胞の変性を抑制し、症状の進行を軽減することを明らかにしたと発表した。
同成果は、岩手大大学院 理工学研究科 自然・応用科学専攻の忠海優作大学院生(日本学術振興会 特別研究員PD)、岩手大大学院 総合科学研究科 理工学専攻の有住小夏大学院生、日本鯨類研究所の安永玄太氏、同・酒井大樹氏、弘前大学大学院 医学研究科の多田羅洋太助教、同・葛西秋宅助教、岩手大 農学部 生命科学科の山下哲郎教授、岩手医科大学 医歯薬総合研究所の石山絵里氏、岩手大大学院 総合科学研究科 理工学専攻の清川心大学院生、岩手大 農学部 生命科学科 分子生命医科学コースの尾﨑拓准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、生化学および生物部理学を扱う学術誌「Biochimica et Biophysica Acta - General Subjects」に掲載された。
パーキンソン病の新たな予防戦略になる可能性も
食肉に含まれる機能性成分である「イミダゾールジペプチド」は、疲労感の軽減や軽度認知機能障害(MCI)の改善、アンチエイジング効果などで注目されており、すでに機能性表示食品の成分としても利用されている。
その一種であり、海洋ほ乳類、特にクジラ肉に多く含まれる天然由来成分が「バレニン」だ。この物質は、他の食肉に含まれる「カルノシン」や「アンセリン」といった構造類似体と比較して、ヒトの血中安定性が高く、分解されにくいという特性を持つ。つまり、イミダゾールジペプチドの中でも、ヒトが接種した場合により高い効果を発揮する可能性が示唆されていた。
そこで研究チームは、バレニンが加齢に伴う疾患にも有効ではないかと考察。高齢化に伴い患者数が増加している「パーキンソン病」への有効性を検証したという。
今回の研究では、MPTPによって誘導されたパーキンソン病モデルマウスに対し、バレニンを1日1回経鼻投与する手法が採用された。その後、行動解析および脳組織を用いた組織学的・生化学的解析を実施。その結果、モデルマウスで認められていた異常行動の増加が、バレニンの投与により有意に抑制されることが確認された。
さらに、組織学的解析により、脳内の「線条体」における「チロシンヒドロキシラーゼ」の発現低下が抑制されたことも判明。これらの結果から、バレニンがドーパミン産生ニューロンを保護する働きを持つ可能性が示されたとした。
続けて、作用機序を解明するため、マウスの脳から抽出したタンパク質を用いたプロテオーム解析が実施された。その結果、タンパク質の機能を調節するための翻訳後修飾の1つ「ネディレーション」に関連する経路の活性化が認められ、ミトコンドリアの品質管理機構への関与が示唆されたという。
これは、バレニンの神経細胞保護作用の基盤が、機能の低下したミトコンドリアを駆除して刷新する仕組みなどを活性化させることに起因する可能性が示されている。細胞のエネルギー産生能が維持された結果、パーキンソン病の症状抑制につながったと考えられるとした。
今回の成果により、誰でも発症しうるパーキンソン病に対し、バレニンが有効な予防・治療戦略に成り得ることが示された。今後は、バレニンを有効濃度で人の脳へ送達する方法の確立が課題となるが、神経変性疾患の進行を抑制する新たな知見として期待される。研究チームは今後、他の神経変性疾患やアンチエイジングに関する検証も進めることで、バレニンの持つ多角的な健康機能性を解明していく予定としている。
