大型ロケット「H3」9号機が11日午前4時23分31秒、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。政府の準天頂衛星「みちびき」7号機を所定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。H3は昨年12月の失敗後、今年6月に続く成功となり、安定運用に向け一歩進んだ形だ。日本版のGPS(衛星利用測位システム)衛星であるみちびきは、打ち上げ失敗時に1基を喪失しており、政府が目指す7基体制の実現が先送りとなっている。

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    みちびき7号機を搭載し打ち上げられるH3ロケット9号機=11日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)

「もう二度と失敗しないとの決意で臨んだ」

H3は打ち上げの約5分後に1段、2段機体を分離した。2段エンジンの燃焼を2回にわたり正常に行った後、打ち上げの約29分後、みちびき7号機を静止遷移軌道に投入した。7日に打ち上げを計画したが、台風の接近を受けて延期していた。打ち上げ後に会見した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「多くの機関の関係者が心を一つに丁寧かつ確実に作業を積み上げたことは、日本の宇宙輸送システムをより着実で信頼性の高いものへと、磨きをかけることにつながる」と述べた。

H3は昨年6月に運用を終了した「H2A」と、その強化型「H2B」の後継機。2段式の液体燃料ロケットで、9号機の全長は57メートル、衛星を除く重さ422トン。能力は機体構成により、最大でH2Bの6トンを上回る6.5トン以上(静止遷移軌道、赤道での打ち上げに換算)となる。小型の固体燃料ロケット「イプシロン」とともに、政府の基幹ロケットに位置づけられる。将来的には打ち上げ業務を、H2Aと同様にJAXAから三菱重工業に移管し、市場に参入する。9号機は1~5、8号機と同様、1段エンジン2基、固体ロケットブースター2基を装備した。

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    打ち上げに成功し、沸く管制室=11日、種子島宇宙センター(JAXA提供)

H3の初号機は2023年3月に打ち上げられたが、2段エンジンに着火できず失敗し、地球観測衛星を喪失した。原因は2段エンジンの電気系統の異常で、原因となり得た事象に対応する3通りの対策を施した。その後は5回連続で成功したが、昨年12月に8号機が失敗し、みちびき5号機を喪失した。原因は機体に衛星を載せるアダプターの内部で製造時に生じた剥離が、飛行中の衝撃で広がったためだった。H3のアダプターは軽量化や低コスト化のため、H2Aとは異なり、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の部材で貼り合わせて組み立てていた。対策として、9号機以降で当面、H2Aで採用していたボルト固定の方法で組み立てることとした。

JAXAの有田誠プロジェクトマネージャは「8号機失敗以来、全力を挙げ信頼回復に努めてきた。(大型衛星の搭載を見送った6月の)前回6号機に続き、今回いよいよ実用に返り咲くため、もう二度と失敗しないとの決意で打ち上げに臨めた。実用再開の狼煙(のろし)を上げられた。多くのお客様をお待たせしているが、安心してH3に“乗って”いただける」と話した。

JAXAと共にH3を開発する三菱重工業の北山治プロジェクトマネージャーは「成功を続けねばならない。H3は進化していくロケットでなくてはならず、設計変更点が出てくる。品質を落とさずにコストを下げることが大きな課題だ」との認識を示した。

政府の宇宙基本計画工程表(昨年12月改訂)によると、今年度はH3により、さらに国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ補給機「HTV-X」2号機や、火星の衛星「フォボス」を探査し試料を地球に持ち帰る「MMX」の探査機などの打ち上げを計画している。

高精度目指す7基体制、整備に遅れ

GPSは衛星から出た電波を地上などで受け、到達にかかる時間から距離を割り出して地上の位置を特定する仕組み。スマホやカーナビなどで普及しているほか、車や農機の自動運転、ドローンによる物資輸送などへの利用が期待される。精密な時刻同期にも使われ、モバイル通信や金融取引、送電網管理などを支えている。位置や時刻を割り出すには原理上、最低4基の衛星が必要とされる。

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    みちびき7号機の想像図(内閣府宇宙開発戦略推進事務局提供)

GPSは米国が先行して構築したのに続き、欧州やロシア、中国などが独自の測位システムを開発。わが国もアジアやオセアニアの上空に独自の「準天頂軌道」を採用し、みちびきの整備を始めた。2017年に4基の基本体制が整い、翌年にサービスを正式に開始した。

準天頂軌道を採用すると、日本の真上付近(準天頂)で飛行時間が長くなる。地球の自転を止めた状態で考えると衛星が8の字を描くように動く軌道で、旧郵政省電波研究所(現情報通信研究機構)の研究者が1972年に考案した。準天頂衛星と呼ぶ衛星には実際には準天頂軌道ではなく、静止軌道や準静止軌道を採るものもある。静止衛星は赤道上を飛び、地上からの見かけ上、衛星が止まって見える。今回の7号機は準静止衛星で、赤道に対しわずかに傾いて飛ぶことで、地上からは少しだけ動いて見える。他の静止衛星との違いを持たせることで、測位の計算上の不都合を避けられるほか、軌道調整によるサービス停止も少なくて済むという。

準天頂軌道の衛星3基と静止衛星2基が運用中で、ここに7号機が加わる。太陽電池パネルを開いた全長が約19メートル、打ち上げ時の重さは約4.9トン。開発費は5、6号機との3基一括調達で計約1000億円。打ち上げ費用は非公表だ。

政府は今年度に7基のサービスを開始することで、米国のGPSなど外国のシステムに頼らずに十分な精度を発揮できる体制を目指した。ところが昨年12月に5号機が失敗し、今回の7号機が本格運用を始めても、6基にとどまる事態となった。2031年度に打ち上げる8号機で、7基体制が整う見込み。当面は6基での運用が続くが今後、既存の衛星の位置を調整することで、測位精度の高い地域をいくらか拡大するという。

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    準天頂軌道の概念図。地上を基準にみると、人工衛星が8の字を描く形となる。ただし3、6号機は静止、7号機は準静止衛星。5号機は打ち上げ失敗で喪失した(左は内閣府宇宙開発戦略推進事務局などの資料や取材を基に作成、右は同局提供)

  • 7号機には「高精度測位システム(アスナブ)」を6号機に続いて搭載した。衛星からの信号を地上で受信するだけでなく、衛星が別の衛星との間の距離を測ったり、衛星が地上までの距離を測ったりして、誤差を打ち消す仕組み。将来的に全ての準天頂衛星がこのシステムを搭載すると、一般的なスマホでも、測位精度が現在の5~10メートルから、1メートル程度に向上するという。内閣府から委託を受けたJAXAが開発を担当。ただし、衛星間測距信号の送信機能を搭載した5号機は喪失している。このため衛星間測距の実証は、次に送信機能を搭載する8号機を待つ必要がある。

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    打ち上げ前のみちびき7号機=昨年12月1日、神奈川県鎌倉市の三菱電機(内閣府宇宙開発戦略推進事務局提供)

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