北海道大学(北大)、モルゲンロット、大阪公立大学(大阪公大)、中央大学、新潟大学(新大)の5者は4月24日、大規模3Dデータを可視化可能にするAIモデルを開発し、白亜紀後期の約1億~7200万年前に存在したタコ類の顎化石を解析して体サイズおよび生態を詳細に復元した結果、全長は7~19mに達したと推定され、最初期のタコが白亜紀の海で最大級の肉食動物に進化し、無脊椎動物でありながら頂点捕食者となったことを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、北大大学院 理学研究院の伊庭靖弘准教授、同・池上森学術研究員、同・杉浦寛大大学院生、独・ルール大学のヨーク・ムッターローゼ教授、高輝度光科学研究センターの竹田裕介研究員、モルゲンロットのメフメト・オグズ・デリン氏、同・原田隆宏博士、大阪公大大学院 理学研究科の久保田彩講師、新大 脳研究所の田井中一貴教授、中央大の西田治文名誉教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会(AAAS)が刊行する世界最高峰の総合学術誌「Science」に掲載された。
化石とAIモデルが読み解いた古代海洋の強者像
過去約4億年の海洋史において、頂点捕食者の座はサメや魚竜、クジラなど、大型で高い身体能力を備えた脊椎動物が独占してきたと考えられてきた。対して無脊椎動物は、防御のための殻などを進化させた小型の被食者という立場に留まっていたとされる。しかし、代表的な無脊椎動物であるタコなどの頭足類は、殻を捨てるという例外的な進化により運動機能を向上させた結果、現在では高度な知性を持つ中位の捕食者として繁栄している。
中生代(約2億5100万~6600万年前)に多様化したタコとその祖先グループには、全長2mを超える大型種も知られ、強大な捕食者だった可能性が推測されてきた。しかし、胃の内容物など、食性を示す直接的な証拠が発見されておらず、過去の生態系における役割は未解明だった。そこで研究チームは今回、捕食の証拠として、タコが硬い殻や骨を噛み砕いた際に形成された、顎表面の摩耗痕に注目したという。
今回の研究では、モルゲンロットが中心となって開発した大規模なデータセット処理用AIを組み込み、北大の伊庭准教授らが開発した「デジタル化石マイニング手法」をアップデート。これにより、高精細なデジタル3Dモデルを用いた摩耗痕の詳細な観察が実現された。同手法は、破壊型トモグラフィ装置により岩石を大規模データ化し、ゼロショット学習AIを用いて内部の化石を自動かつデジタルに発掘する最先端の手法である。
この手法を駆使した結果、未報告の幼体を含む12点のタコの顎化石が新たに発見された。これに、北海道およびカナダから報告済みの顎化石15点を加え、白亜紀後期(約1億~7200万年前)の大型タコ類の分類、体サイズ、生態が検討された。体サイズ復元では、近縁な現生12種の計測データに基づき、顎のサイズから全長を高精度に逆算する推定式が新たに構築された。
分類の結果、これまでタコ以外とされていたものを含む5種が、現生タコ類を構成する2グループのうちの1つで、ヒレを持つことが特徴のヒゲダコ亜目2種に統合された。新たな標本には、これまでより約500万年古いタコ類最古の記録が含まれていたという。
体サイズ推定によれば、より古い種が最大全長が約3~8m、新しい種は約7~19mに達していたことが示唆された。これは、現生ダイオウイカ(最大約12m)を超える地球史上最大の無脊椎動物であり、同時期の頂点捕食者とされてきたモササウルス(最大17m)などを上回るサイズだった可能性を示すものだ。また幼体の解析から、新しい種ほど成長速度が向上しており、短期間で劇的な巨大化を遂げてきた実態も判明した。
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今回の研究の白亜紀タコの顎化石(A:より古い種、B:より新しい種)と現生ダイオウイカの顎(C)。化石には、強力な力で獲物をかみ砕いた際についたと考えられる大きな欠けや傷が刻まれている。(出所:北大プレスリリースPDF)
顎化石表面には大きな欠けや傷などの摩耗痕があり、その積み重ねで失われた部分は顎の全長の10%近くに達することが確認された。さらに、噛む部分周辺に、強い負荷により形成された多数のヒビも発見された。これらの痕跡は、白亜紀のタコが極めて強力な咬合力を持ち、硬い殻や骨を持つ貝類やアンモナイト、魚類などを活発に捕食していたことが示唆されるとした。さらに、摩耗度合いに顕著な左右差が見られたことから、高度な知性を示唆する「利き」という個性が存在したことも解明された。これらの発見は、最初期のタコが、過去約4億年間の海洋において、頂点捕食者へと進化した唯一の無脊椎動物であることを裏付けるものとした。
脊椎動物とタコは系統的には遠縁だが、意外なことにその進化史には多くの共通点がある。両者の祖先は、約4億年前に効率的な捕食を可能する顎を獲得し、脊椎動物はこれにより最初の巨大な頂点捕食者となった。その後、脊椎動物はウロコなどの硬組織を徐々に捨てることで運動能力を高め、その地位を維持し続けた。
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復元された体サイズの比較。新しい種は現生種で最大の無脊椎動物であるダイオウイカや、白亜紀の王者とされてきたモササウルスなどの脊椎動物をも凌駕する巨体であった可能性があるとした。(出所:北大プレスリリースPDF)
一方でタコの系統は、脊椎動物に遅れて約1億年前に体表の殻を喪失。白亜紀の海洋において、無脊椎動物として類を見ない頂点捕食者へと上り詰めたのである。今回の研究成果により、強靭な顎と硬組織で覆われていない柔軟な体を併せ持つことが、海洋の頂点へと進化する必要条件であることが示されているとした。
今回の研究手法は、従来は困難だった過去の無脊椎動物の食性推定や、知性の進化過程、個性などの解明を加速させることが期待される。また、無脊椎動物の頂点捕食者の発見は、長らく脊椎動物中心に考描かれてきた海洋生態系の復元に再考を迫り、生命進化史の理解をより高解像度なものへと導くことが考えられるとしている。

