徹夜でメディカルチェックしながら状態を見守って

―では、最初の20分ぐらいは緊張が続いて、その後話せるようになってからは少し落ち着いたわけですね?

油井さん:「本当に良かったな」ということで。でもどういう原因で起こっているかわからないので、地上の医師たちは気にしていました。

―繰り返す可能性も?

油井さん:ありましたから。超音波検査とか、先ほどの血液検査とかできる検査をどんどんやっていきました。(最初の症状が出たときは)もう仕事が終わって、私も寝ようとしているときでした。結局その日は、誰か一人が寝ないで定期的に(フィンク飛行士の状態を)確認する役目があったので、若い宇宙飛行士たちには「私が徹夜するから寝ていいよ」と言って。

―何かあったら心配ですもんね。

油井さん:そうですね。何時間かおきにメディカルチェックをやってくださいと言うことで、脈があるか、意識があるかリストに従ってチェックして、地上の医師にメールで連絡しました。

―そのような症状を見たら、みんな「(宇宙から)帰りたくない」とか言ってる場合じゃないですよね。とにかく生きて帰ることが大事だと。

油井さん:はい。もう本当に生きて帰ってきてよかったなという感じです。フィンク飛行士は落ち着いてからは本当に普通になってきたので、もしかしたら負荷を軽くして(宇宙に)いるというオプションもあるのかなと正直、私は思っていましたけど。

―負荷というのは、仕事の負荷ですか?

油井さん:そうですね。例えば8時間労働を6時間にするとかすれば疲れが出ないので、ずっと(ISSに)いられるのかなと。でもやはり地上の医師の判断は違っていて、可能性のある病気を考えたときに、また急に悪くなる可能性もあるから早く返しましょうという判断になったみたいです。

―NASAの発表では、より精密な検査を行うための装置がISSにはないという理由でしたね。

油井さん:結局、原因がわからないと対処できないですからね。この病気なら安全だけど、こっちだったら帰還させないといけないなどさまざまなパターンがあったので、最悪の事態を考えて判断したのだと思います。

―なるほど。でもいまだに原因がよくわからないようですね。

油井さん:私は聞いていないです。

―でも、本当に何事もなく元気で帰還できてよかったです。

油井さん:はい。その症状が起こった時のメンバーたちの動きを撮った動画を、後でお医者さんや地上の管制官が見て、「本当によくやってくれた。お手本みたいな対応ができたね」と褒められました。

―今回の事例は月や火星に向かう探査にも役立つのではないかと、帰還直後の会見で話されていました。急な病気になっても月や火星からはすぐには帰ることができないですもんね。

油井さん:そうですね。今回の事例を分析してどの部分は参考になって、この部分はもっと発展させないといけないと、わかってくると思います。例えば月から帰還する際は約1週間後に、火星になると約1年後に帰ることになるので、その間の薬や機材が必要になるなど、準備の上でも参考になるのではないかと思います。

自衛官から宇宙飛行士になって今、何を思う。

  • ISSから撮影したレモン彗星とオーロラ

    ISSから撮影したレモン彗星とオーロラ(c)NASA (提供:NASA)

―もうひとつお聞きしたいことがあります。宇宙飛行士候補者選抜で選ばれた後も、自衛官をやめて宇宙飛行士になっていいのか迷ったと、以前お話されていました。2度の宇宙飛行を経験された今、その選択に対して悔いはないでしょうか?

油井さん:悔いは全然ないです。

―油井さんが宇宙飛行士になられた後も、地上では安全保障の厳しさは増しています。もし自衛隊にいらっしゃればその最前線に立って指示なさったり……。

油井さん:していたと思います。でも私は本当に幸運だなと思います。人間の能力の中で大きく分けると、“協力して作る”という能力もあれば、“喧嘩して壊す”能力もある。協力して作る能力のほうが勝っていたからこそ、人類の歴史はずっと続いてこれだけ発展してきている。私はISS計画に携わって、協力して作る方向に全力を尽くすことができたので、本当に運がよかったなと思います。自衛隊は壊す方向ではなく、壊されないために守るということで、なかなか日の目を浴びない仕事ですが、自衛隊の方々の仕事についても機会があればこれからサポートしたいし、発信はしたいと思います。

  • ISSの展望窓キューポラにて

    ISSの展望窓キューポラにて。(c)NASA (提供:NASA)

―2015年の初飛行では宇宙ステーション補給機「こうのとり」を、今回は新型になった補給機「HTV-X」をキャプチャされました。飛行前は「HTV-Xが来たら涙が出るかも」と仰ってましたね。

油井さん:涙はさすがに出なかったですが、本当に感動しました。『これ、自分がテストしたんだよな』とか、『よくISSに到着してくれたな』と。

  • 気を付けることやそれぞれのゴールを書いたメモ

    ISS到着後、気を付けることやそれぞれのゴールを書いたメモ。左側5番にHTV-Xの文字が(JAXA記者会見時のモニター画面より)

油井さん:ISS到着後にそれぞれのゴールを決めようと話し合った時、私は「HTV-X」と言って書いたんです。「私のミッションのフォーカスはここだから、ほかのことはどんどん手伝うから」とお願いしたら、地上も宇宙の仲間もみんなが手伝ってくれました。宇宙での仕事はやり切ったと思っています。

  • 油井飛行士がキャプチャ・ドッキングさせたHTV-X1号機

    油井飛行士がキャプチャし、ドッキングさせたHTV-X1号機(c)NASA (提供:NASA)

  • 「宇宙での仕事はやりきった」と語る油井さん

    「宇宙での仕事はやりきった」と語る油井さんの表情からは、心なしか清々しさが覗いた