宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5月13日、H3ロケットの開発状況に関する記者説明会を開催し、6月10日に打ち上げ予定の6号機のミッションについて説明した。H3ロケットには3種類のバリエーションがあるが、6号機は初の「30形態」。固体ロケットブースタなしの最もシンプルな形態であり、今回はその試験機として位置づけられている。

  • JAXAの有田誠・H3ロケットプロジェクトマネージャ

    JAXAの有田誠・H3ロケットプロジェクトマネージャ

すべての形態が出そろう節目のフライト

30形態は当初、2号機としての初打ち上げが予定されており、第1段機体は2023年1月に種子島に到着していた。しかし、同年3月に初号機が打ち上げに失敗。計画が変更になり、6号機としてのデビューが決まったものの、2025年7月のCFT(実機型タンクステージ燃焼試験)で問題が見つかったため、7号機と8号機が先に打ち上げられていた。

  • 6号機の準備状況。第1段は、すでに3年以上も種子島で保管されている (C)JAXA

    6号機の準備状況。第1段は、すでに3年以上も種子島で保管されている (C)JAXA

そして、その8号機が、まさかの失敗。6号機は、飛行再開(RTF: Return To Flight)の重責も担うことになった。JAXAの有田誠プロジェクトマネージャは、「30形態試験機はもともと、新たな技術チャレンジの場と考えていた。それに加え、再起をかけた挑戦もあわせてやらないといけない。ハードルが倍くらい高くなった」と、気を引き締める。

既報の通り、8号機の失敗原因については、すでに特定が完了。文部科学省の宇宙開発利用部会にて、中間報告書が取りまとめられた。6号機は、その裏付けとなるフライトデータを追加で取得する予定で、そこで得られた衛星搭載アダプタ(PSS)の歪みデータなどを評価した上、最終報告が行われる見込みだ。

  • 6号機で取得する追加データ。カメラ映像の収録時間も延長する (C)JAXA

    6号機で取得する追加データ。カメラ映像の収録時間も延長する (C)JAXA

H3ロケットには、打ち上げ能力が低い順に、30形態、22形態、24形態という3種類がある。最初の数字はメインエンジン「LE-9」の基数、ふたつめの数字は固体ロケットブースタ「SRB-3」の本数を表す。22形態と24形態はすでに飛行実績があり、6号機でついにラインナップが出そろう。日本の大型液体ロケットで、ブースタなしはこれが初となる。

  • H3ロケットのラインナップ。30形態は最もシンプルなバージョンだ (C)JAXA

    H3ロケットのラインナップ。30形態は最もシンプルなバージョンだ (C)JAXA

最もシンプルな形態とはいえ、高度500kmの太陽同期軌道(SSO)に4t以上を投入できる能力がある。ブースタなしの大きなメリットは、打ち上げ費用の安さだ。具体的な金額については非公表だが、めざすのは従来機H-IIAの半額。物価や為替レートの変動を考慮する前提になるものの、定常運用段階に実現可能な見通しが得られているという。

30形態では、ブースタがない代わりに、LE-9は3基に増える。6号機では、これまでと同じタイプ1Aが使用されるものの、低コスト化の切り札と言えるのが、現在開発中のタイプ2だ。噴射器は従来、1,000点以上の部品が必要という複雑なものだったが、3Dプリンタ製にすることで、これを1点に集約。大幅なコストダウンが実現できる。

3Dプリンタ製の噴射器は4種類試作し、燃焼試験で安定に燃焼する仕様を選定ずみ。課題となっていたタービンの振動問題については、最新の設計で有害な振動が発生しないことが確認された。2026年3月末より、最終試験となる認定試験を実施中で、順調なら年内にも完成する見込みだ。

  • LE-9エンジンの開発状況。タイプ2完成に向け、最後の試験が実施中だ (C)JAXA

    LE-9エンジンの開発状況。タイプ2完成に向け、最後の試験が実施中だ (C)JAXA

現在、日本は基幹ロケットであるH3とイプシロンが、ともに飛行できないという危機的な状況。2回目の失敗は大きな痛手だったものの、難航した初号機に比べ、早く原因を特定できたことで、半年のブランクですんだのは、不幸中の幸いと言える。有田プロマネは「1日も早くこの状況を脱して、日本の宇宙輸送の自立性を取り戻す」と意気込む。

30形態は飛び方も大きく異なる?

30形態はシステムレベルで大きく変わるため、6号機は試験機として打ち上げを実施。実用衛星は搭載せず、ダミーウェイトとなる「VEP-5」を搭載し、第2段をSSOに投入する(VEP-5の分離は行わない)。一方、軌道投入の機会を提供するため、6機の超小型衛星を搭載。そのために、超小型衛星搭載アダプタを新開発しており、今回実証を行う。

  • H3ロケット6号機(30形態試験機)のミッション概要 (C)JAXA

    H3ロケット6号機(30形態試験機)のミッション概要 (C)JAXA

相乗りの超小型衛星は、同じく試験機であった2号機でも搭載されていたが、設置場所がフェアリング分離面に近く、衛星に加わる衝撃が大きいという課題があった。今回開発した搭載アダプタはリング状で、機体の中央に設置。衝撃が大きく緩和されるほか、搭載能力の向上も実現し、増加する超小型衛星の打ち上げ需要に対応する。

  • 超小型衛星の搭載方式が変更。衝撃レベルの緩和が可能に (C)JAXA

    超小型衛星の搭載方式が変更。衝撃レベルの緩和が可能に (C)JAXA

30形態の初打ち上げにおいて、地上側でカギとなる技術はホールドダウンシステムだ。22/24形態の場合、打ち上げの6.3秒前にまずメインエンジンをスタート。LE-9が2基だとフルパワーでも機体を持ち上げられないが、同0.4秒前にブースタに点火、この推力が加わることで上昇を開始する。

一方30形態は、3基のLE-9だけで上昇していくことになるのだが、液体エンジンは推力の立ち上がりが緩やかなため、推力と重量が釣り合うギリギリのところで浮いてしまうと危険。所定の推力が出るまで機体を上から押さえつけ、飛び上がらないようにするのがホールドダウンシステムで、このように打ち上げで使うのは今回が初となる。

  • ホールドダウンシステムのイメージ図。左が打ち上げ前、右が解除後だ (C)JAXA

    ホールドダウンシステムのイメージ図。左が打ち上げ前、右が解除後だ (C)JAXA

30形態でも、メインエンジンをスタートさせるのは打ち上げの6.3秒前。推力が立ち上がると機体側からメインエンジンロックイン(MELI)という信号が出され、それによってホールドダウンシステムが解除される。JAXAはリフトオフのタイミングをX-0秒としており、ホールドダウンシステムの解除はその直前となる見込みだ。

リフトオフ後も、大きな違いがありそうだ。6号機と同じくSSOへの打ち上げだった3号機(22形態)と飛行シーケンスを比べてみると、メインエンジンの停止は、303秒→214秒とかなり早い。これはエンジンが増え、その分推進剤の消費も早いためだ。また、加速度が大きくなりすぎるのを抑える終盤のスロットリング(約66%)は、20秒間→60秒間と3倍長くなる。

  • 6号機の飛行計画 (C)JAXA

    6号機の飛行計画 (C)JAXA

そしてもうひとつ大きく違うのは飛行経路だ。種子島からの打ち上げでは、一旦、東側に上昇してから、南側にグッと曲がるドッグレッグと呼ばれる飛行を行うが、6号機はこのカーブが緩やか。打ち上げ方位角は、初号機〜3号機が約91度だったのに対し、6号機は約110度と、20度ほど南側に向けて飛んでいくことからもそれが分かる。

  • 左が3号機、右が6号機の飛行経路。どちらもSSOの打ち上げだが、曲がり方がかなり違う(両機の打ち上げ計画書から作成)

    左が3号機、右が6号機の飛行経路。どちらもSSOの打ち上げだが、曲がり方がかなり違う(両機の打ち上げ計画書から作成)

22形態では、第1段機体を東南アジアの島々の手前で安全に落下させるため、必要以上に大きく曲げていたのだが、30形態は最初の加速が遅く、分離タイミングも早いので、曲がり方を小さくしても問題ないというわけだ。ドッグレッグは打ち上げ能力としては単なるロスになるので、30形態はSSOにより効率的に打ち上げられるといえる。

  • H3ロケットのSSO打ち上げでの落下予想区域を比較できるよう地図上にプロットしてみた。緑色が6号機で、22形態だった過去の3機と比べると、特にフェアリングがかなり遠くまで飛んでいることが分かる。筆者のWebサイト( https://o-tsuka.net/h3ssomap/map )でも確認可能だ(地図データ:OpenStreetMap https://www.openstreetmap.org/copyright )

    H3ロケットのSSO打ち上げでの落下予想区域を比較できるよう地図上にプロットしてみた。緑色が6号機で、22形態だった過去の3機と比べると、特にフェアリングがかなり遠くまで飛んでいることが分かる。筆者のWebサイト( https://o-tsuka.net/h3ssomap/map )でも確認可能だ(地図データ:OpenStreetMap https://www.openstreetmap.org/copyright )

打ち上げの様子を有田プロマネが大胆予測

また宇宙ファンとして気になるのは、どんな打ち上げになるのか、ということだろう。ブースタがないので、機体はゆっくり上がるはず。ロケットの打ち上げというと、白い煙を噴き上げながら上昇するイメージが強いが、あれはおそらくブースタの影響が大きい。LE-9が出すのはほぼ水蒸気だけなので、派手さには欠けるかもしれない。

  • 6号機の概要。ブースタなしの形態というのは、H3の大きな特徴だ (C)JAXA

    6号機の概要。ブースタなしの形態というのは、H3の大きな特徴だ (C)JAXA

記者説明会では、フライトのCG動画が初公開された。有田プロマネは、「透明な炎になると思い、そのように作ってもらった。ほとんどロケットだけが浮いているような感じになるのでは」と指示を出したことを明かしたが、実際にどのように見えるのかは「打ち上げてみないと分からない。我々も楽しみにしている」と、笑顔を見せた。

  • こちらがそのイメージCG。メインエンジンのみだと、このように飛ぶ?(JAXAの動画からキャプチャした画像)

    こちらがそのイメージCG。メインエンジンのみだと、このように飛ぶ?(JAXAの動画からキャプチャした画像)

  • 噴煙の航跡、いわゆる“ロケットロード”が見当たらないのが面白い(同上)

    噴煙の航跡、いわゆる“ロケットロード”が見当たらないのが面白い(同上)

一方、打ち上げ時の音については、「理論上は比推力が大きいエンジンのほうがうるさいはずだが、感覚としては、激しく燃えるブースタのほうが音が大きい」と、こちらもどうなるか予測が難しい様子。ブースタがなくなり、LE-9が1基増える影響はどう出るか。有田プロマネは「スマートな音を立てて飛んで欲しいなと思う」と期待を述べた。

打ち上げまでは、あと1カ月を切った。噴射や音がどうなるのか、種子島での“答え合わせ”を楽しみに待ちたい。