2026年1月15日(日本時間)、166日間の宇宙滞在を終えた油井亀美也宇宙飛行士ら「Crew-11」の4人のクルーが帰還した。

彼らの元気な姿に安堵した人も多いはずだ。なぜなら1月7日(米国時間)、宇宙飛行士の一人に健康上の懸念が生じ、予定を約1か月間早めて帰還することが決定されたからだ。25年間続くISS(国際宇宙ステーション)史上初の、医療上の理由による早期帰還。その時、何が起こったのか、宇宙飛行士たちはどんな行動をとったのか。4月に帰国した油井亀美也宇宙飛行士に個別インタビューの機会を得て、じっくり伺った。

  • 1月に宇宙から帰還した油井亀美也宇宙飛行士

    1月に宇宙から帰還した油井亀美也宇宙飛行士が、史上初となる医療上理由での早期帰還となった滞在中のリアルを語った

  • 帰還直後のクルードラゴン船内

    2026年1月15日、帰還直後のクルードラゴン船内。右から油井亀美也飛行士、ジーナ・カードマン飛行士(NASA)、マイケル・フィンク飛行士(NASA)、オレグ・プラトノフ飛行士(Roscosmos)(c)NASA (提供:NASA)

訓練とは異なる緊急事態、クルーたちの対応は

―インタビューよろしくお願いします。今日は、記者会見(4月9日に実施)で聞きにくかったことをお聞きしたいと思います。

油井亀美也宇宙飛行士(以下「油井さん」):ぜひ。マニアックな質問でも大丈夫です(笑)。

―ありがとうございます。今年1月の早期帰還のことが気になっています。NASA(米国航空宇宙局)は2月末、Crew-11の一員だったマイク・フィンク飛行士の要望によって、医学的な問題が起こったのはフィンク飛行士であることを発表しました。また海外報道によると、フィンク飛行士はISS滞在中の1月7日、翌日の船外活動の準備を終えて夕食をとったあと、突然話すことができなくなり、痛みはないが苦しそうな様子が約20分間続いたと報じられています。その時、クルーの皆さんはどんな対応をなさったのでしょうか?

油井さん:私たちは基本的に、メディカルエマージェンシー(医学的な緊急事態)が起きた時の対応を地上で訓練しています。かなり厳しい状況が与えられて、地上の医師のリモートガイダンスを受けて、ISSにあるAEDや酸素吸入などさまざまな装置を使う訓練です。実際はISSには手順書もあるのでそれに従ってやるのですが、(今回も)最初の対処は誰が何を言うこともなく、その時にISSにいた6人が集まって分担し、自動的に対処ができたと思います。

  • ISSにいた6人のメンバーは即座に医学的緊急対応に動いた

    2026年1月、ISSにいた6人のメンバーは即座に医学的緊急対応に動いた。写真は12月30日。普段からチームワークは抜群だったことが表情から伝わる(c)NASA (提供:NASA)

―宇宙滞在中は「メディカルオフィサー」と呼ばれる医療担当が指名されると聞いていますが、今回は油井さんだったのですか?

油井さん:私たちのチームには医者はおらず、アメリカ人クルーは全員メディカルオフィサーの訓練を受けていきました。誰が(ISSで)具合悪くなるか、わかりませんからね。

―具体的にはISSではどんな処置をなさったのでしょうか?

油井さん:(ISS内の写真を)よく見ると、簡易ベッドのようなもの(CMRS: Crew Medical Restraint System)が常時セットされています。急に誰かが具合が悪くなった時、ベッドを組み立てている時間がないからです。簡易ベッドにはベルトみたいなものがあって、まず浮かんでいかないようにしてから、いろいろな処置をするんです。

  • 簡易ベッドCMRSと思われる写真

    油井飛行士の下に見える茶色の台が簡易ベッドCMRSと思われる(c)NASA (提供:NASA)

―ISSで宇宙飛行士がさかさまになって心臓マッサージ訓練をする画像を見たことがあります。

油井さん:そうですね。まずそこ(簡易ベッド)にみんなで運んで括り付けて脈拍を測り、呼吸があるか、安全であるかを確認して地上の助けを呼ぶ。地上の緊急事態と同じような対処をやっていきました。並行して、地上にこういう状況が起こっていると知らせないといけなかった。でもオープンのループ(回線)だと騒ぎになってしまう。他の人に聞かれないチャンネルにするのも手順のひとつなんですが、私が「チャンネルをプライベートにしてください」とお願いした上で、地上に状況を説明しましたね。

―以前、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のフライトサージャンに取材した際、宇宙滞在で医学的なリスクが高く注意を要するのが心臓血管系の病気だと聞きました。つまり、一刻を争う場合があると。心臓マッサージなどの訓練はされていくと思いますが、今回のような症状は、想定されていましたか?

油井さん:ちょっと微妙でしたね。ある意味緊急なんですけれども、訓練しているカテゴリとは明らかに違いました。地上の医師と話をして「この手順は飛ばしていいが、これはやってくれ」といった指示が届きました。

地上でやったことのなかった血液検査も実施

  • 宇宙滞在累計日数が500日に達したマイク・フィンク飛行士たち

    2025年11月27日、宇宙滞在累計日数が500日に達したマイク・フィンク飛行士(前列中央)とお祝いするクルーたち。2004年以来4度目の宇宙飛行を行うベテランだ(c)NASA (提供:NASA)

―なるほど、あらかじめ緊急時の基本的な手順があって、その中で実際にやるものとやらないものの指示があったと。

油井さん:はい、そうですね。そのベースがあることで、非常にやりやすかったです。個人的に得た教訓は、訓練したことはスムーズにできるが、訓練しないことはすごく時間がかかる。訓練時間が減ってきているので、訓練できない機械も一部あったんですよね。

―たとえばどんなものでしょう?

油井さん:血液のような液体は、やはり動き方が重力があるかないかでだいぶ違います。血液検査のカートリッジに血液を入れるようにと言われても、宇宙で初めてやるのでなかなか血液が入っていかなかったりして苦労しました。自分が間違っているのか、機械が壊れているのはまずはわからなくて。

―宇宙で初めて使うのはなかなか厳しいですね。しかも緊迫した場面で。

油井さん:はい、そういった装置は地上用にできたものですから、あまり宇宙での使用は想定されていなかった。どうやって使うの?と手順書を見ながらの作業でした。でもそれは新たな気づきで、緊急で使うことがあるのなら、使う可能性が低くてもやっぱり地上でやっておいた方がいいというコメントをしました。

―その時の心境はどうでしたか?

油井さん:普通の状態にもどってきてからは少し安心しましたけど、ちょっと普通じゃないなっていう状況が見てわかる時は、やっぱり皆さん緊張していました。「これからどうなるんだろう」と少し心配しながら状況を見守り、地上のお医者さんの意見も聞きながらかなりテキパキやりつつも緊張して。

―それは緊張しますよね。

油井さん:それでも手を握ってあげる宇宙飛行士がいたりとか、本当になんて言うんでしょう、いい感じで対処できたと思いますよ。

  • 宇宙滞在中の緊迫した時間を振り返る油井さん

    宇宙滞在中に発生した非常事態。油井さんが語る言葉の裏からは計り知れない緊迫感が伝わってきた