• 2023年1月末、JAXA筑波宇宙センターで訓練中のペギー・ウィットソンさん。NASA宇宙飛行士として3度のISS長期滞在を実施、ISS初の女性船長を務めた。2018年にNASAを引退、現在はAxiom Space有人宇宙飛行ディレクタ。5月からのAxiom2ミッションでは、3名のクルーを率い民間宇宙飛行初の女性船長を担う。

    2023年1月末、JAXA筑波宇宙センターで訓練中のペギー・ウィットソンさん。NASA宇宙飛行士として3度のISS長期滞在を実施し、ISS初の女性船長を務めた。2018年にNASAを引退、現在はAxiom Space有人宇宙飛行ディレクタ。5月からのAxiom2ミッションでは、3名のクルーを率い民間宇宙飛行初の女性船長を担う。

まもなく、民間宇宙飛行初の女性船長が誕生する。5月22日6時37分(日本時間)、クルードラゴンに搭乗した4人の民間人(そのうち1人はサウジアラビア人初の女性飛行士)が、ISS(国際宇宙ステーション)に向け打ち上げ予定。Axiom Spaceの2回目の商業飛行「Axiom-2」(以下、Ax-2)であり、Ax-2を率いるのが元米国航空宇宙局(NASA)のレジェンド飛行士、ペギー・ウィットソンである。

今まで日本や世界の宇宙飛行士に注目・取材してきたが、ダントツに仕事が早いのが彼女だ。予定よりどんどん前倒しで作業を進めていく。記憶に強く残るのは2008年3月。土井隆雄飛行士がISSに取り付けたばかりの「きぼう」日本実験棟に入室しようとする時のこと。日本の有人宇宙開発史に刻まれる歴史的な瞬間を取材しようと、私は宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センターの管制室に向かっていた。道中、「入室しそうです。急いで下さい」とJAXA広報担当から連絡が入り、車のアクセルを思いっきり踏んだ。ギリギリ間に合ったが、予定より3時間も早く作業が進んでいたらしい。

  • 2007年10月~2008年4月、ペギーがISS初の女性船長を担っているときはISSの建設ラッシュ、米国連結棟、欧州実験棟、そして日本実験棟「きぼう」船内保管室を連結させた。

    2007年10月~2008年4月、ペギー(後列右から2人目)がISS初の女性船長を担っているときはISSの建設ラッシュ、米国連結棟、欧州実験棟、そして日本実験棟「きぼう」船内保管室を連結させた。写真前列右端に土井飛行士(提供:NASA)

そのとき、ISSで船長を務めていたのがペギー・ウィットソンNASA宇宙飛行士(当時)。ISS初の女性コマンダーだった。どの宇宙飛行士もフライトディレクタも彼女の仕事の速さに舌を巻く。「ペギーが早く仕事した場合の予備作業リスト」を準備されたとも聞く。だが必死に仕事をするというより、テキパキとにこやか。何より、かっこいい!

  • ISSで作業中のペギー・ウィットソン飛行士。

    ISSで作業中のペギー・ウィットソン飛行士(左)。(提供:NASA)

米国人で最長の累積宇宙滞在日数(665日)を誇り、女性最多の船外活動(10回)など記録をあげればきりがない。宇宙飛行士がリスペクトするレジェンド(野口飛行士も尊敬する飛行士にペギーをあげた)。だが意外にも4回宇宙飛行士候補者に挑戦、5回目で採用された。「その間の努力が私をISS初の女性船長にした」と某ニュースで語っている。

  • 船外活動は10回。女性最多を誇る

    船外活動は10回。女性最多を誇る(提供:NASA)

彼女は2018年にNASAをリタイヤ。現在は商業宇宙ステーション計画を推進するAxiom Spaceに所属、そして3人の民間宇宙旅行客を率いるAx-2のコマンダー(船長)として懐かしのISSに戻る。Ax-2は2022年4月に実施されたAx-1に続く2回目の同社の商業宇宙飛行。ISS滞在は約8日間を予定している。

  • クルードラゴンによる宇宙飛行はペギーにとっても初の挑戦。

    クルードラゴンによる宇宙飛行はペギーにとっても初の挑戦。(提供:Axiom Space)

憧れのペギーが今年1月末、きぼう日本実験棟の訓練のために来日。訓練を実施するJAMSS(有人宇宙システム)のご協力を得て、単独インタビューするという幸運に恵まれた! なぜNASAから民間に? なぜ仕事が早い? 宇宙で怖かったことは? 初めて聞くスリリングな話も飛び出した。インタビューにはAx-2でパイロットを務めるジョン・ショフナー氏も同席。2人の掛け合いもお楽しみください。

宇宙を、仕事を愛している

  • インタビューに応えるペギー・ウィットソン飛行士

    インタビューに応えるペギー・ウィットソン飛行士

―2022年4月に実施されたAx-1は単なる宇宙旅行でなく、Axiomが計画する商業宇宙ステーションのための実験を行うと強調されていました。Ax-2はどんなミッションですか?

ペギー・ウィットソン(以下、ペギー):本当にわくわくするミッションになっています。実は私はNASAを辞めたとき、宇宙に戻ることを予想していなかったので興奮しています。科学実験もありますが、ジョンはSTEM(理科)教育を頑張ろうとしていて、リサーチと啓蒙も含めてやっていきたい。もちろん、新しく商業宇宙ステーションを立ち上げる時に、どういう手順をとっていく必要があるかという調査も含め、将来に向けた下地を作るという目的もあります。

  • Axiom Spaceは2025年にISSに商業モジュールをドッキング。その後拡張させ、将来的にはISSから分離し、独立した商業宇宙ステーションの構築を目指す

    Axiom Spaceは2025年にISSに商業モジュールをドッキング。その後拡張させ、将来的にはISSから分離し、独立した商業宇宙ステーションの構築を目指す(提供:Axiom Space)

―なぜ、NASAからAxiomに転職されたんですか?

ペギー:私はNASAを愛していました。退職後しばらくしてAxiomから有人宇宙飛行部門のディレクター職とAx-2ミッションのコマンダーにならないかと声をかけてもらって興奮したんです。なぜならAxiomには若いエンジニアがたくさんいるからです。新たな観点から商業ステーションを立ち上げられるんじゃないか、という点に感銘を受けました。

―ISSのきぼう組み立ての時にあなたの仕事があまりにも早くて驚きました。ISSはすでに完成し、今後建設が始まるAxiom Stationでこそ、あなたの手腕が発揮できるのかなと思いました。

ペギー:個人的には、科学者として研究や宇宙での生産活動に関わっていきたいと思っています。過去にきぼうなどISSの各国のモジュールで行った実験から、私は微小重力環境が持つ可能性を感じています。将来にどう繋がっていくかが見えるので楽しみなんです。

ジョン・ショフナー(以下、ジョン):一言言っていい? ペギーは単に宇宙を愛しているんだよ。いろいろ理由を並べているけど、宇宙が大好きで戻りたいという気持ちが大きいことを追加させてもらうね。

  • 左はAx-2にパイロットとして参加するジョン・ショフナーさん。パイロットとしての総飛行時間は8500時間を超える。レーシングドライバーでもあり、自身のモータースポーツチームを設立している。

    左はAx-2にパイロットとして参加するジョン・ショフナーさん。パイロットとしての総飛行時間は8500時間を超える。レーシングドライバーでもあり、自身のモータースポーツチームを設立している。

―ジョンさん、ありがとうございます。ペギーさんが宇宙を語るときの目の輝きで、いかに宇宙を愛しているか理解できます。ペギーさん、ISSのコマンダーと民間宇宙飛行のコマンダーとの違いはありますか?

ペギー:多くの点で共通しています。最優先事項はクルーの安全、次に機器の安全、そしてミッションを達成すること。ビッグピクチャーは同じなんです。ただ、今回は民間宇宙飛行なのでクルーそれぞれにやりたいことがある。それ(をいかに実現してもらえるか)が私にとっての新たなチャレンジですね。

―あなたは3回のISS長期滞在経験がありますが、民間宇宙飛行士としてISSに戻るのはどんな気持ちですか? あなたご自身の挑戦は?

ペギー:商業宇宙開発の段階に自分が関わることができることに、ものすごくエキサイトしています。宇宙船クルードラゴンで打ち上げられるのも新しい経験です。Axiomでは若いエンジニアが商業宇宙ステーション立ち上げのためにさまざまな研究や作業をしています。彼らが「これはうまくいくかな」と面白いアイデアをもってきてくれて、「いいね、やってみよう!」と答えることもあれば、宇宙経験から「重力のないところではうまくいかない」と答えることもあります。そういったやりとりがすごく面白くてやりがいがあるんです。

ジョン:そして3人の新しい宇宙飛行士を生み出している!

ペギー:3人の訓練もチャレンジね(笑)。

  • Ax-2に参加するクルーたち。右端がサウジアラビアのアリ・アルカル。右から3人目がラヤナ・バルナウィでサウジアラビア初の女性飛行士となる。

    Ax-2に参加するクルーたち。右端がサウジアラビアのアリ・アルカル。右から3人目がラヤナ・バルナウィでサウジアラビア初の女性飛行士となる。(提供:Axiom Space)