TSMC熊本第2工場の着工延期に経産大臣が言及

TSMCは6月3日に開催した株主総会後の会見にて同社の魏哲家(C.C.Wei)会長兼CEOが、本来2025年第1四半期の着工予定としていた熊本第2工場(Fab23 Phase2)について、現地の交通渋滞問題を原因の1つとして挙げていた。

同氏は、「日本政府にも交通状況の改善を求め、着工の遅れについての了承も得ている」とする発言をしていたが、日本の経済産業省の武藤容治 大臣は6月6日の閣議後の記者会見にて、TSMC第2工場の着工遅れについて「報道は承知しているが、交通状況の悪化で着工を延期する方針との報告は受けていないし、日本政府の了解を得ているという事実もない」とC.C.Wei CEOの発言を否定したほか、「(日本)政府としては、工場周辺の道路などの関連インフラの整備については、内閣府の交付金を通じて熊本県を支援している。今後、円滑な投資・建設が進むよう、政府としても状況を注視していく」とも発言をしたという。

着工延期の背景に見える自動車市場の低迷

こうした報道を踏まえ、TSMC熊本大2工場の着工延期について、電気自動車(EV)を中心とする自動車市場の低迷と米国のトランプ大統領による関税政策による先行き不透明感から、顧客が車載半導体の発注に慎重になっているためだとする見方が台湾の半導体サプライチェーンより出ていると台湾メディアのDIGITIMESが報じている

台湾の半導体サプライチェーン関係者によると、米アリゾナ州の第2・第3工場の進捗がトランプ政権の強い要請により当初計画から約半年前倒しされたことが、人材や資本の面で他国・地域の計画に影響を与えつつあるという。

このうち、日本の熊本工場(JASM)については、稼働済みの第1工場(TSMC Fab23 Phase1)は、車載CMOSイメージセンサに注力しているソニーセミコンダクタソリューションズや車載半導体を手掛ける日系企業が発注に慎重になっている影響で、2025年初頭から稼働率の伸びが鈍化しているという。また、熊本第2工場については、交通渋滞の問題は表向きの理由の1つに過ぎないと指摘しており、より大きな問題として、長期的な成熟プロセスの需要の不透明性であり、日本政府や熊本県が要請している第3工場の建設計画にも影響が及ぶ可能性があるとしている。

欧州への投資も鈍化傾向

現在の半導体市場はAI関連の需要は旺盛である一方、自動車や家電からの需要は限定的な状況。特に自動車は欧州ではVolvoがEVの販売不振と米国の関税措置の影響から3000人の人員削減を発表しているが、欧州の自動車メーカー全体ではすでに1万5000人を超す人員削減が進んでいる。また、欧州半導体メーカーも、STMicroelectronicsが今後3年以内に5000人の削減を発表しているが、Infineon TechnologiesやNXP Semiconductorsも2024年に数千人規模の人員削減を行っている。

こうした状況のため、独ドレスデンで建設中の新工場についても、進捗が緩やかになっているとの情報が台湾の半導体サプライチェーンの間に出ているとのことで、トランプ政権による自動車や半導体に対する関税政策の動きとあいまって、日本ならびに欧州での増産計画をスローダウンさせ、米国を優先する資源の再配分を実行しているとの見方もでているという。