大阪大学(阪大)は2月19日、二次元材料「六方晶窒化ホウ素」の上に、パルスレーザー蒸着法を用いて「二酸化バナジウム」の薄膜結晶を成長させ、その厚さを薄くしても性能が劣化せず、約10nmの超薄膜においても良好なスイッチ特性を示すことを明らかにしたと発表した。
同成果は、阪大 産業科学研究所(産研)の余博源大学院生(阪大大学院 基礎工学研究科)、同・田中秀和教授、物質・材料研究機構(NIMS)の渡邊賢司博士、同・谷口尚博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本応用物理学会が刊行する応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Express」に掲載された。
二酸化バナジウムは「強相関量子材料」の一種であり、巨大なスイッチング動作が可能な材料として知られる。通常の半導体とは異なり、電子間の強い相互作用により、約55℃を境に低温の高抵抗の絶縁体状態から低抵抗の金属状態へと相転移し、電気抵抗が約5桁も変化するなどの大きな特性変化を生じる。近年シリコン半導体の微細化が限界を迎えつつある中、強相関量子材料はその超巨大物性を活用し、ナノスケールの次世代半導体材料を実現するものとして期待されている。
従来、酸化物材料の超薄膜化は、結晶構造が類似する特殊かつ高価な基板材料上のみで実現可能だった。しかもその限られたケースであっても、2種類の異種材料間の界面に生じるわずかな結晶構造の違いから“歪み”が発生し、薄膜化によって特性が急激に劣化するという問題を抱えていた。そのため、半導体デバイスとして材料を機能させるために薄膜化は不可欠だが、動作させることが困難なこと、そして材料のコストも高いことが普及の妨げとなっていた。
グラフェンに代表される二次元材料は、原子1層から数層の厚さしかない極薄のシート状物質であり、フレキシブルに使える点が特徴である。六方格子で構成される六方晶窒化ホウ素もその一種で、特に熱や酸化雰囲気に強く、高い絶縁性を示す。原子レベルで平坦な表面には、分子間力であるファンデルワールス結合しか存在せず、強い共有結合やイオン結合とは性質が大きく異なり、非常に「柔らかい」表面を持つ。このような背景から研究チームは今回、六方晶窒化ホウ素の柔らかい表面であれば、異種材料を積層しても無理な歪みが生じにくく、界面の歪みを緩和しながら酸化物材料が成長すると考え、研究を進めたという。
今回の研究では、パルスレーザー蒸着法を用いて厚さの異なる薄膜を複数作製し、そのスイッチング特性が評価された。実験の結果、10nm厚という超薄膜の二酸化バナジウムにおいても特性が劣化せず、良好なスイッチング特性を示すことが確認された。柔らかい有機材料を用いた積層構造はよく知られているが、“柔らかい”二次元材料上に“固い”無機強相関量子材料を直接積層することは、新たな界面物理現象を開拓する可能性を示唆するものとする。
研究チームは、六方晶窒化ホウ素の柔軟な表面を利用することで、次世代エレクトロニクス材料として期待されるさまざまな酸化物量子材料をナノスケールで自在に薄膜化し、デバイス応用への道を拓くという。さらに、どこにでも貼り付け可能というフレキシブルな性質を利用して、ナノセンサやナノデバイスの作製といった新しい用途を生み出し、トリリオンセンサやユビキタス社会の発展に寄与することが期待されるとしている。