人工知能(AI)の技術開発に関し、米国政府の委託で独立した立場から調査を行う「米国人工知能安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence:NSCAI)」は3月1日、最終報告書を連邦議会に提出した。

それによると、AI開発で台湾、韓国、シンガポールに対抗するため、40%のコスト削減をもたらす税制優遇と5年間で120億ドルの研究開発投資を提言している。

また、AIなどに関する重要技術が中国人民解放軍に窃取されることを防ぐため、米国の大学は対策を強化すべきだとも提言している。

さらに、半導体製造装置についても取り上げており、同盟国と連携して中国への輸出を厳しく制限する可能性について言及している。この報告書に盛り込まれたAIおよび半導体などの技術に関するさまざまな提言をもとに、今後、連邦議会の超党派の議員たちによって法案作成に向けた動きが進められるものと思われる。

なお、NSCAIは、国家安全保障と国防の観点からAIや関連する半導体技術や周辺技術をめぐる開発のあり方を検討するため、2018年に設立された米国政府の委託調査機関で、委員長をGoogleの元CEOであるEric Schmidt氏が務め、MicrosoftやAmazonなどの経営者たちも委員に名を連ねている。

AI分野で中国に対して危機感

報告書では、海外勢、とりわけ中国がAI分野における米国の地位を脅かしているとして強い危機感を表明している。そのため、中国の軍人やそのつながりが疑われる人物が米国の大学や研究機関に身分を偽って入り込むのを事前に阻止することを目的に、これらの個人や所属する団体に関するデータベースを作成し、共有することを提案しているほか、各大学に対し、AIをめぐる研究開発費の調達先や、外部の企業や団体などとの提携関係をより明確に開示すべきだとも指摘している。

米国では2020年、中国の千人計画に参画したハーバード大学の教授らが逮捕されたほか、米国の大学の研究成果を盗み出そうとしていた中国人学生や研究者たちが次々と逮捕される状況となっている。そのため米国は、中国人留学生への学生ビザの発給や更新を制限しはじめているという。

AIのみならず半導体や製造装置にも言及

報告書には、米国がAI分野で世界のリーダーシップを握るためには、マイクロエレクトロニクスのリーダーシップを確保できるかがカギを握っているが、残念ながら、半導体分野で米国の力は弱まっており、とりわけ米国での半導体製造を復権するため、今こそ行動に出なければならないとの訴えも記されている。

さらに半導体製造装置産業にも言及しており、米国でAI産業が隆盛すれば、半導体産業も活況を呈し、米国の半導体製造装置メーカーだけではなく、日本やオランダの製造装置メーカーもその恩恵に浴するだろうとしているほか、これらの製造装置メーカーに対する新たなビジネスチャンスが米国で生まれれば、米国政府は、輸出管理政策について同盟国の政府と連携して、半導体製造装置の中国への輸出を厳しく制限する可能性があるともしている。

このほか、報告書ではAI技術の総合的な戦略を構築するための「技術競争力に関する審議会」の設立や、IT分野での傑出した人材を育成するための専門教育機関の設置なども提言している。