北海道大学(北大)は3月6日、医薬品の原料として有用な「キラルオキシインドール」(画像1)類を、廃棄物を出すことなく簡便に合成する方法を開発し、独自開発の触媒「キラルイリジウム」(画像2)を使用して「α-ケトアミド」(画像3)類の分子中に多数ある炭素-水素結合から特定の結合の選択的切断と新たな炭素-炭素結合の形成を一挙に行い、左手型・右手型のどちらか片方のキラルオキシインドールのみをほぼ純粋に合成することに成功したと発表した。

成果は、北大大学院 工学研究院 フロンティア化学教育研究センターの山本靖典(やまもと・やすのり)特任准教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間2月20日付けで独化学誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

画像1(左):医薬品の原料として有用なキラルオキシインドール。画像2(中):独自開発された触媒のキラルイリジウム。画像3(右):キラルオキシインドールを合成する材料となるα-ケトアミド

キラル分子とは、右手と左手のように互いに鏡に映したような関係にある分子だ。基本的に同じ構造をしているのに、形としては重ね合わせられないもののことをいう。右手分子と左手分子の関係を、「鏡像異性体」と呼ぶ。例えばグルタミン酸もキラル分子だ。片方はうま味があるが、もう片方にはうま味がない。このように鏡像異性体は生体反応において互いに異なる挙動を示すのである。そのため医薬品開発では、一方の鏡像異性体だけを高純度に創り出す合成法の開発が重要だ。それを誤ると、サリドマイドのような痛ましい事故が発生してしまうのである。

キラル分子の性質を発現する分子骨格中の炭素原子を「不斉炭素」という。一方の鏡像異性体だけを合成するためには、この不斉炭素を一方の形に制御する必要がある。今回合成されたオキシインドール類は天然有機化合物に広く見受けられる基本骨格の1つだ。中でも、3位(画像中星印の位置)が不斉炭素であるものは生物活性を有するものが多く、それ故、3位の不斉炭素を制御したキラルオキシインドール類の合成法の開発は、有機合成化学において重要な課題の1つだったのである。

研究チームは今回、合成が簡単なα-ケトアミド類の特定の炭素-水素結合の選択的切断と新たな炭素-炭素結合の形成を一挙に行い、画像4に示されているようなキラルオキシインドール類の片方の鏡像異性体のみをほぼ純粋に合成し得る触媒の設計と試験が行われ、それに成功した形だ。今回開発された手法は、独自開発の触媒を少量用いるだけで廃棄物をまったく出さない分子変換が可能になる。

画像4。今回開発された、結合を組み替えるだけの100%無駄のない変換方法

これまで不斉炭素の制御には、金属試薬やハロゲン化合物を使って金属やハロゲンを目印に結合が形成されていたが、このような目印原子は反応後に廃棄物となってしまう。しかし、今回開発された「キラルイリジウム(Ir)」触媒をα-ケトアミドに対して5%添加すると、キラルオキシインドールの片方の鏡像異性体のみがほぼ純粋に合成されるのだ。

しかもこの触媒も右手型、左手型の構造を有しているため、触媒を使い分けることで右手型、左手型のキラルオキシインドールを自在に作り分けることができるのである。また、今回の方法により、これまで合成例のない新規な16種類のキラルオキシインドール類が合成されたという。

今回開発された反応は、独自に開発されたキラル触媒によりα-ケトアミド類の特定の炭素-水素結合の選択的切断と、新たな炭素-炭素結合の形成を一挙に行うことにより、片方の鏡像異性体のみをほぼ純粋に合成することができる簡便さと、廃棄物が出ない経済的な方法だ。しかも、合成されるキラルオキシインドール類は医薬品の合成原料として非常に有用である。よって、今後、医薬品候補品の迅速な合成が期待されるとした。