1949年に兵庫県姫路市で創業した西部電気建設株式会社(以下、西部電気建設)は、電気工事の施工管理を専門とする企業。2024年6月で創業75周年を迎えた同社は、ゼネコンとの直接取引により、これまで工場、商業施設、病院、学校、集合住宅など、さまざまな新築建物の電気工事の管理監督業務を請け負ってきた。近年は、関西圏にとどまらず、関東圏への進出も果たしている。
2023年度決算では過去最高となる185億円の売上高を記録。そんな成長著しい同社の強みは、まさに「人=社員」である。「5カ年の教育システム」をはじめ独自の教育制度を導入し、国家資格である電気工事施工管理技士の保有率は90%を誇る。加えて、手厚い福利厚生により社員のモチベーションアップに注力してきた。
2024年1月から、オリックスからの提案をきっかけとして、自助努力型の企業年金制度に加えて、社員の成長や評価に応じて退職金水準を引き上げる企業年金制度を導入。人材不足の中、驚異の社員定着率を誇る同社の人材戦略や事業における強みについて、同社取締役 経営戦略室室長の東野 清友氏に伺った。
現場作業からスタートし、現場のマネジメントを行う管理監督業へと転換
同社は戦後間もない1949年に姫路市近郊の電気工事業者4社が出資して設立された。社名の「西部電気建設」には、兵庫県の西部地区を中心に、戦後復興になくてはならないエネルギー、電気を普及させるための設備を生み出していくという気概が込められている。設立当初は、県内に約15カ所の営業所を展開し、関西電力の引き込み工事を受託し、ペンチとドライバーで現場作業に従事していた。
「つまり、現在の施工管理者という立場ではなく、現場作業員の集まりでした。そうして20年ほど事業展開してきたのですが、より幅広いお客さまからのご要望にお応えしながら、さらに収益を見込める体制づくりを目指して、1975年頃から電気設備工事の管理監督業務に特化した現在の体制になりました。」
しかし、当初は管理業務に関するノウハウがほとんどなかったため、競合他社や協力会社に社員が入り込んで、無報酬で働くことで技術や知識を学び取っていったという。そこには社員のみならず、社員をそばで支える人たちにも大変な苦労があったと容易に想像がつく。
「そうした苦しい時代をともに乗り越えたこともあって、“社員=家族”という意識が強い会社だと思います。だから、手当も厚いし、新入社員の教育にも時間をかけて行います。やっぱり、娘や息子が“習い事をしたい”と言ったら、親はなるべくその願いをかなえてあげたいじゃないですか。若手社員には、特にそんな気持ちを抱いています。また、現場の幅広い知見や経験が求められる管理監督業を担う当社にとって、専門人材の確保・育成・定着率の向上は事業の成長にとって不可欠ですから、最重要課題として取り組んでいます。」
加えて、ユニークなのは夏と冬の年2回、社員の家族に宛てて送られる「手紙」だ。東野氏は、「ご家族の方々に安心してもらうために始まった制度」と説明する。
「決算情報など会社の業績に関することや、今後の経営方針など、普通の企業では社員に共有し終わるところ、そのご家族に対しても前述の内容を端的にまとめた手紙を送っています。結婚している社員に対してはそのパートナーに宛てて、独身の社員に対してはご実家に社長名で送ります。この手紙が、今会社で行っていることだけでなく会社の将来や今後の働き方についてご家族と話し合う機会になってくれればという思いです。」
ゼロから人材を育てる「5カ年の教育システム」
創業から75周年を迎えてもなお、成長を続ける西部電気建設。「社員は家族」と語るその企業姿勢や、その姿勢をきちんと社内の制度や仕組みづくりに反映してきたことが、長きにわたる継続的な成長につながっていることは間違いないだろう。他に同社の強みと言えばどのようなものがあるのだろうか。
「大きく二つあって、一つは“どこよりも安く、納期をきっちり守る”という現場力です。たとえ予算が厳しい案件でも、徹底したコスト管理と効率化で利益に変える自信があります。具体的には、ゼネコンから提示された図面に対し、より効率的な電気配線ルートを提案することで、資材費のコストダウンや工期短縮を図っています。また、現場作業を協力会社委託する際、案件によっては一部業務を当社が対応し、協力会社の業務負担を減らすことで工期を順守しています。こうした工夫の積み重ねで、収益の最大化を実現しているのです。
当社では、原則、案件は打ち合わせから施工図の作成、作業指示、工程管理、引き渡しまで1人の専任施工管理者が担当する。並行して、着工前段階から社内の各施工グループで設計図面の精査を行う「先手計画書類管理」を実施。これにより、事前に施工の問題点を洗い出し、不測の事態にも即応しています」
では、二つ目の強みは、何だろうか?
「独自の人材育成制度です。通常、新入社員の研修期間は大手ゼネコンであっても半年から1年程度、人手不足が深刻な中堅規模の会社であれば1カ月程度で現場に送り出されます。それに対して、当社の新入社員の研修期間は5年の歳月をかけています。
まず1年間は、自社所有の研修所にて、資格取得やCADの操作方法、施工図の書き方、現場管理の初歩といった実務の基礎を身に付けます。2~3年目は現場研修として、実際の業務環境での経験を積みます。4~5年目は実務研修として上席者の細かいフォローアップを受けながら施工管理の技術を学びます。さらに、通常就業期間中にリーダーシップ研修や人間力向上研修も行い、社会人としての資質向上もサポートします。実際の業務を通じて資格取得に必要な知識をじっくり学べる環境を整えていることから、当社の1級・2級電気工事施工管理技士の試験合格率は90パーセントを超えています。」
こうした手厚いバックアップ体制があるため、同社の離職率は驚くほど低い。ここ数年は毎年15人ほどの新卒採用を行っており、入社5年後も少なくとも10人以上が退職せずに戦力として定着している。一説には「3年で5割が辞める」とも言われる建設業界にあって、これは驚くべき数字である。
「5年ほど前に若年者を中心とした“社員会”を設置しました。若手同士のコミュニケーション活性化を図るとともに、社員会を通じて会社をより良くする提案をしてほしいという期待があります。実際、社員間コミュニケーションを図る機会としてのジギング(釣り)大会やフルーツ狩りのイベントが開催されているだけでなく、新しい工具や機器導入の業務に係る提案もあり、社員の意見を採用することで風通しの良い社風の醸成につながっていると思います。」
オリックスの提案から役職に応じた企業年金制度を導入
数々の施策を通じて社員エンゲージメントの向上に成功している同社だが、オリックスからの提案を受け、2024年1月にさらに全社員のモチベーションアップを狙い、新たな企業年金制度を導入した。
「既に当社では、22歳から60歳まで勤めた場合、職種・役職を問わず一律で退職金を支払う確定給付年金(DB)制度があります。さらに一定以上の役職者に対しては功労金という名目で上乗せしているのですが、その金額は慣例で決まっていました。
しかし、現在は会社も成長して高度な技術力を必要とする大型工事案件にも携わるようになり、従来以上に日々の社員の努力に報いる必要性を感じていました。そこで会社への貢献度合いを明確にしつつ、全社員の頑張りにきちんと報いることが大切だと考え、今回、オリックスに相談し、自助努力型の確定給付企業年金に役職等級別加算型の企業年金制度を新たに追加しました。」
この新制度は、例えば部長クラスならいくら、課長クラスならいくらと、役職に応じて決められた額を会社が毎月積み立てていくものであり、仮に部長職を10年務めれば、基本の退職金額に数百万円が上乗せして支払われることになる。もちろん、部長になる以前に課長を務めていれば、その分の積み立て分も上乗せされる。
さらに特筆すべきは、同社は全社員を対象に入社時まで起算して、この制度を導入することを決定した。つまり、制度開始の2024年1月時点で59歳の社員は残りの1年分だけが新制度の加算対象になるのではなく、22歳の入社時点までさかのぼって退職金が加算される。これにより、ほぼ全社員がこの制度導入を機に将来受け取る退職金が増えたという。
「この決定により、前期は数億円単位の積立金が発生することになりましたが、取締役会では反対意見はまったく出ませんでした。もうけた分は、なるべく社員に還元する。そういう社員ファーストの社風が経営陣にも行き届いているのです。
今回、全社員の退職金額を入社時までさかのぼって計算する必要があったので、非常に時間と労力を要することが想定されましたが、オリックスの担当者が熱心に私たちの課題に耳を傾けてくれました。オリックスの売りたいソリューションではなく、当社の中長期的な成長に必須な「人材」のために必要な提案をしてくれていると感じ、導入を決定しました。おかげさまで社員のやる気を引き出せる、本当に良い制度を導入できました。」
年金制度や退職金制度の新規導入や見直しは、税制上の問題が絡んでくるため、経営者や人事担当者が勉強しても、社内で完結することは難しい。その点、オリックスのような金融のプロからのサポートは非常に重要である。
「新たな退職金制度により、これからの人材戦略に弾みがついた」という東野氏。最後に、今後の展望について伺った。
「手前味噌ながら当社は創業以来、全社員が至極当然のことである本業にのみ集中し、とにかく誠実に仕事に取り組んできました。振り返ってみて、言葉では簡単に言えますが、実践するのは難しく、何にも代え難い成果であると考えています。私には、社員が最高の仲間であり、この仲間と一緒に働けることを何よりも誇りに感じています。この家族同様の仲間の努力に対する報いにもあらゆる知恵を絞りながら応えていきたいです。
具体的には、2年間の準備期間を経て来年度から開始予定である人事評価制度の構築も最終段階を迎えています。これまで係長、課長、部長などの役職者になるための要件が曖昧だったのですが、それを明確にして入社後のキャリアパスを描きやすくすることが狙いです。
これからますます人材不足が深刻化する日本にあって、100年企業を目指すためにも学生をはじめとする若い世代に選んでもらえる会社でなければなりません。今後も“社員の幸せ”を追求して、“安くて良い仕事をする日本一の電気施工管理会社”になることが目標です。現状に満足せず、常に課題と正面から向き合いながら、社会から必要とされる組織になるべく、たゆまぬ努力をしていきたいです。」
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