近年、建築物の高層化・大型化や大規模再開発などにより、建物に欠かせない「鉄骨」への需要もまた高まり続けています。岩手県盛岡市に本社を置く株式会社カガヤ(以下、カガヤ)は、その「鉄骨」の設計から製造・施工までを一気通貫で手掛け、高い生産能力を有する全国有数のファブリケーター(鉄骨事業者)です。「GINZA SIX」や「虎ノ門ヒルズ」など、国内有数のランドマークにも数多く同社の製品が採用され、その施工までも携わっています。
東北という場所に根を張りながら、全国の建設現場から依頼が舞い込む、業界でも一目置かれる存在に成長したカガヤ。そんな同社の強みとは? その秘密と今後の展望などについて、4代目の加賀谷 浩一社長に、オリックス盛岡支店 次長の黒川 研一郎がお話を伺いました。
東北ならではの「広大な土地」が、鉄骨業にとっては強みとなる
----まずはこれまでの歩みについてお聞かせください。もともとは、“日本の近代製鉄発祥の地”として知られる釜石で創業されたのですね。
加賀谷氏:おっしゃるとおり、1967年に釜石で金物工事を請け負う「加賀谷鉄工所」としてスタートしました。70年に盛岡へ移転して、74年に鉄骨加工業へ進出し、96年には「カガヤ」に社名変更をしました。会社として転機となったのは、98年に本社・武道工場を新設したことですね。それまでは、東北地方だけで事業展開していたのですが、武道工場の設備能力が既存の仕事量を大きく上回っていたため、関東エリアまで営業を拡大することにしました。
2000年には鉄骨製造工場として上から2番目の「Hグレード」(※1)に認定され、ちょうどその頃から各地で大型のショッピングモールの建築が相次ぎました。いま振り返ると、そのブームにうまく乗れたことが大きかったように思います。2003年には、盛岡市内に建設された鉄骨量約1万2000トン、広さ10万m2という大型ショッピングモールを1社単独で受注しました。その仕事をやり遂げたことが、社員にとっても会社にとっても大きな自信につながったように思います。
その後、リーマンショックの影響で2009年には生産量、売り上げともに前年から半減するなど苦しい時期もありましたが、東日本大震災の復興需要もあって、どうにか乗り切ることができました。現在は、月間約5000トンの加工能力を有するに至り、供給範囲は北海道から大阪までカバーしています。
※1 鉄骨工場の製造能力、設備、技術者の人数などに応じて決まる国の認定制度。高い方から順にS、H、M、R、Jの5段階のグレードがあり、グレードが低いと低中層ビルにしか鉄骨を使用できないなどの制限がある。
----大手のゼネコンや建設会社からも高く評価され、国家的なプロジェクトの建設にもたびたび携わられていると伺いました。あらためて、カガヤの強みについて教えてください。
加賀谷氏:大きく二つあります。一つは、東北という土地柄を生かした、6万m2以上の広大なヤードを自社で有していることです。一般的に大型案件では、工事開始の2カ月ほど前に発注を受け、鉄骨の製造を始めます。製造した大量の製品は、工事開始までヤードで保管する必要があるのですが、当社と同程度の広さのヤードを持つファブリケーターは、全国でもそうはないはずです。
そして工事期間中は、基礎工事の進捗(しんちょく)具合によって、急な納入をお願いされたり、反対にしばらく保管しなければいけなくなったりと、納入のタイミングがよく変更されます。現場の状況に合わせて柔軟かつ即時に対応できるのも、事前に大量の製品をストックできているからこそです。
----なるほど、生産力もさることながら、製品の保管能力も鉄骨業界では重要なのですね。では、もう一つの強みはなんでしょうか?
加賀谷氏:内製比率の高さです。同業他社には、「切断や穴あけといった鋼材の1次加工は下請けに任せる」という会社も多いのですが、弊社は1次加工から完成まで一貫して自社工場で行っています。これにより、生産スピードをコントロールできるため、納期遅延はまず起こりません。そして、内製化によってコストを抑えることができるため、東北からの輸送費用が多少かかっても、全国に製品を供給できているわけです。また、製品の品質管理も内製化しているからこそ目が行き届きやすいと思います。
土地開発や総合建設業の分野へも進出。地域の発展に貢献し続ける
----2011年の東日本大震災では、復興関連事業にも取り組まれたと聞いています。
加賀谷氏:2012年には、沿岸部の山田町で復興工事に従事する作業員の方向けにホテル事業を始めました。以前から宿泊施設が少ない地域で、作業員の方々が片道数時間をかけて復興現場に通われていると聞いたためです。
またその前年には、建築事業を立ち上げています。こちらも復興のお手伝いをしたいという思いで始めた事業で、鉄骨製造から建築工事まで一貫して手がけています。しかし、復興が一段落した今、「地域企業の応援」という事業目的に変わってきています。
大型案件を得意とする当社は、幸い順調な経営が続いていますが、地元に目を向けると、経営が苦しい同業者も少なくありません。そこで中小規模の建設案件を弊社が率先して受注し、地域の建設関連会社にお仕事をお願いするという協力関係を目指しています。もちろん、鉄骨も自社製造するだけではなく、地域の同業者に依頼する。地域企業と役割分担して、共に発展していけるビジネスモデルを築き、当社のパーパスである「カガヤく未来をつくる」を実現したいと思っています。
----企業としては、今後どのような展開をお考えでしょうか。
現在は株式会社カガヤを中心として、土地開発を担う株式会社カガヤ不動産と、総合建設業を営む株式会社カガヤ建設の2社もグループ企業として展開しています。鉄骨製造業を軸としながらも、互いにシナジーを発揮しながら付加価値の好循環を実現し、東北を盛り上げて活性化させていく、そんな存在になりたいですね。
鉄骨製造における研究開発とは?
続いて、研究開発室 室長の工藤 哲也さんに意気込みを聞かせていただきました。地元出身の工藤さんは、大学でエネルギー工学を学んだあと、八戸の電気設備工事・メンテナンスメーカーに就職。3年ほど勤め、2001年にUターンしてカガヤに入社されました。以来、品質管理部門に22年在籍。現在は研究開発室 室長を兼務しています。
----どんなことをご担当にされているのでしょうか。
工藤氏:入社から5年間所属していた品質管理部門では、主に超音波を用いた溶接部の内部欠陥検査を行っていました。微小な傷の位置や大きさ、種類などを検知する探傷器で波形変化を見て、鉄骨内部に亀裂や破損がないか状態を推察していくため、判断に悩む場面も多い仕事ですが、それが私にとってすごく大きなやりがいにつながりました。
一方、兼務している研究開発室では、お客さまが立ち会われる検査工程での品質に関する説明、製作工法の技術検討会への出席、工場作業者向けの勉強会の開催などを担当しています。また、それだけではなく既存の作業工程を簡略化し、製造プロセスを効率化すべく溶接技術の研究開発にも取り組んでいます。事例として、溶接ロボットを使用した狭開先施工があります。この新たな施工の実証実験で良好な結果が出たことを受けて、受注案件での採用を推進し、施工実績を順調に増やしています。開先と呼ばれる溶接で埋める部分を狭くできるので、溶接量と溶接時間を削減でき、生産効率向上とCO2削減に寄与します。
このような日々取り組んでいる技術開発の成果については、「カガヤ技報」という技術報告書にして対外的にも発信し、年に数回開催される専門学会でも発表しています。
----カガヤのホームページには「感動させる製品をつくる」というキャッチコピーが掲げられています。それを実現するために必要なことは何だとお考えでしょう。
工藤氏:「納期を遅らせずに、間違いのないものを、スムーズに届けること」に尽きると思います。当たり前のことかもしれませんが、何の問題も起こさずに安定した製品を提供し続けるというのは、なかなか難しいことです。「カガヤに頼めば間違いない」と思ってもらえる仕事を継続することが、その先の大きな“感動”につながっていくのではないかと思います。
地域での暮らしを大切にしながら、国家的なプロジェクトにも参画できる
再び、加賀谷社長にお話を聞きました。
----いま直面している経営課題は何かありますか。
加賀谷氏:やはり人材ですね。年に2回、外部講師をお招きして溶接の勉強会を開催したり、部署を横断した全社的な情報交換会などを開催したりと、人材育成には力を入れているのですが、そもそも就職希望者数が少ないという問題があります。今後も高校生・専門学生・大学生の会社見学やインターシップを行うなどしながら、人材採用を続けていきます。
----あらためて、盛岡で事業活動を続けている意義についてお考えを聞かせてください。
加賀谷氏:地域でのびのびと生活しながら、日本を代表するような建造物の建設に携われること。それがカガヤで働くことの良さではないでしょうか。自分の子どもたちにも自慢できるような国家的なプロジェクトに携われる機会は、地域の企業だとなかなかないのではと思います。小学校・中学校・高校・大学への学校訪問なども継続しながら、次世代を担う子どもたちにも、ファブリケーターという仕事のスケール感や魅力を伝えていきたいと思います。
----最後に、今後の目標をお願いします。
加賀谷氏:ここ数年、鋼材価格が高騰していることから、鋼材の使用量を減らしつつ耐久性を維持するために、鉄骨の構造は複雑化してきています。要求品質がかなり高くなってきているので、それに応えられるよう、今後も技術研究に注力していきたいと考えています。
その技術力をベースに、地元の企業や研究機関と連携しながら、地域活性化に貢献できる新しいビジネスモデルの構築にも取り組みます。“カガヤく未来をつくる”というパーパスを実現できるよう頑張りますので、どうぞご期待ください。
----ありがとうございました。
<取材を終えて>
オリックス株式会社 盛岡支店 次長 黒川 研一郎
私自身が、以前に建設足場のレンタル会社に勤めていたこともあり、大変興味深くお話を聞かせていただきました。技術力の高さはもちろん、さらなる体制強化を目指して挑戦を続ける企業文化や、地元・岩手に対する貢献、さらにリーマンショックや東日本大震災、コロナ禍などの影響を受けながらも、それを乗り越える企業としての芯の強さ…。そうした数々の点が評価されて、全国から依頼が舞い込んでいることがよくわかりました。オリックスグループとしても、カガヤの地域活性化の取り組みを応援していきたいと思います。
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