ともにつくる、誰もが参加しやすい社会 
「誰もが参加しやすい社会」をつくりたい。こんな壮大な想いに対して、ヤマハだからこそ音楽を通じてできることがある。「おとまち@福井」と「She's Got the Groove」そんな二つのプロジェクトに共通する「Key」をどうぞ。

音楽の力で人と人とをつなぎ、福井の街を盛り上げる「おとまち@福井」。音楽を通して女性の自己表現を促し、彼女たちの自信に満ちあふれた人生を後押しする「She's Got the Groove(SGG)」。この二つのプロジェクトに共通するのは、音楽の力で「誰もが参加しやすい社会」をつくる、という強い決意である。

人と人とを結びつける「音楽の力」とはなにか。そして、当事者と周りの人たちをひとつにして活動を広げていくために必要なことはなにか。福井と中南米、遠く離れた場所でヤマハが取り組む二つのプロジェクトには、携わる人たちが自分と他者との境界をなくし、「自らの物語」として紡ぎ続ける姿勢が息づいている。ひとごとではない、すべて「自分ごと」の世界――これこそが、「誰もが参加しやすい社会」をつくるための最も重要な「Key」である。

音楽は、あらゆる壁を取り払う

なぜ、音楽はまちづくりに効果的なのか? ヤマハミュージックジャパン サービス事業戦略部で「おとまち@福井」を担当する増井純子はこう話す。「音楽は心の扉を開けるスピードが速いんですよ」。世代も楽器経験も異なるさまざまな人が集まるサークルでも、ひとたび一緒にセッションすれば、初対面でも気持ちが通いあい、会話が弾む。実際、福井県に広がる音楽によるまちづくり事業(以下、おとまち)の活動では、10代から80代までのさまざまな人が同じサークルで和気あいあいと活動している。

「言葉以外のコミュニケーションで、楽器初心者から経験者まで、みんな一緒にアンサンブルできる。それが音楽の一番の力だと思います。初対面の人たちがともに音楽を奏で、『楽しいね』って打ち解けていく。そんなシーンを、これまで何度も見てきました」(増井)

  • 株式会社ヤマハミュージックジャパン サービス事業戦略部 増井純子

「プロや経験者だけが集まるプロジェクトにしない」というのはSGGでも意識していることだ。オンラインコンテスト「SGGチャレンジ」では、誰もが自分の演奏する姿を動画に撮って参加できる。ヤマハ・デ・メヒコの公式Instagramでは、演奏の巧拙で選別することなく、参加者全員の映像を投稿している。描き出されたのは、多様な人々の楽しそうな笑顔がはじける、カラフルでインクルーシブな世界観である。

そんな二つのプロジェクトの担い手が大事にしているのは、参加してもらうためのハードルを下げること。「うまくなりたい」と思う気持ちは尊いけれど、演奏技術を上げることだけが音楽の楽しみではない。音楽にはいろいろな関わり方・楽しみ方があることを、おとまちとSGGは伝え続けている。

SGGの最大の目的は「すべての女性たちに自己表現の機会を提供すること」と、プロジェクトリーダーのアルベルト・ドラドは語る。ヤマハは勇気を持って人前で演奏を披露してくれた女性たちを全力でサポートする。それを見たほかの女性たちが彼女の姿に憧れて楽器に興味を持つようになり、さらに多くの女性たちの挑戦の物語が生まれる。彼女たちのチャレンジ・ストーリーは互いに共鳴し合い、自然と、ポジティブな挑戦のサイクルが生まれていくのだ。

「自分ごと」がサポートの輪を広げる

どちらのプロジェクトにおいても、ヤマハの担当者はそのコミュニティーの当事者ではない。だからこそ増井とドラドは、「自分ごと」にすることがなにより大切と話す。「ほんとうに『自分の住んでいる街をこうしたい』と思うかどうか考えながら、おとまちに携わっています。福井の人の立場になって、自分ごととしてほんとうにこれでいいのか考え続けています」(増井)。

一方のドラドは、「忙しさなどから、男性である自分は、時に問題意識が遠のいてしまいがち」と正直に認めた。「でも、シンティアのように一緒に活動している女性たちが、なぜ活動しているのかを思い出させてくれる。日頃から女性とともに仕事をし、彼女たちの想いに寄り添うことが重要なのです」。

  • ヤマハ・デ・メヒコ セールス&マーケティング部 アルベルト・ドラド

当事者以外にも「自分ごと」を広げていくため、ドラドたちは年間を通じてSGGの活動を行っている。「母の日」や「国際女性デー」といった記念日だけ盛り上がっても、日々の問題はなかなか改善しない。だからこそ、ヤマハ・デ・メヒコは毎月SGG関連のイベントを開催したいのだ。

実際、担当者が自分ごととしてプロジェクトに取り組む姿を見せることで、部署や会社の垣根を越えてサポートの輪が広がり始めた。ドラム演奏の動画を送るオンラインコンテストとして始まった「ドラム・チャレンジ」は、ヤマハ・デ・メヒコの部門横断企画へと発展し、いまではあらゆる楽器を対象にした「SGGチャレンジ」になった。地元の人たちの中にも共感の輪は広がり、ある女性ジャーナリストは社会にこの活動を発信する役目を買って出てくれた。

「おとまち@福井」でも、増井はともにプロジェクトに取り組む仲間だけでなく、他部署と幅広く連携し、支え、支えられていると語る。「支える側は、もっと大きなものに支えられていないと、人を支えることはできないと思います。私自身、ヤマハという会社に支えられていなければ、こうした価値ある仕事に取り組めなかった。『音楽のことはヤマハにお任せください』──そんなふうに言える環境があることに感謝しています」(増井)。

音楽で伝える文化と想い

増井とドラドは自分たちのプロジェクトの未来をどのように描いているのだろう。「おとまち@福井」が掲げるのは、市民が自分たちの手でおとまちを続けていけるよう自立自走できる仕組みをつくるという目標だ。ヤマハのノウハウを共有してサポートを続けつつも、最終的には市民が自立して活動できるようにする。それが実現できれば、ヤマハとの協働期間が終わってもおとまちの車輪は力強く回り続けていくだろう。

その先に、地域の歴史や伝統に根づいた「音楽のまちづくり」が行われるようになるといい。増井はそう望んでいる。「おとまちはいろいろな地域で活動していますが、地域のDNAやそこに根づいた伝統音楽と融合した時に、ほんとうの意味で『その地域のまちづくり』になると思います。それぞれの地域に合う楽器や楽曲を使い、その文化が継承されていく。最終的には、そうしたことを実現できたらいいなと思っています」。

  • 「おとまち@福井」音楽サークル ジョイントコンサート(2024年3月)

一方、SGGの考える次のステップは、活動の幅を広げ、より多くの人に知ってもらうことだ。「いつか私も参加してみたい」と思ってくれる女の子たちが増えることをヤマハ・デ・メヒコは願っている。また、「現在はアマチュア向けのイベントがメインだが、プロ奏者を目指す人向けのワークショップや男性も参加できるイベントも検討したい」とドラドは語る。SGGの活動の幅をさらに広げ、女性の問題解決のために始まった「She's Got the Groove」の名称から「She(彼女)」の文字がいらなくなったら、どんなに素敵だろう。

まちづくりも女性の抱える問題も、ひとりでは解決できない大きな社会課題だ。だからこそ、コミュニティーも、ジェンダーも、組織の垣根も越えて取り組んでいかなければならない。その時のキーワードが、恐らく、「自分ごと」なのだろう。異なる人々を結びつける音楽の力によって「誰かの想い」が「みんなの想い」になる。その先に、すべてを包摂するグッドな社会が輝くと信じて、増井とドラドは今日も人々の想いに寄り添い続けている。

(取材:2023年10月〜2024年1月)


ともにつくる、誰もが参加しやすい社会
#1 福井県が挑む、音楽によるまちづくり

ともにつくる、誰もが参加しやすい社会
#2 中南米の女性たちに自信を与える音楽

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