指導ではなくコーディネート
梅津 あと、上司になったとたん部下を指導しなくてはいけないと思い込む人は多いですね。指導する能力があればその前から先輩として指導していたでしょうに。
――梅津さんは部下の指導はしていなかったんですか?
梅津 私は上司として指導したことはほとんどありません。その代わりにコーディネートをしていました。ある分野で突出した能力を持っている人に頼んで、その人に指導してもらいます。コーチ役を頼むのですね。
――その教える方も管理職の方ですか?
梅津 いえ、立場は関係ありません。能力がある人が教えればいいと思っています。上司の責任のひとつとして若い人の育成がありますが、自分で育てる必要はない。組織全体で育てる仕組みを考えればいいだけなんです。そのかわり私も聴かれたら徹底的に指導しますよ。その時の私は上司ではなく、コーチです。
――上司だからといって自分から教えるということが間違っている?
梅津 「ここがわからない! 教えてほしい!」と思っている人に教えれば吸収できます。でも、教えてほしいと思ってない人に指導しても逆効果なこともある。だから優秀な人に話を聴くときには「あの人のここがすごいよね。ぜひ話を聞いてみようよ」と声をかけるんです。
――空気作りをするんですね。
梅津 上司から急に「ここはこうしたほうがいい」と言われたら、「この上司は自分のこういう点をマイナスだと思っているんだ」と感じてしまう。でも、人に聴きに行くという形を取るとそうは思わない。「お得なやり方を聴けるんだ」くらいのイメージになるんですよ。
その他大勢の部下として扱わない
――部下を叱ることはありましたか?
梅津 それはもう(笑)。ですが人によって叱り方を変えていました。もう20年以上も前ですけど、今考えるとパワハラだと言われるかもしれないくらい。
――どんな叱り方を……?
梅津 「あなたにはこの仕事は向いていない。早いうちに他の仕事を探したほうが良いと思うよ」。仕事をはじめて一年経った部下にこう言ったことがあります。彼には仕事に対して、まだ甘い所があると感じていたからです。それでも彼は「続けたい、まだ頑張りたい」と言いました。それから20年後、彼は私の上司の立場になっていました。
――全力で指導した結果そこまで……。
梅津 入って一年目に毎日のように激しく叱った部下もいました。でも一割だけ良いところを褒める。彼は褒められたところは良く覚えている。打たれ強い性格なんですね。その後、私は彼の仲人をしました。
――そこまで慕ってくれていたんですね。
梅津 逆に、叱ったらすぐに辞めてしまうと思い一度も叱ったことがない人もいます。優秀で真面目なんですけど、それだけ自分の適性に疑問を持ちながら仕事をしていました。後になって「あの時叱られたら辞めていました」と言っていました。
――きちんと相手を見てことばを選んでいるんですね。
梅津 その他大勢の部下として扱わない。ひとりひとりと向き合うことが大切なんです。そうすれば部下にもちゃんと「この上司は自分のことを見てくれているんだ」と伝わります。それぞれ違う接し方をしないといけないんです。一律に接してしまうからトラブルが起きてしまうし、パワハラになってしまう。相手の性格や立場を意識して、ことばや表現を選ぶ。どういう状況下で、相手がどう受け止めるかを考えることが大切だと思います。そこで重要なことは、部下に対する思いはみんな平等であるべきだということです。
仕事を円滑に勧めるために職場内でのコミュニケーションは大切なもの。お互いが良い関係性を築いていればパワハラ・セクハラなども防げるのではないだろうか。職場でのことば遣いやコミュニケーションについて、ことばのスペシャリスト・ことばおじさんこと梅津正樹氏のお話が参考になれば幸いだ。
(マイナビニュース広告企画:提供 東京未来大学 城西国際大学大学院 日本パブリックリレーションズ協会)
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