「Mad Science──炎と煙と轟音の科学実験54」について


──今回日本でも発売になった、『Mad Science──炎と煙と轟音の科学実験54』というのは、どのような経緯で書かれたのでしょうか

Mad Science──炎と煙と轟音の科学実験54』(セオドア・グレイ 著/ 高橋信夫 翻訳/ オライリー・ジャパン/ 2,940円)

グレイ 私は「Popular Science」(アメリカの有名な科学雑誌)で毎月5年間、実験のコラムを書いてきた。その中から私の好きな実験を選んでまとめたのが「Mad Science」なんだ。

──写真がとっても綺麗ですよね

グレイ どの実験も一流のカメラマンに撮ってもらっていて、写真を撮るだけで丸一日かかってしまうこともある。この本の写真が他の同じような本に比べてものすごく綺麗な理由は、それだけコストをかけているから。普通の本だったら1ページ1ページそんなにコストはかけられないからね。月一回の連載だったからできたことだ。

──こんな実験を毎月考えるなんて、大変じゃないですか?

グレイ 大変だよ!(笑)

「失敗すること」について


──しかし、やはり写真はものすごく手間をかけて撮っていたのですね。本を見ると、どの写真も綺麗に成功した瞬間が写っていますが、失敗することも多いということでしょうか

グレイ たくさん失敗しているよ。そういう失敗は、YouTubeでたくさん紹介している。私の一番お気に入りの失敗を見せよう。これは本の最初のページの実験(危険すぎる製塩法/15ページ)だ。

(以下は、ポップコーンに塩味をつけるために、わざわざ金属ナトリウムと塩素ガスの激しい化学反応を利用するというトンデモ実験動画です。当然、この化学反応で生成されるものは塩化ナトリウム、つまり塩です……)


──ポップコーンが落ちてしまいましたね!

グレイ 大失敗だよ。熱で網が溶けてしまって、ナトリウムが爆発したんだ。だけどその写真は撮れた。それが、この写真(本の16ページ)だよ。一番好きな失敗なんだ。

──しかし危ないですね!

グレイ 動画を観てもらえばわかるんだけど、革の前掛けをして完璧な防御をしているんだよ……上半身はね。でもテーブルの下は半ズボンにサンダルなんだ(笑)。すごく暑かったから、厚着したくなかったんだ。

──それで大丈夫なんですか?

グレイ たしかにナトリウムはとても熱いけど、それほど遠くまで飛ばないことはわかっていたんだ。メガネで目さえ守っていれば大丈夫。

──塩素をボンベから吹き出していますよね

グレイ うん、本当に危ないのは塩素だ。この実験では街のワンブロック分の致死量ほどもある塩素を使っていた。このときも、爆発はしたけど塩素ボンベのコックだけは閉じたよ。たとえナトリウムが燃えさかっていようが、それだけはやっただろうね。

(たしかに、動画を見るとまっさきに塩素ボンベのコックを閉じてから退避している)

──そうした知識があるからこそ危険な実験もできるし、失敗しても大きな事故につながらないのですね

グレイ なんにでも失敗はあるんだけど、その失敗から何を学べるかということが重要なんだ。それに、失敗しなかったら面白いことっていうのはなかなか経験できないんだよ。

──原書には、注意書きのページに「失敗したらどうなるか」をユーモラスに描いた写真(人形が黒焦げになっている)が載っていますよね

グレイ それ、本当はバービー人形で撮ったんだ。だけど(もちろんメーカーから)許諾がおりなくてその写真は使えなくなってしまった。丸一日かけて撮ったのになあ(笑)。

──実験を見ていると、まさに邦題の通り「炎と煙と轟音」の激しいものが多いのですが、いったいどこで実験をしているのですか?

グレイ これは自宅のガレージを使った実験場だよ。

──自宅! 日本の都市部だとちょっと考えられないことなのですが、グレイさんのお宅は隣とは離れているのですか?

グレイ 自分の農場の中にあるからね。街から外れた場所だし、隣からは1キロも離れているんだよ。もっともアメリカだから、轟音がしても「銃を撃ってるのかな」くらいに思うかもね(笑)

──もしかして、近所からは「謎の変わり者」と思われているのかな、と思ったりしたのですが、その心配はなさそうですね(笑)

グレイ もちろん、近所の人は自分がどんなことをしている人間なのか知っているので問題ないよ。……次ページへ