こんにちは、産業医の武神と申します。私は主に外資系企業で毎年年間1,000人を超える働く人と、心と身体の健康相談をしています。
私たちはこの1年間、新型コロナウイルス感染症とそれに伴う新常態への変化の影響を否応なしに受けてきました。特にテレワークという働き方は、程度の差はあれ、多くの人がストレスを感じたことと思います。
人生も仕事も思うようにはいかないものです。ときには想定外のストレスがかかり、どうにも対応が難しいということもあるでしょう。そんなときにはストレスを"重症化"させないことが大切です。そこでここでは、ストレスを重症化させないためにみなさんに知っておいてほしいことを紹介しておきます。
自分のストレス症状を知っておく大切さ
まずなんといっても大切なのは、自分のストレス症状をよく知っておくことです。
人は、自らにかかる負荷が自分の許容限度を超えていっぱいいっぱいになる、つまり"ストレス"と感じると、その反応が、心や身体、行動に症状として現れます。
このうち、本人にとって一番わかりやすいのは身体症状(不眠、食欲低下、頭痛やめまい、動悸や冷や汗など)で、わかりにくいのが精神症状(やる気が出ない、億劫、不安、イライラ、憂鬱など)。また、他人にわかりやすいのは行動に出る症状(お酒やタバコの増加、遅刻や早退、会話の減少など)です。
ストレスによる症状は人それぞれ異なりますが、一度出た症状は次も出る可能性が高く、自分自身に出てくる症状はたいてい決まっています。ですから、自らのストレス症状について知っておくことで、その症状が出たなら、いま自分にはストレスがかかっている、対処が必要だという自覚を持てるようになります。そこでしっかりと早め早めにストレスに対処ができれば、重症化しないで済むことも少なくありません。
なぜ、心の症状は見逃されるのか?
ストレスによる心の症状は、気づかれず、見逃されやすく、また対処されにくいのが実情です。その理由は3つあります。
1つ目の理由として、「心の症状は、目に見えない」ということが挙げられます。 他人の心の症状に気づくことは、目に見えないがゆえに、難しい。また、自分の心の症状も、目に見えないため、気づきにくいと言えるでしょう。
自分の心の症状は、さらに2つ目以降の理由も加わり、より気づきにくいとされています。
2つ目の理由は、心の症状は、いきなり始まるわけではないということです。
例えば、ある朝、突然イライラが始まるわけではないですし、ある日突然、集中力がなくなるわけでもありません。
こうした症状は徐々に現れるため、本人は自覚しにくいのです。
多くの場合、心の症状に理解のあるカウンセラーや医師との問診の中で、「具体的にこんなことありませんか?」と聞かれ、気づかされるケースが多いです。しかし、その点に気づいたからといって、すぐに治療開始とはならずに、以下の3つ目の理由に続くことも多いのが実情です。
3つ目の理由として、自分の心の症状そのものを認めたがらない、または、その原因を精神的なストレスによる心の症状(反応)だとは認めたがらないという点が挙げられます。
これはエリートや有名企業の社員ほど強い傾向にあります。
テレワークが多くなってきた新状態では、職場の仲間とのちょっとした会話が減っている人が多いと思います。だからこそ、家族や友人と雑談相談する機会を多く心がけ、もしあれば心の症状を指摘してもらうことが、とても大切なのです。
身体の症状は、まずは年齢相応の検査が必要
ストレス反応としての身体症状は分かりやすいです。しかし、全ての身体症状が必ずしもストレスによるものとは言いきれません。こうした症状は、ストレスのせいでなくても、肉体的な不調のせいで起こることも多々あります。
例えば20代の人に度重なる頭痛や腹痛が出れば、ストレス反応である可能性は高いと言えるでしょう。しかし、50代、60代の人が度重なる「頭痛」「腹痛」などの症状を自覚した時は、まずは病院に行って身体の病気がないか検査を受けるべきです。年相応に見合った検査をして、それでも異常が見つからなければ、ストレスが原因と言えるかもしれません。
最近相談で多いのは、腰痛や肩こりです。メンタル不調の初期症状のこともありますが、在宅勤務での机や椅子などの業務環境に起因している症状も多いと感じます。ですので、もし、このような症状があるのであれば、業務環境を整えることも心がけていただけるといいかもしれません。
いつもと違う行動に、まわりはどう対処するべきか?
最後に行動に出る症状ですが、職場でも家庭でも、まわりから見ていて、これは一番分かりやすい変化です。
例えば、「衝動買い」「お酒の量やタバコの量が増える」「過食や拒食」「登校拒否」「出社拒否」「ひきこもり」などが一般的です。
特に職場では、遅刻、早退、欠勤が増えたりします。集中力が低下してミスを多発したり、仕事の結果を出すのに時間がかかるため、時間外労働や休日出勤が増えたりします。また、ほうれんそう(報告、連絡、相談)が減ったり、職場での仲間との会話が少なくなったりすることもあります。
しかし、テレワーク環境で、同僚から気づいてもらえる機会は激減しました。だからこそ、定期的にZoomなどで同僚たちと仕事の会議ではなくちょっとした雑談時間を設けられるといいですね。また、家族の指摘には真摯に耳を傾けましょう。
もしあなたが同僚のそのような変化に気づいた場合は、「ちょっといいですか? いつもと違うけれど、どうしたの?」とちょっと声をかけてあげてください。
とはいえ、自分の状態を自分がいちばんよくわかっていない、ということも少なくありません。相談した相手や、かかりつけの医者に、「原因は精神的なことじゃない?」と言われたら、端から否定したりせず「そういうこともあるのかな」と思える余裕を持ち、立ち止まって考えることも、重症化を避けるための重要なポイントと言えます。
以上、皆様の頭の片隅に、覚えておいていただけますと幸いです。