動画の投稿を初めて3年で登録者数76万人超を抱えるまでになった動画クリエイター集団「だいにぐるーぷ」。クオリティの高い映像と映画さながらの演出はYouTubeでも類を見ない完成度を誇っている。
そんな彼らに「仕事」としてのYouTubeについてインタビューする本記事。2回目となる今回は、動画作品の制作の裏側と戦略、そしてYouTuberとしてのやりがいなどについて聞いた。
■ハイクオリティな映像作品はどんなワークフローで生まれるのか
山田井 : 動画制作の流れについてお聞きします。だいにぐるーぷと言えば「1週間」シリーズに代表される大規模な企画ですが、どのようにして企画が生まれるのでしょうか。
岩田 : 週1の全体会議で方針や戦略を決めて、月に1回は限られたメンバーで進捗の確認や情報共有を行ないます。企画については基本的に僕が案を出して、メンバー全員で細かいゲーム設定やバランスをつめていきます。
個人ではかなり悩みますが、ある程度できた時点で会議にかけるので企画会議そのものは1日で終わります。企画案から決定までは早ければ1週間というところです。
山田井 : 企画が決まったら準備ですか?
岩田 : そうですね。ロケ地を探したり、企画によってはタイアップ先を探したり、機材が足りないならレンタルしたり、そうやって準備を進めていきます。企画が決まってからだいたい1カ月で撮影に入ることが多いです。
山田井 : 撮影を終えたら次は編集ですね。
岩田 : 編集はまず撮影したデータの整理から行ないます。データに名前をつけ、無駄なカットを省いて素材をつくります。 そのデータをつないでナレーションを入れると動画の原型ができあがります。この段階では、まだBGMや字幕、アニメーションなどは入っていません。これを僕らは「シロ」と呼んでいます。
山田井 : 各作業はどなたが担当されることが多いでしょう。
岩田 : たとえば「1週間逃亡生活 in アメリカ」だったらデータ整理は西尾でしたね。
西尾 : データ整理、やったなあ。
山田井 : 「1週間逃亡生活 in アメリカ」は定点の映像に加えて、バラバラに動く皆さん一人ひとりにも映像がありますから、かなり大変だったのでは。
西尾 : 1~2週間くらいかかりましたね。でもシロをつくるよりデータ整理のが簡単ですね。ただ回っているだけのシーンとか無関係な会話のシーンとかをカットしていくだけなので。
須藤 : 他の動画だと「ビビりが1週間心霊スポットで生活してみた。」は僕がデータ整理しましたね。自分がメインで出演しているので。
岩田 : シロをつくるのは僕や土井谷が多いですね。アニメーションは西尾がつくっています。最終的に飯野がBGMやナレーション、字幕なんかをつくって、仕上げるという流れです。
土井谷 : メインチャンネルの動画は飯野が最終的に統括しているんですよ。で、加藤は西尾の弟子であり、須藤の部下みたいな立ち位置(笑)。
加藤 : (笑)
山田井 : 遊軍ということですね!
■だいにぐるーぷのアメリカ
岩田 : サブチャンネルは須藤がメインで取り仕切っています。僕らのサブチャンネルは「だいにぐるーぷのアメリカ」って言うんですが、ちょっと変わった名前ですよね。
山田井 : たしかに普通は「だいにぐるーぷ 2nd」とかになりそうです。
岩田 : サブチャンネルは須藤が好き勝手にやりたいことをやるチャンネルなんです。だから自由の国ってことでアメリカ(笑)。
山田井 : そうだったんですか!
須藤 : いやでも、けっこう僕の企画、皆に反対されるんですけどね(笑)。
■動画の完成度上げるこだわりと戦略
山田井 : 配信のスケジュールについては戦略的に決めているのですか?
岩田 : 投稿したいスケジュールは決めているんですが、だいたい遅れてしまいます(笑)。ただ、タイアップがついた動画は遅れられないので死ぬ気でやっています。基本的には金曜と土曜の夜に公開することが多いですね。
山田井 : それはどうしてですか?
岩田 : YouTubeのアナリティクスを見るとわかるのですが、金曜と土曜の19時に投稿すると視聴数を最大化できるんです。ある程度考えてやっているYouTuberであれば、おそらくその日時に合わせて力を入れた企画を持ってきていると思いますよ。
YouTubeはいつでも見てもらえる媒体ではありますが、やっぱり関連動画に出たり通知のことを考えたりすると、皆がアクセスする時間に投稿することは大事なんです。
山田井 : 動画制作に関するこだわりを教えてください。
飯野 : 僕はBGMを担当していますが、たまに曲名で遊んでいます。たとえば「1週間逃亡生活 in アメリカ」でラスベガスに到着したシーンで、ザ・キラーズというバンドの「ミスター・ブライトサイト」という曲を流しているんですが、これはザ・キラーズがラスベガス出身のバンドだからです。
知らなくても楽しめるけど、知っていたらニヤリとできるしかけを入れるのが好きなんです。「樹海の奥地にある、少し不思議な村で1週間生活してみた。」でも、「悪夢」や「秘密と嘘」みたいなタイトルの曲を使ったりしていました。
西尾 : ちょっと待って、それ初耳なんだけど!
山田井 : (笑)
西尾 : 僕はアニメーションをつくっているんですが、動画シリーズによって演出や雰囲気にこだわっています。たとえば「1週間逃亡生活 in アメリカ」ならデジタルな雰囲気だし、「樹海の奥地にある、少し不思議な村で1週間生活してみた。」ならアナログな雰囲気のアニメーションをつくりました。 同じアナログな雰囲気でも樹海村シリーズと心霊スポットシリーズではまた雰囲気を変えています。編集技術も上がっているので、あらためて昔の動画と見比べてもらうと面白いと思いますよ。
岩田 : ひとつのシリーズに共通したテンプレートを僕らはフォーマットと呼んでいるんですが、僕らは企画ごとにフォーマットを1からつくり直しているんです。せっかくつくった動画フォーマットを使い回さず、捨ててしまうのは非常にコスパの悪いことなんですが、そこは動画を作り込むために妥協できないところです。動画に合わせてフォーマットを変えているYouTuberって僕らくらいじゃないかなと思います。
山田井 : たしかに、普通は一度つくったフォーマットをずっと使うでしょうね。そのこだわりには脱帽です。
■撮影も編集もキツい……それでも動画をつくり続ける理由
山田井 : 皆さんは動画の制作をするクリエイターであると同時に、自ら出演する演者でもあります。大変なことも多いと思いますが、どんなことをやりがいだと感じていますか。
土井谷 : 基本的に出演するのはぜんぶキツいです(笑)。自分がメインで出演してもキツいし、スタッフとして参加してもキツい。基本的にぜんぶキツい(笑)。
でも思い出に残りますよね。キツかったけど、なかなかできない体験ばかりです。アメリカに行ったり心霊スポットに住んだり。動画を投稿して反響があると、やってよかったと思えます。
山田井 : 一番、つらかった撮影は?
土井谷 : 無人島かな。寒さがキツかったです。
岩田 : あれは2月に撮影したんですが、公開は3月後半になることがわかっていたので、寒がっていたら見ている人が違和感を覚えてしまうから、「寒い」って言葉は禁止していたんですよね(笑)。
飯野 : そう、だからよく見ると全員震えてる(笑)。
須藤 : 特に加藤とかね(笑)。
山田井 : 須藤さんのやりがいは?
須藤 : うーん……編集はあまり好きじゃなくて撮影の方が好きです。撮影に向かう道中は楽しいんですよね。いろいろ想像しながら。でも撮影に入るとやべーなって思うことが多いから、うん、どっちもどっちかな(笑)。
岩田 : たしかに、それはわかる。編集で缶詰になると「撮影行きたい!」って思うし、撮影してると「もう帰って編集したい」って思うよね(笑)。
須藤 : もう仕事として身についているからこなせるけど。
岩田 : でも須藤は月1でウキウキしているときがあるよね。サブチャンネルの「1万円」シリーズ。1万円分、タダで飯が食えるから(笑)。
須藤 : まあ、そうだね(笑)。
山田井 : 加藤さんはどこにやりがいを感じますか?
加藤 : 僕も正直、編集も撮影も辛いです(笑)。僕が編集するのって字幕やサブチャンネルのカット編集が多くて、同じことの繰り返しなんですよね。だからやっていて面白くない。
西尾 : 夢も希望もないコメントだな!
岩田 : この記事読んでくれている人、誰もYouTuberになりたがらないな(笑)。
加藤 : 「1週間逃亡生活 in アメリカ」のときは3日目くらいから疲れが溜まっていて。早く終わらなかなと思ってたな。
西尾 : そんなこと考えてたのかよ!
岩田 : 楽しいことを挙げてよ!
土井谷 : コメントをもらえるのとか嬉しいでしょ。
須藤 : コメント見るの怖いって言ってなかった?
加藤 : それは叩かれてるかもしれないから、見るのは怖いよ! でも見ちゃうんだよね。叩かれても叩かれてなくても、反応がある方が嬉しいですね。
岩田 : 僕らからすると、加藤って一番視聴者さんに愛されていると思うけどね。本人はピンときてないみたいだけど。
山田井 : 飯野さんはいかがですか?
飯野 : 僕もキツいって思うこと多いですよ。だけど、なんだかんだ楽しいんですよね。好き勝手に動画をつくって、それにレスポンスがもらえて。コメントで褒められると、やっていてよかったなって思います。やっぱり動画が好きなんです。
だいにぐるーぷの企画はどれも大掛かりでキャッチーだ。表だけ見ると華々しく派手な仕事のように見える。しかし、動画を制作する作業とは想像以上に地道で丁寧な仕事の積み重ねなのだ。
辛いことも多々あるが、動画が多くの人に視聴され反響を得たときの喜びは何ものにも代えがたい。その喜びがだいにぐるーぷの活動を支えている。
次回はこれからのYouTubeについて彼らがどう考えているのかを探っていく。