「伝説の生放送番組『オールナイトフジ』が誕生から40年の時を経て復活!」。そんなキャッチコピーから分かるように、フジテレビのアイデンティティが宿る『オールナイトフジコ』(毎週金曜24:55~)のMCに、テレビプロデューサーの佐久間宣行が起用されたことに驚いた人は少なくなかっただろう。

佐久間は2年前の春までテレビ東京のプロデューサー、ディレクターとしてさまざまな番組を手がけ、退社後も現在まで『ゴッドタン』『あちこちオードリー』の制作を続行。一方で、フジテレビの番組に関わったという印象はほとんどない。

また、自身のYouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』をはじめ、『神回だけ見せます!』『褒めゴロ試合』(TVer)、『トークサバイバー!』(Netflix)、『インシデンツ』(DMM TV)など、最近は配信コンテンツでの活躍が目立っていただけに、地上波番組のレギュラー出演は意外性十分だった。

ただ、ネット上には初回から「真ん中の人は誰?」という声があがるなど、知名度は他番組のMCより劣るのかもしれない。今後、佐久間宣行には何が求められていくのか。ひいては、「裏側の人」であるクリエイターが表側の出演者となる上で、成否を左右するポイントをテレビ解説者の木村隆志が探っていく。

  • 佐久間宣行プロデューサー

    佐久間宣行プロデューサー

■立ち位置は作り手寄りか演者寄りか

テレビ番組のスタッフに限らずクリエイターがバラエティに出演する場合、真っ先に考えるのが「どのスタンスで番組に臨む」のか。「本来のクリエイター寄りで臨むのか」、それとも「出るからにはタレント寄りで臨むのか」というスタンスの選択が求められる。

クリエイター寄りのスタンスなら、豊富な経験、頭の良さ、高い地位などをベースにしたキャラクターやトークで、笑いや深みを生み出すことが求められる。例えば、『電波少年』の「Tプロデューサー」「T部長」として若手芸人にムチャ振りしまくった元日本テレビの土屋敏男はその1人だろう。

一方、タレント寄りのスタンスなら、芸人たちに近いレベルのトーク力、遊び心、ハイテンションなどが求められる。裏方で名前もキャラクターも知られていない分、それなりのインパクトが求められ、『サンデージャポン』(TBS系)などで暴れまくってきたテリー伊藤がその代表格だろう。

基本的にこのどちらかになるが、現場の需要が高いのは後者であり、前者の使いどころは限定的。『オールナイトフジコ』の佐久間に求められるのも、まさに後者だろう。ノリの良さやお色気も期待される金曜深夜の生放送番組だけに、今のところクリエイター寄りのスタンスが求められるようなシーンは見られない。

現状、3人いるMCの中でインパクトを放っているのは、さらば青春の光・森田哲矢だけで、佐久間とオズワルド・伊藤俊介は模索している段階に見える。番組そのものが手探り感満載だけに難しさはあるだろうが、佐久間がハイテンションでまくしたてるようにしゃべる姿を知っているファンたちにとっては物足りないのではないか。

深夜帯の『オールナイトフジコ』ほどではないにしても、バラエティはどの番組も出演者のテンションが高い。声が大きいのは当然として、前に出られるときは出てしかるべきだし、スベっても落ち込んでいられないし、わずか数秒レベルの出番に懸けるタレントも多い世界。そんなタレントの姿を見続けてきたクリエイターだからこそ、自分の「出来が悪い」「浮いている」と感じたら出ようと思わないだろう。