テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、インドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、教育分野でのブロックチェーン活用やブロックチェーンのオンライン学習サービス「PoL(ポル)」を運営するtechtecの田上智裕氏にインタビューを行いました。
学歴社会ではなく「学習歴」社会を実現したい
中島宏明氏(以下、中島) ――「田上さんとは、仮想通貨に関する連載の第30回『ブロックチェーンについて学ぶにはどうすればいい?』でやり取りして以来ですね。
2018年からPoL(ポル)というブロックチェーンの学習サービスを展開されていて、『仮想通貨やブロックチェーンってそもそも何なの?』という基礎の基礎から、ブロックチェーンの活用事例やブロックチェーンに関わる方向けの英語学習サービスなどのコンテンツがあって面白いなと感じました。文系と理系で分けて考えるようなことはしたくないですが、『文系でもわかるブロックチェーン』という感じで。学習の履歴がトークンで可視化されるのも面白いです。トークンを他のコースの受講や学習証明書の発行に使用できて、学習するほど学習機会が増えるというのも良いですよね。学びたい意欲がより高まっていく」
田上智裕氏(以下、田上)――「人には、学校のテストだけでは評価できない能力があると思っていて。それは学習意欲であったり、コツコツ続ける能力であったり、創造的な思考力であったり。『考える力』が重視されてきているとはいえ、まだ日本の学校は記憶力重視型のカリキュラムになっていると思いますし、テストもそうなっている。結果的に、学歴重視の社会になる。それでは、テストの点を取るのが上手な人が評価されることになります。それだけでは、人の評価はできないと思うわけです。だから、学歴ではなくて"学習歴"を重視したい。履歴を不正なく残せるのが、ブロックチェーンの強みですから『ブロックチェーン×教育』というのは相性が良いと思います」
中島――「そうですね。個人の信頼をお互いに確認できる技術がブロックチェーンで、時代に技術が追いつこうとしている感覚があります。人を疑うことって、すごくもったいないし疲弊しますからね。この人は学歴詐称してないかなとか、経歴詐称してないかなとか」
田上氏――「2019年に経済産業省さん、リクルートさんとの共同事業を行っていたのですが、その中で学位をブロックチェーンで管理することにより学歴詐称を防げないか、という調査を半年間行っていました。本調査から得た気付きとして、学歴だけだと誤った情報が記録されてしまうことがありますが、プロセスから記録することで学歴詐称が防げるかと。だから、学歴ではなくて学習歴なんです。海外から留学生が日本に来ることが増えていますが、留学生の学歴詐称が多いという国際問題があります。日本人からすると、大学名を言われてもローカル大学のことはわからないですからね」
中島――「確かにそうですね。私はインドネシアの人とやり取りすることがあるのですが、大学名を言われても良い大学なのかそうでもないのかもわかりません。卒業証明書も簡単に偽造できますし、外国人を採用する企業にとっても、学習歴としてブロックチェーンで証明されるのはメリットがありますね。真偽を確かめるコストや時間も削減できますし」
田上氏――「学歴社会では、どうしても格差が広がってしまいます。それを是正したいという気持ちもありますね。根幹は教育ですから、教育にブロックチェーンを活用してより良い社会をつくりたいというのが私の思いです」
個人だけでなく企業へも、日本だけでなく海外へも
中島――「最近は、個人向けの学習サービスだけでなく、企業向けのサービスにも展開しているのですよね?」
田上氏――「はい。企業のブロックチェーン導入や開発をサポートする『PoL Enterprise』というサービスを提供し始めました。これまでの運用実績を元に、企業のブロックチェーン事業の立ち上げをワンストップでサポートしています。事業立案から要件定義、開発から運用、コミュニティ形成まで、一気通貫で支援するのが特徴です」
中島――「『ブロックチェーンって良さそうだけど、自社にどう活用できるのかわからない』という企業も多いでしょうから、PoLのように基礎から活用事例まで学べるのは良いかもしれませんね。学んでも実際に事業で活用できないと価値がありませんから、立案や開発、運用まで関わってもらえる方が心強いと感じる企業も多いと思います。海外の企業との提携や取り組みも増えてきましたか?」
田上氏――「最近では、Bitcoin.comとの協業を始めました。Bitcoin.comは、仮想通貨(暗号資産)の黎明期に設立された世界的にも老舗のブロックチェーン企業です。設立以来、Bitcoinコミュニティの発展に貢献してきており、現在はBitcoin Cashのコアコントリビュータとして、ウォレットアプリの開発などを手がけています。Bitcoin.comとは、Bitcoin Cashでブロックチェーンがどのように活用されているのかについて学べるカリキュラムを共同制作していく予定です」
中島――「ビットコインジーザスとして知られるロジャー・バー氏が設立した会社ですね。老舗のブロックチェーン企業との提携は、今後さまざまな展開につながりそうですね」
ラーニングスコアで学び続ける人を支援
中島――「今後、力を入れていきたいことはありますか?」
田上氏――「自社サービスだけでなく、大学やeラーニング事業者と連携して学習歴をブロックチェーンに記録していくことです。大学の学位をブロックチェーンに記録していき、さらに小中学校や高等学校にも広げていきたいと考えています。大学全体でとなるとかなり大きなプロジェクトになってしまい、なかなかスピード感が出なくなってしまいますから、まずはコンピュータサイエンス系の学科に絞るなど、具体化して実現していきたいですね」
中島――「教授や講師の先生方など、教育現場の方々の協力が必要ですね」
田上氏――「そうですね。現場の方々から課題をフィードバックしていただけると嬉しいです。今回の新型コロナウイルスの影響で、キャンパスライフが大きく変わりました。4月に入学していても、まだキャンパスへは行ったことがないとか、教授と直接会ったことがほとんどないとか。そんな状況が続いているという話も聞きます」
中島――「教授や講師の立場からすると、『学生が理解しているかどうか』を判断するのが難しいかもしれませんね」
田上氏――「そうなんですよ。学習歴がブロックチェーンに記録されていけば、理解度も数値化できるのではないかと思っています。そのためには、教育現場の方々の協力がどうしても必要です。
『信用スコア』という言葉が最近はメディアなどで見聞きするようになりましたが、私たちは信用スコアに変わる指標として『ラーニングスコア』という言葉を掲げています。信用スコアは、学歴社会と同様、格差を広げてしまうと感じています。信用スコアを高くするロジックがわかる人の信用スコアが高くなるのは、テストで点を取るのが上手な人が良い大学に行ける学歴社会とロジックが変わりません。
ラーニングスコアをもとに、学ぶための資金や教育環境を提供して学び続ける人を支援するなどの取り組みが実現できると良いなと思いますね。正直者が報われる社会をつくっていきたいです」
中島――「そうですね。アフターコロナの未来予測はたくさんの人がしていますが、未来をつくるのは今を生きる私たち自身ですから、ブロックチェーンでより良い社会をつくっていきましょう」
次回以降も、実体験をベースに、起業や副業・複業、海外進出、テレワークなどをテーマに役立つ情報をご紹介します。