テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が、スタートアップ企業が海外取引をする際の注意点について語ります。
最近、スタートアップ企業でも、海外と取引する事業者が増えてきました。日本は、これからマーケットが縮小していくため、最初から海外を見据えてビジネスをする事業者が増えているのです。海外と取引する具体例としては、以下の通りです。
・海外企業から商品やサービスを購入
・海外企業に対して商品・サービスを販売する
・海外企業との間で代理店契約やライセンス契約をする
・海外に現地法人を立ち上げて、海外での生産や販売を行う
このような中、スタートアップ企業が海外取引を行う上で、どのようなところに注意すべきか、本稿では主に法律面の解説をします。
(1)法律・商慣習の違いを理解しておく
日本と海外とでは法律や商慣習が異なることは、最初に理解しておくべき点です。国ごとに法律は決まっており、その内容は日本とは驚くほど異なります。また、商品売買の際には、国際的にウィーン売買条約という条約が適用される場合があります。国際間の契約では、法律や条約について注意する必要があるのです。
さらに、商慣習の違いも考慮に入れる必要があるでしょう。日本の常識が、海外の非常識という例は多々あります。日本国内の取引であれば当然の前提とされていることであっても、海外企業と取引をするとその前提が通用しないのです。
たとえば、日本国内の取引であれば代金を後払いにすることも少なくありませんが、他の国では、代金は前払いであることが当然というケースもあります。このような商慣習の違いを理解していないと、代金支払い時期をめぐって言い争いになってしまう可能性があるでしょう。
このように、海外取引をする際には、日本とは法律や商慣習が異なることを前提として、しっかりとその内容を調査することが重要です。それを理解した上で、取引相手と交渉することになります。
(2)契約書の重要性
法律・商慣習の違いがあることを理解した上で、具体的な取引条件について決めておく必要があります。その手段が「契約書」です。契約書は非常に需要です。海外取引の契約書では、解釈の余地を残さないくらい詳細に規定するようにしましょう。実際、海外取引の契約書は国内取引の契約書に比べて分量が多いことがほとんどです。
国・地域をまたぐ取引であることにより、いずれの国・地域の法律が適用されるか(これを「準拠法」といいます)を明確にしておくことも重要です。準拠法の決め方としては、日本法、相手国法、第三国法という3つのパターンがあります。日本の会社にとっては日本法が最もなじみがあり、理解しやすいと思いますが、取引相手も同様の理由で相手国法(自国の法)を準拠法とすることを希望してくることがあります。その場合に、日本法でも相手国法でもない第三国の法律を準拠法とする方法もあります。
(3)代金回収方法の検討
海外企業に対して、商品・サービスを販売するなどの場合、代金回収をする必要がありますが、海外取引の場合は国内取引以上に実際の代金回収が難しいことがほとんどです。
海外企業と取引をした場合、その海外企業が代金を払わない時には、最終的に訴訟等の法的手段を取る必要があります。しかし、そもそも日本で訴訟を提起できるのか、それとも相手の国で訴訟をしなければならないのかという問題があります。さらに、訴訟で勝ったとしても、海外企業に対して差押えができるのか、相手の資産をどう調査するかのハードルがあります。
そこで、次の方法をとることも検討する必要があります。
・代金を後払いではなく前払いにする
・銀行の信用状(L/C)を出してもらう
・保証金の差し入れ等の担保を取る
以上のように、海外取引をする場合には、国内企業と取引する場合と異なるリスク管理が必要になります。十分注意するようにしましょう。
執筆者プロフィール : 中野秀俊
グローウィル国際法律事務所 代表弁護士、グローウィル社会保険労務士事務所 代表社労士、みらいチャレンジ株式会社 代表取締役、SAMURAI INNOVATIONPTE.Ltd(シンガポール法人) CEO。
早稲田大学政治経済学部を卒業。大学時代、システム開発・ウェブサービス事業を起業するも、取引先との契約上のトラブルが原因で事業を閉じることに。そこから一念発起し、弁護士を目指して司法試験を受験。司法試験に合格し、自身のIT企業経営者としての経験を活かし、IT・インターネット企業の法律問題に特化した弁護士として活動。特に、AI・IOT・Fintechなどの最先端法務については、専門的に対応できる日本有数の法律事務所となっている。