テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が、スタートアップ・ベンチャー企業における「商標権」について解説します。

  • 商標権は取得すべき? スタートアップやベンチャー企業における「商標権」

商標権とは

商標権とは、ブランドを保護するための権利です。サービス名やロゴなどに認められるものです。

例えば、ルイ・ヴィトンのマークが付けられたバッグであれば、消費者は、そのマークを信用し、高度な品質やデザイン面での信頼を前提にブランドバッグを購入するように、その強力なブランドカを保護するために認められた権利です。

このマークを表示しているから、この信用力ある企業が作っていると信頼できるという意味で、出所表示機能とも呼ばれています。

ブランドを保護するため、企業は会社名や会社のロゴ、サービス名などを商標出願し、登録することによって権利を守ることとなります。著作権と異なり、自ら商標を出願しなければ権利が付与されないため注意が必要です。

スタートアップ・ベンチャー企業は、いつ商標を取るべきか

会社設立の場合又はサービスをリリースする場合、事前に他社商標権を調査の上、商標権を侵害する可能性があるときは、会社名・サービス名を変更することを含めて検討が必要となります。

また、会社名及び自社サービス名は商標権について、いつ商標権を取得するべきかも検討する必要があります。

もちろん、最初の段階で取っておくと、サービス名などが、マネされた場合に直ちに差止請求を行う対応をとることができるなど、非常に強い権利を持ちます。もっとも、商標権の取得には、お金もかかることから、起業直後だと資金面との兼ね合いも考える必要があります。

ビジネスで知っておくべき商標のこと

ビジネスをやっていく上で、知っておくべき商標権について、解説していきます。

商標をとれない名称

上記の通り、商標とは、自社の業務に係るサービスや商品を、他社のサービスや商品と識別するための識別標識としての機能を有しているとされていました。よって、そもそも識別性のない商標は拒絶されます。

そのため、一般用語に近いような普通名称をサービス名に付けていたとしても、商標登録することはできません。以下のような商標については、商標権の対象とならないので、注意しましょう。

  • 商品やサービスの普通名称
  • 慣用商標
  • 品質表示語
  • ありふれた氏又は名称
  • 極めて簡単で、かつありふれた商標
  • そのほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

商標権侵害(類似性)の判断基準

商標登録後、自社保有の商標に類似するとみられる他社の商標を発見した場合、差止請求を行うかの判断を行います。この場合、商標権の類似性判断が問題になります。この点、以下の3要素により判断されます。

  1. 外観の類似
  2. 称呼の類似
  3. 観念の類似

「(1)外観の類似」とは、要するに商標の見た目に着目して類似するかを検討するものであり、目で認識できる要素から判断するものである。次に「(2)称呼の類似」であるが、商標の発音が類似しているかを検討するものであり、耳から聞き取れる要素から判断される。最後に、「(3)観念の類似」は意味内容から類似性を判断し、思考により認識できる意味内容が同一かどうかという判断要素となる。「企業」と「コーポレート」では、外観も称呼も異なるが、観念は同一であるという捉え方である。

上記3要素を総合考慮して判断するが、これは、専門的な判断が必要になり、裁判例でも判断が分かれるところです。少しでも、疑問に思ったら、専門家に意見を聞くようにしましょう。