あと2ケ月もすれば新入社員が入ってくる季節になりました。

ここ数年、よく現場で聞く声が、「新入社員には、主体性をもっと持ってほしい」というもの。主体性、つまり自分で考え、行動する能力のことを人材育成用語で「自己調整学習力」と呼びます。

この能力の特徴は、「後天的に身に付くもの」である点です。つまり、「誰もが生まれつきもっていて当然のもの」ではなく、「過去に、自分で考え、行動することを求められる環境にいたか否かに影響を受けるもの」なのです。

  • 新人が「自ら動かない」と悩むことはありませんか?

主体性が高い新人は少数派

例えば、新人Bさんは「こんなに主体性が高く、あらゆることに気を回せる新入社員はかつて見たことがない」と配属後に噂されるほど、高い社内評価を得ています。

その秘密は、学生時代に有名なエンターテイメントパークで3年間アルバイトをしていたこと。そこは「お客様に楽しい思い出を持って帰っていただくには、どういう行動を取ればいいか」を徹底して考える環境だったと言います。この環境が、Bさんの主体性を鍛えたのでしょう。

しかし、誰もがそうした経験を持てません。特にこれから入社するのは、昨今のコロナ禍で「行動制限」がかかっていた世代。こういった環境で鍛えられた人はそう多くないのではないでしょう。

新人の主体性を育てる「足場」をかける

そこで、主体性が高くない人の主体性を育てるには、まずは、「足場」をかけてあげ、その上で「応用」を促す「スキャホールディング(Scaffolding)」というアプローチが効果的です。

これは、始めに「どうすればよいのか?」という具体的なサンプルを例示し(=足場)そこから応用を促す(=足場を外す)方法です。

多くの新人は主体性のある行動をイメージできない

例をあげて考えていきましょう。

新入社員の主体性に課題を感じていた商社での、「新人営業職向け研修」でのこと。

人事部のDさんは、日々、朝礼で「もっと自分から積極的に、主体性をもって行動してほしい」ということを熱く伝えていました。しかし参加者たちの行動に変化は見られません。

それも当然の結果です。彼らの中で学生時代に主体性が求められる環境にいた経験がある人はほぼゼロでした。つまり「『自ら積極的に、主体性をもって行動する』とはどういう行動なのか」をイメージできないのです。

これでは、口がすっぱくなるほど抽象論を語られても、変えようがありません。私が講師として研修を実施した日もDさんは朝礼で「いつものように」熱いメッセージを伝え、発破をかけていました。

その後を引き継いだ私は、まず、次のようなメッセージを伝えました。

「先ほどのDさんのお話、私もすごく大切だと思います。講師目線からも伝えさせてください。私はさまざまな企業で研修機会を得ていますが、その準備をしていると『お手伝いしましょうか』と声を掛けて下さる方がいます。また、休憩中に『ホワイトボードを消しましょうか』といった声をかけてくださる人もいます(=サンプル提示による足場かけ)。

こうした行動は私がお願いしたわけではなく、皆さん自主的にしてくださったこと。こういった気遣いはとても嬉しいです。Dさんが話した『主体性』とは、このように、自ら進んで起こす行動のことです。そう難しいことではありませんね。とはいえ、皆さんは営業職としてこれから仕事をしていくわけですが、こういった『相手を気遣う能力』を身に付けていくことも、必要ではありませんか? だからこそ、皆さんの配属後の活躍を願うDさんが、日々、こういったメッセージを伝えてくださっていると思うのです。

そこで提案です。これから数週間、研修が続き、いろいろな講師の方が来るでしょう。この力を伸ばすため、講師に対して「どんな気遣いができるか?」を考え、行動に移してみませんか?(=応用の促進)」

この投げかけをしたところ

「研修で使用した要返却資料を、片付けの手間が省けるように『自分たち』で順番にまとめて講師に提出しないか」といった声があがるなど、さまざまな変化がみられたのです。ぜひ、このアプローチを試してみてください。