テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第155回は、10日に放送されたTBS系バラエティ特番『さんま・玉緒のお年玉! あんたの夢をかなえたろかSP2021』をピックアップする。

「日本全国から叶えたい夢を募集し、番組からのお年玉として実現させる」という正月らしいコンセプトの特番で、今回が27年目の放送となる。コロナ禍だからこそ、どんな夢を選び、かなえてあげるのか? 今年の放送は制作サイドのチョイスにセンスが問われていた。

  • 明石家さんま(左)と中村玉緒

■最初のコーナーから歓喜と笑いが満載

オープニングのナレーションは、「こんなときだからこそ夢をかなえたい!! 史上最多の夢実現」。画面右上には「年に一度のお年玉企画! 総勢36名&ビッグ企業が一般応募者にサプライズ」という文字が表示されていた。やはり今回の放送はコロナ禍を意識したものであり、だから「芸能人が一般人の夢をかなえる」という構図が多くなるのだろうか。

最初にピックアップされた夢は、「大好きな芸人さんとネタをやりたい」。番組は「夢プラス1GP」と題して、12歳女性と中川家、22歳女性とハナコ、26歳男性と陣内智則の共演を実現。いずれもファンたちは驚きでフリーズしていたが、その喜びは視聴者に十分伝わっていたし、ネタの笑いもあり、オープニングコーナーとして最適なチョイスだった。

2番目のコーナーは、過去の放送分から「サプライズ対面9連発」。名作シリーズとして、16歳男性と広瀬すず、17歳女性と坂口健太郎、伏見工業ラグビー部と綾瀬はるか、18歳女性と福士蒼汰、25歳女性と『A-Studio』の笑福亭鶴瓶、63歳女性とさんま、30歳・28歳夫婦の結婚式にさんまとほいけんた、福井商業チアリーダー部とサンボマスターの対面映像を短時間のダイジェスト版で次々に流した。

放送が3時間半に伸びたからか、それとも、撮影や経費などの面でコロナ禍の影響があるからなのか。その理由は分からないが、このダイジェスト版では感動も笑いも十分に伝わらず、これなら番宣番組でノーカット版に近いものを見せたほうがいいだろう。事情はあるとしても、このコーナーだけ中途半端な印象があった。

番組は再び新作の夢実現に戻って、「子どもの夢 爆笑3連発!」へ。1つ目の夢は、8歳少年の「織田信長になって鉄砲隊に命令したい!」で、信長に扮して鉄砲隊を率い、コロコロチキチキペッパーズ・ナダル、すゑひろがりず、ティモンディ・高岸にクリーム砲を浴びせた。感動よりも笑い寄りの映像だったが、それでも「みなさん僕のためにがんばってくれてありがとうございます。明日から普通の小学生に戻ります」というコメントで感じよくオチをつけるところがこの番組らしい。

■「夢」を最高の形でかなえるスタッフたち

2つ目の夢は、2組の双子女児を産んだ母親の「6歳次女に大好きなパンダを抱っこさせてあげたい」。これはさすがに実現不可能のため、スタッフはパンダのぬいぐるみなどを集めたパンダハウスを作り、国内最高峰の特殊造形スタジオが4年かけて作ったリアルな着ぐるみ「サンサン」を用意した。

3つ目の夢も、5歳の息子を持つ母親による「いすゞCMに出演する大ファンの大友康平に会わせてあげたい」。まずは大友康平のモノマネをするりんごちゃんが登場して笑いを誘ってから本人が登場。少年は大友がCMで着ている「大友工務店」の作業服をプレゼントしてもらったほか、トラックで一緒にドライブし、お気に入りの海岸で遊び、大好きな讃岐うどんを食べ、CMのテーマソングを歌い、大満足の表情を見せた。

続くコーナーは、「2大スターが夢の共演」。まずは「憧れの菅田将暉と共学ライフを体験したい」という女子高生の夢を実現した4年前の映像を流し、これ以降「共学ライフ」の応募が殺到していることが明かされた。

そんな「共学ライフ」シリーズの第2弾に選ばれたのは、神奈川県の女子高生18歳で、憧れの芸能人は千葉雄大。バイきんぐ・小峠英二のナビゲートで、「イケメン転校生」「ガン見デッサン」「傘グイ」「初めての告白」という4つの胸キュンシーンを体験した。

なかでも特筆すべきは、『アオハライド』『ストロボ・エッジ』などの作品が次々に実写化される胸キュン界の巨匠漫画家・咲坂伊緒が、告白シーンのシチュエーションを描きおろしたこと。この番組は、織田信長の鉄砲隊にクレー射撃の日本王者、パンダの着ぐるみに最高峰の特殊造形スタジオを手配するなど、「最高の形で夢を実現させよう」という姿勢が徹底されている。さらにこの夢には、「撮影日を女子高生の誕生日に設定し、最後に千葉が手作りのお守りをプレゼントする」というダメ押しのサービスシーンもあった。

「2大スター」の2人目は上白石萌音で、27歳女性が実現したい夢は、「一緒に歌いたい」。応募理由は、「食品メーカーに勤務し、コロナ禍で営業と工場の板挟みになって疲弊した心を上白石の歌が元気づけてくれたから」だった。このような視聴者が応募理由に共感できるものが、メイン級の企画となるのだろう。

ただ、翌々日スタートの上白石主演ドラマ『オー!マイ・ボス!~恋は別冊で~』の番宣絡みであることが気になった視聴者は多いのではないか。その意味で、「上白石は4年前の当番組にも出演していて、その際にコメントをまとめられず、さんまにダメ出しを食らう失態を犯していた」という再出演に至る伏線を入れることで、番宣臭を薄めていたのはさすがだった。

■花火とイルミより美しい高校生の涙

次のコーナーも、大阪に住む12歳少年による「憧れの応援団長になって応援したい」というメイン級の企画。「小学校1年生のころから応援団長に憧れ続けてきたが、コロナで運動会が中止になって実現できず落ち込んでいた」という。夢が実現することを知った少年は、うれしさで涙を流しながら、「自分でも追いつけてないくらいありがたいです」と語っていた。こうした何気ないシーンが少年の本気度を視聴者に伝え、感情移入を加速させていく。

少年は「夢SP応援団長」に就任し、「応援が必要な人」としてアンジャッシュ・児嶋一哉とAKB48・柏木由紀にエール。さらに社会人応援団23人を従えて、さんまと『オー!マイ・ボス!』の菜々緒、上白石萌音にもエールを贈り、女優2人に涙を流させた。ただ最後の「(三三ならぬ)番宣七拍子」や「(押忍に引っかけた)ボス恋」というかけ声は、局内事情が見えるようで感動を薄めた感がある。

そして事実上のメインコーナーだったのが、17歳男性の「彼女との約束を果たすためにサプライズで花火を打ち上げたい」。コロナの影響で約束していた花火大会に行けなかったが、来年から花火師なって忙しくなるため、「最後に花火を一緒に見たい」という。しかも男性は「3歳ころから地元の花火を見て感動し、花火師を目指していた」、恋人女性も「母を亡くしたときに見て感動して以来、見続けている」という応募理由に心を揺さぶられる。

そんな2人に番組側は、「イルミネーションアワード」で5年連続日本一に輝いた栃木県の「あしかがフラワーパーク」を貸し切り、愛知県在住の2人を呼び寄せるなど、最大限の誠意で応えた。美しいイルミネーションと花火が、さらに美しい高校生カップルの涙を誘う、素晴らしいクライマックスだったのではないか。

■「芸能人に会う」企画の多さは気になるが…

最後にフェードアウト用の箸休め的な企画として、「ファンレターの返事をくれて教員試験に合格に導いてくれたティモンディ高岸に会いたい」という女性の夢をかなえて番組は終了。

朝日奈央の「芸能人のお仕事ってめっちゃいいなと思いました。知らないところでいろんな方が元気になっているので、こちら側もさらに頑張れますよね」というコメントに、さんまが「こりゃ芸能人、しっかりせねばあかんなと。医療関係とか今、大変だから……我々(の仕事)もこうなれば、医療(みたいなもん)やな。分かった! 今年も笑わすわ」と応えたエンディングトークが今回の放送を総括していた。

近年、夢の実現が「憧れの芸能人に会う」というリーズナブルなものが多くなり、かつてほどのスケールや物語、そして感動はないのかもしれない。予算面の難しさを想起させるシーンも少なくないが、それでも応募者たちの笑顔と涙を見ていると番組とスタッフの正しさを感じてしまう。

演出面を見ても、各コーナーに芸人を入れて一般人を置き去りにせず、笑いの手数もきっちり確保していたし、ソーシャル・ディスタンスを守った上で楽しませるなどのコロナ対策もしっかりしていた。また、今さらながらではあるが、各コーナーの最後に「夢実現」という言葉で締めくくる構成は、心地よい余韻を残しながらもキレがよく次のコーナーに進めるなど、随所にうまさが見える。

それにしても、人々が見せる満面の笑みには癒やされる。しかもそれが芸能人ではなく、一般人ならなおのこと。コロナ禍の今だからこそ、「自分の人生にもこんないいことがあるかもしれない」「人に言える夢を持つことは素晴らしいことなんだ」と思える『夢SP』は、今年もやはりいい番組だった。

第1回放送の1995年から2000年では正月3が日に放送されていたが、ジワジワと放送時期が遅くなり、近年は1月10日前後で定着していた。コロナ禍の今回は「27回目にして初の元日放送」でも良かったのかもしれない。

■次の“贔屓”は…長州力を軸にした斬新企画『追跡!長州ツイートトラベル』

『追跡!長州ツイートトラベル』(左から)河田陽菜、コカドケンタロウ、長州力、石田たくみ、竹内まなぶ (C)KRY

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、16日に放送される山口放送制作・日本テレビ系バラエティ特番『追跡!長州ツイートトラベル』(10:30~11:25)。

「長州力に山口県を自由気ままに旅してもらい、そのツイートを頼りに追跡する」という斬新な企画の特番。長州と言えばその名前通り、山口県が生んだ稀代の名レスラーであり、さらに謎のツイートで爆笑を集める旬の人物だが、自らが軸となる番組は少ない。ナレーションを「長州力に最も詳しい芸人」の長州小力が務めることも含めて、放送前からいい感じの脱力感がただよってくる。

ローカル局が制作してキー局をネットする「上りネット」の番組であり、休日の昼前後に放送されることが多いが、その現状や可能性にも言及していきたい。