原作の存在するドラマを皆さんはどのように楽しむだろうか。自分が作品に接した時の記憶や得た知識を再確認しながら楽しむという方もいれば、まっさらな状態で作品に没入するという方もいるのではないだろうか。ある程度の知識があったほうがおもしろいシーンもあれば、それが重要なファクターではないこともある。TBSのドラマ『恋する母たち』のように、原作とはまったく違い、いい意味で視聴者を裏切る形の最終回を描くドラマだってある。楽しみ方は十人十色、千差万別である。

  • 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演している大泉洋

しかし、歴史物となると話はどうだろう。詳しい過程はおぼろげながらも、その大枠は知識としてあるのではないだろうか。「山川一問一答」を使い、とにかく日本史を丸暗記した筆者も大部分が記憶から欠落しているが、平家物語で描かれる中身、鎌倉幕府の成り立ちくらいは知っている……はずだった。

こんなことがあっただろうか、もしや自分の記憶違いだろうか――そう思わせてしまうのが、歴史ドラマの魅力の1つだろう。最終回のストーリーは決まっている。ではその過程をいかに描くのか。大ヒット漫画『キングダム』で大活躍する武将は、史記に1行しか記述がない武将もいる。つまり、歴史ドラマは行間を読むのではなく、行間を紡ぎ出す作品に他ならない。

これって、『ステキな金縛り』?

そんな中で好評を博しているのがNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』だ。北條義時を主人公に据え、源平合戦から鎌倉幕府誕生後までを描く。義時を小栗旬さんが演じ、源頼朝を大泉洋さんと、その他にも豪華なキャスト満載なのだが、そこは三谷幸喜氏の脚本。コミカルなテンポを大河ドラマに加えている。

特にざわつかせているのは、大泉さん演じる頼朝が悪夢にうなされるシーン。夢枕に西田敏行演じる後白河法皇が立ち、挙兵を促すのだが、これがまんま映画『ステキな金縛り』。三谷氏監督映画で、西田さんは落ち武者の幽霊で同様のシーンがあったのだ。しかし、これについて「ああ、知っている人向けの演出か」と思わないでほしい。夢やオカルト的な現象は、当時は重要な意味を持つからだ。

というわけで、ここで本題に入るが、『鎌倉殿』で平安末期に興味を持たれた方に同時進行での視聴をお勧めしたいのが、フジテレビの水曜日深夜に放送されているアニメ『平家物語』だ。

「祇園精舎の鐘の声」というフレーズから始まり、古典の授業で暗誦させられたあの平家物語。栄華を極めた平家がいかにしてその地位を追われ、没落していったかという過程が書かれたものだが、登場人物のキャラクターを私たちはしっかりと知っているだろうか。アニメでは、オリジナルの登場人物である"びわ"という琵琶法師の少女の目を通してそれが描かれていく。びわは右目だけが青く、見た人の未来が見えてしまうという特殊な能力を持ち、見えたところで何もその未来を改変する力がないことに疎ましさすら感じているといった主人公だ。父親を平家の武士に斬られ亡くしていることからも、平家からの目線一辺倒ではないことは分かるだろう。

  • 『平家物語』(フジテレビほか 毎週水曜 24:55~)
    (C)「平家物語」製作委員会

このアニメが良いところは、まず歴史物にありがちなナレーションが無いということ。説明チックではなく、平家の棟梁・平重盛らのキャラクターを存分に描き切ることによって、物語を紡いでいくのだ。その重盛ら登場人物は『鎌倉殿』の頼朝同様に夢にうなされる。陰陽師が政治的勢力を持っていたような時代なので、先述したように、夢やオカルト的な現象は重要な意味を持つのだ。

次に挙げたいのは、アニメという形式そのものだ。このような"悲劇"(いろいろなご意見があるだろうが、ここでは悲劇と表現したい)はアニメのようにディフォルメされた世界のほうが、感情に訴えるのではないだろうか。実写世界で表現する限界もあるだろう。コメディやリアリティのある冒険活劇であれば実写ドラマのほうに分があるだろうが、悲劇をアニメーションで描くことでまた一つ違った想像も働くだろうし、実世界とは切り離した感情も呼び起こすだろう。そういった点もあって、登場人物のすべてが魅力的に描かれている。清盛も単純に憎めない革新者であるし、良識派の重盛は悪夢にうなされ病没する。その重盛の長男・維盛は、戦を忌み嫌っていて初陣後も悪夢にうなされるというシーンが出てくる。

はっきり言って、これは泣ける

また、私の世代にハマりそうな要素としては、音楽だ。担当するのは牛尾憲輔氏。agraphとしても活動し、電気グルーブのツアーに帯同するアーティストだが、劇中の音楽すべてにテクノ感があるわけではない。本人がどこかのインタビューで「レクエイム」という言葉を口にしていたが、まさにその通り。合戦のシーンで躍動感のあるテクノな曲が流れていたが、その後の維盛のトラウマにもつながる絶妙な劇伴だったといえる。映画『聲の形』でもタッグを組んだ山田尚子監督との息もピッタリだ。

そして、何といっても羊文学の主題歌が素晴らしい。歴史物である平家物語であるがゆえに、最終回のストーリーが最初から決まっていると歌う歌詞。キャッチーなメロディもあわせて、現代のコロナ禍にもつながるような内容は一聴に値する。はっきり言って、これは泣ける。一度作品の世界に触れたら、オープニング映像を涙無しでは見られないほどだ。ちなみにエンディングはagraph feat.ANI(スチャダラパー)の曲で、これもまた良い。

というわけで、とにかく『鎌倉殿の13人』とアニメ『平家物語』を合わせ鏡的に見ることをお勧めしたい。最終回のストーリーを知っているのであれば、その行間を紡ぐ脚本や演出、スタッフの表現を存分に味わってほしい。特に2月16日深夜に放送される回あたりから『鎌倉殿』と同じ時期が描かれるので、是非ご覧頂きたい。

そうなると、原作にあたりたくなるのが人情だが、古川日出男さんの「平家物語」は定価3,850円。ならばと検索をかけたら、残念ながら筆者の住んでいる区内の図書館ではすべて貸し出し中。母校の大学図書館でも貸し出し中だった…もしやじんわりと平家ブーム?