平日の朝といえば、列車が最も混雑する時間帯だ。最近は増発や列車の長編成化、新路線の整備などの効果で緩和されている……とはいえ、乗車率200%の区間はまだまだ多い。ホームには乗りきれない乗客が溢れ、1本でも列車を走らせて乗客を捌きたいところだ。しかし、1970年代まで、川崎駅では東海道本線の列車を通過させていたという。

川崎駅を東海道本線の普通列車が通過していた?

JRの川崎駅といえば、東海道本線、京浜東北線、南武線が接続する大ターミナルだ。1日平均の乗車客数は18万人強で、JR東日本の駅では12位。神奈川県内にあるJRの駅では横浜に次ぐ2位だ。そんなに乗客の多い駅を東海道本線の普通列車が通過していたなんて、今では信じられない話である。その証拠を見てみよう。iPhoneアプリ『時刻表復刻版 1968年10月号』(1,500円)で確認できる。

なんと、始発から午前9時頃まで、東海道線の普通列車はすべて川崎駅だけを通過していた。これはちょっと酷くないか……なんて思ってしまうが、これによって川崎駅利用者は都心へ行けない……ということはなくて、京浜東北線の電車は停車していたし、当時は東海道本線の線路を共用していた横須賀線の電車も川崎駅に停車していた。

京浜東北線も横須賀線の大船 - 東京間も、線路の所属は東海道本線だから、正確には「東海道本線の一部の列車が通過していた」という扱いだった。路線別の時刻表を見ると通過の印ばかりで奇妙だが、実態は「快速列車が通過する」程度の話であった。東海道線と並行して京浜急行も走っていたのだが、それでも当時川崎駅を利用していた人は不便を感じていたことだろう。

混雑しすぎるから通過した……1980年に解消

それにしても、なぜ東海道本線の普通列車は川崎駅だけを通過したのだろう。当時の川崎駅は乗降客が少なかったのだろうか。いや、実はまったく逆で、川崎駅の利用者が多すぎたから通過させたという。

当時も今も、東海道本線は京浜東北線に対して快速列車的な位置づけだ。だからほとんどの駅で東海道線に乗ろうとする人が多かった。そんな状態で、乗降客数が桁違いに多い川崎駅の利用者が東海道線に集中すると、乗降のための停車時間が長くなってしまい、ダイヤが大幅に遅れてしまう。そこで、わざと川崎駅を通過し、比較的空いている横須賀線の電車や京浜東北線の乗車へと促したというわけだ。

この「東海道本線普通列車の川崎駅通過」は、1980年10月のダイヤ改正で解消された。東海道線の混雑を根本から解消するために、国鉄が横須賀線の電車を品川から鶴見付近まで貨物線を経由させて、「新横須賀線」として運行を始めたからである。東海道本線と横須賀線の供用が解消されたため、横須賀線が走った時間に東海道本線の列車を増発できた。そこで全列車が川崎駅に停車するようになった。

1970年代までの川崎駅の普通列車通過は、通勤客の増加と列車ダイヤの維持を両立させるための苦肉の策だったというわけだ。