鉄道路線の立体交差化が進み、大都市では踏切を見る機会も少なくなってきた。ところで、踏切といえば黄色と黒の縞模様をイメージする。標識、遮断機、周辺の柵も黄色と黒。JRも大手私鉄も地方私鉄も第三セクター鉄道も黄色と黒。なぜなら、JIS規格で決められているから。他にも、JIS規格はかなり細かく踏切の色を規定している。

  • Google画像検索で「踏切」の結果を出してみた

JIS規格とは、工業標準化法にもとづき制定された国家規格だ。工業標準化法とは、自由に放置すると多様化・複雑化するモノや事柄について、国レベルで統制すると定めた法律である。製品の規格を統一すれば、互換性が高まり、効率的に量産でき、消費者に低価格で提供できる。工業製品を作る会社に対して、基幹部分は統一して利便性を高め、付加価値的な部分で競争するように促す効果もある。

ちなみにJISは「Japanese Industrial Standards」の略。直訳すると「日本の工業の規格」となる。だから本当は、「JIS規格」だと「S」と「規格」の意味が重なってしまう。「JIS」または「JI規格」が正しいとはいえ、「JIS規格」という言葉が広まっているため、ここでもJIS規格としよう。ちなみに、パソコンで扱う日本語文字を扱うプログラムコードにもJIS規格がある。

JISの規格を調べてみたところ、JIS規格で踏切を扱う項目は「JIS E 3701」だった。そこには踏切に関する細かい約束事が定められていた。

「踏切に使う色」は黄・黒・白・赤の4色と定められている。黄色と黒は標識や遮断機、柵などに使われる。赤は警告灯だ。白が定められているけれども、塗装としてはあまり見かけない。標識に設置する看板「とまれ見よ」や「非常ボタン装置」、黒い機器に記入する文字を想定しているかもしれない。

海外ではおもに白と赤を用いた踏切標識、遮断機、柵を見かける。白はJIS規格に入っているから、海外風の踏切も作れる……と思ったら違った。JIS規格では、踏切標識、遮断機、柵について黄色と黒を使うように定められ、さらに塗り方も指定されている。

  • 踏切標識(JIS規格では踏切警標) : 地色は黄色。交わる面及び各面の中央部は黒、裏面は黄色とする。

  • 踏切遮断機(腕木式) : 柱は黄色、柱と腕木は黄色と黒を交互にしたしま模様。しま幅は黄色が180~300mm、黒が120~200mmとし、黄色と黒の幅の比率はほぼ3:2になるように。

  • 踏切遮断機(腕木式標板付き) : 腕木に複数の板を吊り下げるタイプ。柱及び腕木は黄色。標板は表が黄色と黒のしま模様。裏は黒。しまの幅は黄色が150~210mm、黒が100~140mm。黄色と黒の幅の比率はほぼ3:2になるように。しまの角度は45度。標板の角は黄色。

  • 自動遮断機(機械で腕木を上下するタイプ) : 機構部、遮断棹取り付け金具、おもり取り付け部は黒。平行おもりは黒または黄色。遮断棹の色は腕木式と同じ。なお、機構部は黒だけの他、棹と同様の黄色と黒のしま模様を主とする。

  • 昇開式踏切遮断機 : ロープを上下するタイプで、ロープの下に標板を吊り下げるタイプ。標板については上と同じ。

  • いらすとやさん、雰囲気は合っているけど、惜しい……わざとかな

「×」型の踏切標識の中央が黒、さらに黄色と黒の幅の比率や角度まで決められているとは驚きだ。ちなみに、Googleの画像検索で「踏切」を表示させると、なるほど日本の踏切はJISに準じた色になっている。でも、中には「×」がすべて黄色だったり、「×」の中央が黄色という踏切もある。細かいけれど、これはJIS規格に反している。

ただし、JIS規格は任意標準といって、JISに適合しない製品の製造、販売、使用などを禁じてはいない。JISに適合しないことを納得すれば、JIS規格外の踏切標識を販売してもいいし、使用してもいい。

しかしJIS規格外の製品にJISマークを付けるなどの行為は罰せられる。経済産業省の公式サイトによると、罰金は最大100万円から1億円に引き上げられる改正法案が閣議決定され、今国会に提出される予定だという。その法案では、JISの正式名称も「日本工業規格」から「日本産業規格」になるそうだ。

踏切を見かけたら、標識の「×」の中央を確認してみよう。黒だったらJIS規格だ。